33話・役得? なんて考えていたら
過ぎた日々に思いを馳せていたら、シュネが言った。
「お姉さまは髪を結うのがとてもお上手なのよ。髪結いになりたかったって言ってた」
「それは無理だろうな」
「どうして? お姉さまは誰よりも上手で才能があると思うのに?」
「リズは俺と結婚する事が決まっている。髪結いだなんて貴族の奥方がすることじゃない」
夢見がちなシュネに、リズは俺と結婚する事が決まっている。辺境伯の妻となったら髪結いどころじゃないからな。と、言えばふくれた。
「そんなのおかしいわ。どうして貴族令嬢は髪結いをしてはいけないの?」
「そうよ。王妃さまだって髪結いの係りの女官をお持ちだわ。その人達だって貴族の身分をお持ちじゃない? どうしてお姉さまはやってはいけないの?」
「それは──、こればかりはリズには諦めてもらうしかない」
貴族の奥方は手に職など持たないのは現状だ。それを説明しても、今の五つ子達には理解しにくいだろうな。と、思っているとそれぞれ俺の腕をもち、二手に分かれて引っ張り出した。
「アーサーの横暴」
「アーサーの馬鹿」
「アーサーなんて嫌い」
「アーサーのいけず」
「アーサーなんてお姉さまに振られちゃえ」
俺を非難しながら、五つ子らはお互いに相手をけん制するように腕を引っ張る。おいおい、これはどうなっているんだ? こいつ等そろそろ思春期だっけ? 理解不能な行動に入ってきたぞ。
腕に纏わり付く五人は可愛いけれど。
役得? なんて考えていたらびりりっと派手な音が上がった。
「おっ。おい、こらぁ。おまえ達、しがみ付くな。あっ」
上着の片袖が肩から外れていた。五人はパッと俺から離れうな垂れる。自分達の仕出かしたことに気が付いたようだ。




