12話・アーサーが妹達に甘い理由
ドレスの着替え途中だったことを思い出した。恥ずかしい。その場にしゃがみこもうとする前に、腰から背中のジッパーが上に上げられていた。
「ほらまた油断しすぎだぞ」
肩越しにアーサーが囁いてくる。
「止めてよアーサー、近いから。ちょっと離れて」
「分かった」
やけに素直なアーサーだと思っていると、顔を横に背けながら言った。気のせいか耳が真っ赤に染まっているように見える。
「おまえにまた倒れられたら五つ子が心配する」
「何だかんだ言ってアーサーは、シュネたちに優しいのね」
「そりゃあ、皆、可愛い俺の妹みたいなものだからな」
「ふ~ん。カミーレとは違うわよね?」
「アイツは別だ。シュネたちは純粋に可愛いだろう?」
妹を可愛いと言われて嬉しいけれど、あのカミーレにも、もう少し優しくしてあげてもいいんじゃない? と、思っていると不意打ちで言われた。
「皆、おまえの小さい頃にそっくりだしな。俺達の子供が生まれたらあんな感じに育つんだろうな」
アーサーがシュネたちに甘い理由が判明した気がした。擬似父親を体験しているような気持ちでいるらしい。つい、アーサーとの間の子供を想像してしまった。アーサーに似た黒狼の息子が出来たなら、きっと父親に似て生意気に育つのかも。それとも元気一杯の子供になるとか? アーサーのミニ版なんて。やばい。溺愛してしまいそうだ。
口元が緩んでいたようで、アーサーが訝る目線を向けてきた。
「アーサーさま。お待たせいたしました」
そこへララがアーサーの袖を直した上着を持ってきた。もう袖をつけ終えたようだ。
「さすがだな。仕事が早い。助かった。うちのお姫さまをエスコートするのに、王妃さまの前でみっともない格好は出来ないからな」
アーサーの言葉でそういえば、孤児院訪問は王妃さまもご一緒するのだったと気が付いた。ララの後からやってきた侍女のマリーがバスケットを差し出して来た。中にはわたしの焼いたクッキーが入っている。
「お嬢さま。クッキーはあら熱をとってから入れておきました」
「ありがとう。マリー」
「支度は出来たな? じゃあ、行くぞ」
アーサーが腕を差し出して来たのでそれに手をかけた。




