104話・王子の悪癖
「ラメル殿下。宮殿で部屋を用意するのでそちらに向かって頂けますか? 当家から馬車は出すので」
「姉上も一緒か?」
「それはちょっと……。セージはどうする?」
「私はこちらで御世話になることにします」
「じゃあ、私もそうする」
ラメルの言葉にロリアンが抵抗を示した。セージを窺うように見る。いくらそっち方面に疎いわたしでもピンと来た。それに面白くなく思うのはラメル殿下で食い下がってくる。
「なぜそいつの意見が必要なんです? 姉上さまは俺と一緒に行かれますよね?」
「私はセージとこちらにご厄介になることにするよ。ここにはリズもアーサーも可愛い天使達もいるから」
可愛い天使たちと言われて気を良くした五つ子達が、ロリアンの周囲に群がった。ラメルと引き離すように盾になる。
「ロリアンはわたし達と一緒にいるといいよ。王子さまはお城へどうぞ」
「おおっ」
ラメル殿下は初めて五つ子達の姿に気が付いたようで、目を丸くした。
「な、なっ。なんだ? 陰険うさぎと同じ頭が五つもある?」
「それは失礼ですよ。殿下。こちらは愛らしいお顔立ちをしているではないですか。五つ子なのでしょうね。可愛らしい」
驚くラメルの側で冷静に解説するジャン。この二人にはセージはあまりよく思われてなかったようだ。
「ラメル。実はな、そなたが会いたい人はお城に住んでいるんだ」
「じゃあ、行きます!」
この場の皆が「即決かいっ」と、突っ込みそうになっていた。ロリアンが不安そうに訊ねる。
「良いのか? すぐにはもしかしたら会わせてもらえないかもしれないが……」
「姉上。ご心配は無用です。この姿から分かってはいました。彼女は金虎獣人であるからしてこの王家に関係するものではないかと。きっと大切にされた深窓のお姫さまに違いありません」
良いところを突いてる。と、アーサーと目配せしあった時だった。王子が爆弾発言を落とした。
「ですから俺は誠心誠意、この姫にこの想いをお伝えしたいと思います」
「は?」
「うそ?」
「まじか?」
ロリアンに、アーサーに、セージが三人三様、さまざまな反応を見せた。話が見えていないはずの五つ子達もラメルの手にした絵姿で、誰の事を言っているのか察したのだろう。アーサーの両親らと共に苦笑を浮かべていた。
「ラメル。それは難しいかと思うぞ」
「姉上。応援はしてくれないのですか?」
「ラメルは惚れっぽいからな。今度ばかりは義母上に同情するよ。なあ、セージ」
「本当ですね。これは病ですね」
「姉上はあのババアの肩を持つのですか? 黙れ。セージ。今度こそ運命の恋をしたのです。間違いありません」
ロリアンはセージと顔を見合わせため息をついた。どう言うことなのかと思っているとセージがこそっと説明してくれる。
「王子は実に惚れっぽいし、飽きっぽいんだ。あれは悪癖と言ってもいいな」
どうも今までに宮殿で可愛い侍女を見つければ言い寄り、視察先で美少女を見れば口説く。付き合っても相手がその気になってくると、飽きたと言っては捨てるので、陛下や王妃のもとに苦情が上がっているらしく、未だに王子に婚約者がいないのは、王子の悪癖を聞きつけた高位貴族たちが陛下から婚約を匂わす度に辞退を申し入れるのだとか。
セージの言っていた、病んでいるというのはそういう意味かと納得した。
────そんな王子が女装のカミーレに惚れてしまった?
騒動が起こりそうな気がしてならない。ロリアンは参ったな。と、ジャンを見た。
「どうして止めなかったんだ? ジャン」
「殿下はまっしぐらになってしまって私の注意など聞いてくれません。王女殿下。助けて下さい」
「無理だ。今回ばかりは覚悟した方が良さそうだぞ。ジャン。この国との国交に支障をきたすかも知れない」
「それはどういう意味ですか? 殿下」
ジャンはごくりと唾を飲み込んだ。




