21話・じゃあ、食うなよ
「まるで保護者だね」
「放っておけ。おまえはちゃんと見てろよ。危害でも加えようとしたら許さないからな」
「はいはい。アーサーはリズ至上主義だもんね。気をつけて見ておくよ」
アーサーはわたしを見てから、カミーレに言っていた。意味が分からなかった。それでもカミーレには通じているようだ。
二人が話している中、視線を感じて顔をあげると、こちらを睨むパメラ王女と目があった。別にあなたの大好きな弟君を取り上げたりはしませんよ。と、いう目で見返せば彼女は慌てて目を反らす。一体、何だろう?
神経がごりごりと削られるような時間を過ごし、孤児院の子供たちと鬼ごっこをして楽しんだ後、子供たちのお楽しみのおやつの時間がきた。
食堂でわたしが家で焼いてきたクッキーがそれぞれ皆の前に配られると、それを見てパメラ王女が余計な一言を言ってきた。
「なにこれ? これがお菓子ですって? ずい分と貧相な。こんなのわたくしに食べろというの?」
パメラ王女の馬鹿にしたような言葉に何も言えないでいると、アーサーが「じゃあ、食うなよ」と喧嘩を売った。いや、凄んだと言った方がいいかも。パメラ王女は「ひぃっ」と、悲鳴に近い声をあげたから。
「アーサー」
いくら好意的じゃない相手とはいえ、相手は王族さまだ。下手に逆らうとどんな目に合わされるか──と、思ったところで、下手な目にあわされるのはパメラ王女ではないかと気が付いた。
黒狼の一族はプライドが人一倍強いと聞く。特に男性は好戦的な一面も持ち、相手を敵と認定すると容赦なく叩き潰してきた。と、確かこの国の歴史書に書かれていたはずだ。
パメラ王女はアーサーに睨まれて真っ青になっていた。アーサーの一睨みは怖いのよね。殺気だった視線は周囲を黙らせる威力があるもの。周囲は静まり返っていた。
「このチョコチップクッキーは最高だな。俺はこれが一番好きだ。他のお菓子は甘ったるすぎて食べれたものじゃないけど、これは素材の味が生かされているから甘い物が苦手の俺でもいくつでも食べれる。俺好みの味だな」
「ええ、姉上食べないの? 勿体無い。僕もリズのクッキー大好き。姉上、食べないならそれ僕に頂戴」
アーサーを必要以上に刺激しない為か、カミーレが口を出してきた。誰でもいいです。この場を治めてくれるなら。世の中、平和が一番ですから。彼をこれ以上、怒らせないで。
そこへ妹達がとびっきりの笑顔で言ってくれた。
「「「「「お姉さまのクッキーはとびきり美味しいの」」」」」
「そうだよな。リズのクッキーが一番だよな」
その声にアーサーが顔の強張りを解いた。満面の笑みを浮かべる。良かった。平和が訪れた。よくやったシュネ達。と、心の中で妹達を労っていると、アザリア王妃から嬉しいお言葉を頂いた。
「リズはお菓子作りがお上手ね。味も焼き加減もとてもいいわ。また作ってくれるかしら?」
「気に入って下さってありがとうございます。アザリアさまが宜しければまた用意させて頂きます」
「楽しみにしているわ」




