太陽と月のエスケープゲーム
「華々しい祝い方って言われても……。
この部屋を色々と弄るのに結構費用掛かっちゃって、エンディングをそんな豪華な仕様に出来なくてさ……」
気まずいのか、ぽりぽりと頭を掻くその姿は数時間前に会った時から変わらないラフな格好。
その線の細い体の向こうには最初に通された部屋とは違い、パソコンや周辺機器、専門書が並ぶ本棚などがあり、もしかしたらここは彼の仕事部屋なのだろうか?
「さすがにリアルに花火をあげるなんてのは個人としては無謀だよな、って諦めたんだけどね」
「そこで花火っていう選択肢に行き着くのってどうなのよ」
腕を組んで非常に悩ましそうにしているのを見ると、一応は真剣に考えていたようだ。
突拍子もなく方向性のズレた真面目さに呆れた反面、そこで『花火』という提案が第一に出てきたことにまた一つ確信を持つ。
「……で、なにか私に言うことがあるんじゃない?」
まどろっこしいのは嫌なのでズバリ本題をぶつければ、彼はうっと喉を詰まらせて、数拍。すうっと大きく息を吸った。
「もしかして……途中で気が付いていたのかもしれないけど、実は俺……ムーンフリークスの制作者なんだ」
長い間の後、やっとの思いでそれだけを言葉にした彼は、重たいため息を吐いて俯いてしまう。
「ずっと隠していてごめん。
けど、あんなに俺が作ったゲームで喜んでくれている君に、制作者がこんな男だなんて明かしたらもう純粋にゲームを楽しんでもらえなくなるんじゃないかって……」
不安で、と口から零した彼のなんて小さいこと。色んな意味でな。
「私が、その程度のタネ明かしで幻滅するような俄だと思っていた?」
「えっ?」
それ、どういう意味?と不思議そうに顔を上げた、器も肝っ玉も小っさい野郎にイラッとしつつ私は答えた。
「私が、ムーンフリークのサイト開設当初から追っかけしているような、ガチ勢だって知ってるよね?
1作目から最新作まで、脱出ゲームに始まり探索ゲーム推理ゲーム頭の体操系その他諸々。隅から隅まで遊び倒して普通のドンデン返しじゃビクともしない、この、私が!
実は正体が身近な人物でした~程度のタネ明かしでその人との距離を置くような、そんな薄情なヤツだと思っていたの?」
競り上がってきた言葉を一息で言い切って、荒くなってしまった息を吐き捨てると、私は一旦落ち着こうと、組んだ腕をぎゅっと握りしめた。
「そりゃあ、今こうやって面と向かって告白されればビックリはしたよ。
でも、それよりも、自分がずっと憧れていた存在が目の前にいたんだって、すごく嬉しかった。
ありきたりな言葉だけど、奇跡ってあったんだなぁって」
私にとってこの出会いは、きっと奇跡としか言いようがなかった。
でもそれは私の一方的な自己満足なんかではなかったんだと、彼にも言葉にしてほしかった。
「俺……、自分が作った作品を他人から評価されるのって、苦手だったんだ」
先ほどとは違い表情も見えないぐらい顔を下げはしなかったが、目蓋を伏せるのは緊張と不安から来る彼なりのサイン。
彼は自身の主張や内面を言葉にするのが極端に苦手、それで極度の緊張で目を合わせられなくなってしまうから。
「サイトでゲームとかを上げるようになってから、プレイヤーからの感想とかメッセージが直に送られてくるようになって、多分そうやって反応があること自体はすごく良いことなんだと思う。
その中には好意的じゃない言葉もあるけど、でもそれはそれで改善点として受け取れるからいいんだ。
ただ……」
ぽつりぽつりと、自分自身の心を探りながら言葉を紡ぐ彼の目線が、ぎこちなく逸らされた。
「自分が込めた想いとは違う受け取られ方をされた時、そうじゃないって言いたいけれど、その人の考え方を否定してしまうんじゃないかって、傷付けてしまうんじゃないかって。
……不安で、こわくて、たまらなくて……」
横を向いた彼がメガネを押し上げて目を擦ったあとに、指が濡れているように見えたのは、見なかったふりだ。
「でも、そんなジレンマに悩んでいた時、友人が励ましてくれたんだ。
そんな風に思い詰める必要はないって。自分が精一杯力を尽くして作った物なら、それを理解してくれる人も必ずどこかにいる筈だからって。
その場凌ぎの同情だったとしても、俺はそんな友人達にとても支えられた。
それに……本当にそんな人が現れて、救われたんだ」
そこで、ずっと彷徨ったままだった彼の眼が、不意にこちらを捉えた。
「俺が今までゲームという隠れ蓑に落とし込んでいた、俺自身が声を張って伝えたかったことを、俺よりも純粋に言葉にしてくれる存在。
日向。君に出会えて、俺は色んなことに気付かされたんだ」
真正面から見た彼の目はうっすらと潤んでいる、でもその奥の瞳をいっそう輝かせて見えるのは私の気のせいだろうか。
「俺がその制作者だと知らないからこそ、フィルターのない一個人としての率直な意見。
それが本当に俺が伝えたかったことを素直に受け取ってくれていたことが、言葉に出来ないくらい嬉しかったんだ」
「もしかして、それって『星の泪』の話をした時の……?」
あの女々しくも号泣していたのは伏せて訊ねてみれば、そう、とゆっくりと頷いた。
「それだけじゃないよ。
自然体でゲームをプレイしてる人だからこそ陥る改善点を知れたり、俺がゲームを円滑に進行してもらうギミックっていう認識でしかなかったキャラクターや演出に魅力を感じてくれたりだとか。
そういった反応の一つ一つが俺にとっては思わぬ発見で、自分の糧になっていたんだって。
その大事なことを気付かされてくれたのは、日向なんだ。
……本当にありがとう」
ふっと小さく笑みを作ったその口から次々と語られるのは、私にしたら本当に些細な言動だったと思う。
けど、彼にしてみたら本当に嬉しいことだったのだ。
それはいつだったか、たまたま彼の好物を作った時に見せた時の笑みと、そっくりだから。
「………で、それはそれ。コレはコレ、だけど?」
「えっ?」
コレと言って指した、っていうか裏拳でドンと叩いたのは突っ立ったままの私の後ろにある、例の告白まがいの扉だ。
コイツ……、今の語りでやりきった感醸し出していたけど、こっちは全く別物の話だからな。
「だから、コレは一体どういうつもりなのかって話を、具体的かつ私にも納得いくように説明しれやってこと」
「えぇえ~……」
「まさかとは思うけど、これから買い物に行くのに付き合ってください、なんて笑えないオチじゃない、よね?」
ジロリと横目で睨めつけてやれば、それはないと首を振って力一杯否定したものの、そこで再び閉口。
先ほど問い詰めた時とは違い落ち着きなさそうにソワソワする様は、何ともまあ優柔不断で頼りないことか。
待てど暮らせど肝心な言葉は一向に出てこず、これは待ってあげる方が酷かな、と自分の上着の胸ポケットに目を向けた所で彼は口を開いた。
「俺にとって……日向は『太陽』だったんだ」
その声は呟くような小ささなのに、その言葉はやけにハッキリと私の耳に届く。
弾かれたよう顔を上げれば、彼は眩しそうに懐かしむようにその目を細めた。
「最初に出会った日、見ず知らずの俺を疑いもせずに助けて、しかも問答無用でご飯を食べさせるとか、どんだけ能天気な人なんだかって思ったんだよ」
「うっ……。それはちょっと押しつけがましかったかなって、反省してるって」
今思えば、倒れてた人を家で様子を見るんじゃなくて救急車を呼んだ方が無難だったし、しかも自分が食べたかったからってあんな暑い日にオムライス食わすとか、我ながら後先考えてなかったよなぁ。
「違うよ、そういうことじゃなくて。
何の見返りがあるかなんてことも考えずに、誰にでもすぐに手を差し伸べる。そんな君の行動力が、羨ましかった。
俺は……考えすぎて行動に移せなくて、後悔するばかりだったから」
悔しそうに口を結ぶ彼は、過去にそうやって歯がゆい思いを繰り返してきたのだろうか。
けどそれは直情的な私からしてみれば、きちんと考えてから最適な行動が起こせるという長所だと思う。
私みたいに何であんな事したんだろうとか、ああすれば良かったという後悔にはならないのだから。
「それから君の所を何度訪ねてみても、半ば強引に引きずり込まれるし、」
「ちょっと、引きずり込むって何。私が拉致監禁してるみたいなその言い方」
うっかり感傷に浸ろうとしていたのに、つい、コイツの言い草にツッコんでしまった。
「ち、違うって。物理的な話じゃなくて……いや、最初の方は実際圧を掛けられて逃げられない雰囲気だったような」
「オイ」
「いやだって、お礼の菓子詰めを渡しに行った時俺の予定とか確認しない内に上がっていけとか、脅迫じみていたんだけど。
帰りのチケットとってあったらどうするつもりだったの?」
「それは、そうなった時に考える」
「うわぁぁ、真正の行き当たりばったりだ……。
これだから我が道を突っ走るタイプって厄介なんだよなあぁ」
「オイ、この野郎」
「だからそういう女の子なのに口悪いのも拍車かけてるんだっ、ゴメンゴメン!そんな睨まないでってば!
もう……なんで俺の話を真面目に聞いてくれないんだよ……」
真面目に聞いているけど前置きが長い上に、肝心の言葉が出てくる気配がないからイラっとしてるんだろうが。
だからこうして横やりを入れるのも致し方ないことだ。
と、言いたいけど言えないので、私は素直に黙ってあげることにした。
「まあ……そういう所も君らしいというか。
そうやってこっちが考え込み過ぎて暗くなりそうな時でも、いつだって日向は思わぬ形で俺を思考の泥沼から引っ張り上げてしまう。
まるで、誰彼構わず強制的に光を浴びせる、太陽みたいに」
過剰評価だ。いくらなんでも太陽とか大袈裟過ぎる。
というか、あの部屋の飾りといいこの喩えといい、いちいち笑っちゃいそうなくらいポエマーだ。
でも、そんな風に言われて別の意味で笑いそうになるこの表情筋を抑えようと、私は頬が引きつるのを感じた。
「日向の言動に、困ったり可笑しくなったり、嬉しくなったり不安になったり。
泣かされたり、笑わせられたりして。
俺はこんな表情や気持ちを抱くことが出来たんだって、自分の知らない自分を知る度に。
君の……底知れない光に引き寄せられていたんだ」
だから、と一歩前に進んだ彼の瞳には緊張と決意が滲み、一筋の光が反射した。
「もっとずっと、君の近くに居たい。
君の側にいる俺と、俺の側にいる君を、もっと見て知っていきたい。
今までの曖昧な関係から脱却して、日向とこの先のステージに一緒に進んでいきたいんだ。
……実は、さっき日向に渡したのはこの部屋の合鍵なんだ」
ハッとしてあの鍵をしまった胸ポケットに触れれば、ここにいるぞと言うような確かな感触が手に伝わる。
自分の部屋の鍵を渡すということは、それはつまり、自分が他の人よりも信頼した特別な存在という意思表示なのだろう。
かくいう私も友人どころか家族にも合鍵なんて渡していないのだから、多分そういうことだ。
「もし君が俺と同じ思いだっていうのなら、その鍵を受け取ってほしい。
そうじゃなければ……、鍵を置いてそのまま出て行って、ほしい」
それだけ言い切ると、彼は背にしていた部屋の扉へ続く道を開けるように横にずれて、私に背中を向けてしまった。
痛いほどの沈黙が流れるこの空間に私も少し緊張しつつ、さてこの独善的で早とちり野郎をどうしてくれようかと、つい口角が上がってしまう。
どうもコイツの長ったらしい前置きから察するに、どうも私は彼の想定外の行動ばかりしているらしい。
では、期待通りにサプライズを仕掛けてあげようか。
ただし、お望みに反した残念な感じのな。
私はまず胸ポケットからあの鍵を取り出して手に握りしめると、あえて足音をさせて彼の後ろを素通りして扉に行くようにみせかける。
そしてドアのノブをわざと音を立てて開けて……閉めた。
その瞬間目に見えて肩を落とした彼の正面に、息を殺して忍び寄ると素早く相手の手首を掴んだ。
「う、わあぁっ!?」
誰も居なくなったと思っていた所にこの不意打ちはそうとう威力があったらしく、ヤツは驚いて後ろに飛び退きそうになった。
しかし、そうはさせないように手首を捕まえた手と逆の手で手のひらを強く握りしめる。
その手には、キーホルダーが付いたあの鍵が。
「卯月」
「え?……え?」
部屋を出て行ったと思ったら出て行ってなくて、返事はノーではないのかと思ったら。
次はノーの場合の要求である鍵を押しつけられているこの状況に、彼は目を白黒させて混乱している。
「おしい、もう一声」
「え、はあ?」
そこで畳みかけるようにして脈絡のない発言をすれば、彼の処理能力は限界に達してしまったようだ。
ぽかん、と開いた口が塞がらない状態の見本のような姿に、指さしして笑いたいのを我慢すれば、今度は私のターン。
「私は卯月のことが好き。もちろん、異性としてって意味でね」
その一言で彼は私のおしい発言の真相に気が付いたみたいだ。
レンズの奥で見開かれた目に、女の子発言しておきながら女心も分からないなんて。と、ど突きたくなるのも無理はないだろう。
「とりあえず最初に訂正しておくけど、アンタがさっき言ってた、私が誰彼構わず優しくするみたいなの、あれ全然違うから。
私そこまで八方美人でもお人好しでもない、自分本意なんだよ。
だから最初行き倒れていたアンタを見て、嫌な感じがしないってだけで、ただの直感で、部屋に引きずり込んだんだよ」
彼とはタイプこそ違うが、私もそこそこ内向的な性格だ。
昔からの気の知れた友人にはゲーマーだとか漫画好きだとかいう所謂オタクな面を晒せるが、社会人となってから知り合った近隣の人や職場の人にはそんな面は絶対に見せられない。
それは同じく隠れオタクの同志なら大体そうだろうが、そういった趣味があるということだけで嫌悪を抱く他人がいるからだ。
もちろん嫌悪を抱かなくて、理解を示してくれる人も中にはいるけど。
「その後、アンタがお礼にとか言ってウチに来た時にやっぱり嫌な感じがしない、というかすごく気が合うなって。
もしかしたら……同じ、なのかもしれないって。
それでムーンフリークスの話を振ったら、やっぱりそうでしかも私のお気に入りのゲームのことも知っていて、本当に仲間だったってすごく嬉しかった。
まさかその制作者本人だとは思ってなかったけどね」
彼にカマを掛けたのは、きっと理解を示してくれる人だろうと、もしかしたら似た者ではないかとという、期待を抱いたから。
そうしたら案の定、自分の勘は当たっていたんだという安心と、期待以上の展開に、何だか妙な運命を感じてしまったのだ。
「それからアンタは頻繁に家に来るようになった訳だけども、まさか私が安易に誰でも部屋に入れてると思ってたんだ?」
「うっ……。いや、だって、俺だって仮にも男だってのに、最初から警戒のけの字もない対応の仕方だったから、日常茶飯事なのかと思って……」
「自分のウチの前で行き倒れの男を拾うことが日常茶飯事なわけあるか!」
目に見えて狼狽える彼は、焦りからか繋げている手のひらがジットリと汗ばんできている。
……いや、もしかしたら私の汗りなのかもしれない。
「卯月だったからだよ。
卯月にだったら私の全部を見せてもいいかなって、そう思えたから、何かと理由をつけて内に入れていたんだよ」
彼が人畜無害そうだからというのはきっと建前で、本当は自分の内側をさらけ出せる存在になって欲しいなんて、あまりに身勝手なことを願っていたんだ。
「まあでも私の思い描いた理想像とはちょっと違って、なんか気ぃ抜けてたり突拍子もないこと言い出したり、急に大号泣するわ人の言うこと聞かないわで、何なんだこの野郎はって何度か引っぱたきたくなったけどね」
「なんで日向ってそう口とか手が出やすいのかな……」
「うっさいわい。そいうアンタは手も出さないし、口にもしないしでどんだけ私がモヤモヤしたと思ってんだ。
……でも、今日は違った。私が言って欲しかったけど聞けなかったこと、全部話してくれてスッキリした」
確かに彼は無体を働くような性格でも度量もなかったし、他人のことを頭ごなしに否定するような狭い考えの人物でもなかった。
けれど、良くも悪くも私の期待を裏切るような行動で、私の極々微小な乙女心を大いに掻き乱していったのも確かだ。
それと同時に何かを隠している彼に対して、私はそんなに気を許せないような、信頼の置けない相手だと思われてるんじゃないかと、胸がくすぶる思いが何度かあった。
だけども、そんな不安を、卯月は全部払拭してくれた。
本当に、自分でも気付かなかったこの夢見がちになった原因は、きっと目の前のゲーム制作者によって学生時代から移され育まれていたに違いない。
そうほくそ笑んで、私は握った手のひらをゆっくりと外した。
「私が太陽なら、あなたは月だよ。
どんなに楽しい日でも、あなたがいなければ私は先に進むのが億劫になってしまう。
どれだけ辛い日だって、あなたが来てくれれば私は安らかに眠ることが出来てしまう。
月がいずれやって来るのを知っているから、太陽は毎日変わらずに空に昇ったり沈んだりすることが出来るんだよ」
彼の手に残されたのは、満月のキーホルダーが付いた鍵。
卯月はこの脱出ゲームの制作者だから、この鍵がここから脱出するための鍵でないことはすぐに分かっただろう。
もちろん、太陽のキーホルダーが付いた卯月の部屋の鍵でもないのだから、選択肢はある程度限られる。
「日向……この鍵の形って、もしかして……」
今まで色々な鍵を見てきた彼は、一目見てこの鍵がどういった物を開ける為の鍵なのか勘付いたのか。
「なんでかさあ。趣味が似てると、考え方まで似てくるのかなあ?
どうやら私も卯月と全く同じことを企てていたみたいなんだよね」
まさか相手を、太陽だの月だのロマンチックな空の物に喩える所まで一緒だとは思いもしなかったけども。
「じゃあ、やっぱり……。これは日向の部屋の合鍵?」
半信半疑で窺って来た彼に「せいかーい」と拍手を贈ると、私は胸ポケットを探って対の鍵を取り出した。
「クイズに正解した卯月には素敵なプレゼントをあげましょーう」
「……プレゼント?」
「もう一回告白し直せるチャンスを与えてあげよう」
「えっ……やり直しって、どんな無茶ぶりだよ……」
飄々として卯月から渡されていた太陽の鍵をひょいっと投げ返せば、彼は困惑しつつも反射的にそれを受け取ってしまう。
さっきの告白でも卯月なりに頑張っていたのだと思うが、やっぱりその言葉はハッキリと言ってほしいというのが乙女心というもの。
だからこんなムードもへったくれもない流れで悪いけど、やり直しを希望する!
「……日向」
短い沈黙の後、はあ、と溜め息を吐いた卯月の顔には呆れというか、苦笑いが浮かんでいる。
「はい、なんでぇしょうか」
対して、私の表情はニヤけるのが抑えきれないのが自分でも分かる程。
そんな私をマジマジとみた彼は回避不可だと悟ったのか、今度は諦めの溜め息を吐いた。
「俺は日向のことが好きです。
こんな脱出ゲームばっかり作っている俺で良かったら、付き合ってください」
差し出された手には、私だけの鍵が。
「私も卯月のことが好きだよ。
こんな脱出オタクな私ですが、どうぞよろしくお願いします」
彼の手のひらごと握りしめると向こうもそっと握り返してきて、何だか可笑しな状況に二人して声を上げて笑い合った。




