第十二話:増やすより進めることが謎の鍵
「なあなあ!なんでダメなんだよ!つーか名前教えろや!あたしらの名前だけ一方的に知ってんの不公平だろオラ!」
「そんなこと私の知ったことではありませんわ~。それに私野蛮なことは苦手ですの。面白い話を聞きたかっただけですわ」
「だー!クソ自分勝手だなテメー!」
ぎゅーしょくから出ても【あまの】さんと褌お嬢様の攻防は続いていた。
粗暴な口調の【あまの】さんの声は楽器を鳴らしたかのように綺麗なのに、お嬢様口調の人は野太い声。
なんだか頭が混乱しそうだ。
声を交換する『星力』とかあったら試してみたいかもしれない。
「【テル】さんはあの方の説得に参加しないのですか?思考力は優れていると思うのですが」
【ひとみ】さんは褌お嬢様の勧誘合戦には参加せず俺の隣で二人の戦いを見守っている。
興味がないのかな?
俺はといえば、
「そうですね。善人だとは思うんですが、本人に全くやる気がないのに無理に誘っても、あまり意味がない気がしてまして」
という感想になる。
【あまの】さんは穴埋めに積極的だし、【ひとみ】さんも俺たちを手伝う意思がある。
でも褌お嬢様は名前すら伏せているあたり、本当に手伝う気が無くて、ただただ面白がってるだけに思える。
まあもし万が一【あまの】さんが勧誘に成功するのであれば、断ることもないけど。
「なるほどです。でもほとんどの方は先程言った通り、穴の存在は人類の罪だと思っています。少しでも興味を抱いているあの方であれば、多少は可能性が高いのでは」
まあ、それもそうだ。
でも・・・
「それならなぜ【ひとみ】さんは参加しないのですか?」
【ひとみ】さんは興味がなさそうだと思ったけど、聞く限り褌お嬢様の参加には肯定的なような言い方だ。
「【テル】さんと同意見だからです。【アマノ】さんが成功すれば歓迎しますが、失敗するならそれはそれで」
俺と【ひとみ】さんはくすりと笑い合って勧誘合戦の終結を待つことにした。
しかし・・・暇だから改めて牛飯推の景色を眺めてみると、やはり未来都市という言葉がしっくりくる。
初めて街に入った時は褌一枚なのが気になってあまり余裕がなかったし、花嫁衣装でぎゅーしょくまで移動したときも歩くので精いっぱいだった。
ゆっくり時間が取れた今、見回して見ると俺の知る最も発展した都市よりも随分と進んでいるように感じる。
背の高い建築物がずらりと並んでいるのは元の世界と同じような感じだけど、かなり上の方で人や牛が空中を歩いているのが見てとれる。
・・・いや、よく見れば透明の通路があるようだ。
地面だけではなく、空中すらも移動経路として使うなんて、元の世界では難しいと思う。
一応高速道路や高架橋はあったけど、高層建築のさらに上に透明の通路を作ってしまうなんて、技術力の高さが伺える。
これに加えて『星力』もあるのに、それでも穴をどうにもできなかったのか・・・。
でも今は俺の『星力』である『おれもそれつかいたい』、【あまの】さんの『星力』である『らぶ・はーとふゆーじょん』もある。
いろいろ試して、方法を探っていこう。
・・・ところで、【ひとみ】さんの『星力』って何なんだろう。
「あの、【ひとみ】さん。【ひとみ】さんの『星力』について伺ってもよろしいですか?」
「ふむ。そういえば言っていませんでしたね。私の『星力』は『ハイド・ウォーク』。足音が1時間後に聞こえるようになります。くだらないでしょう?」
いやいやそれはかなり役に立つ『星力』だ。
穴をどうこうするのには関係なさそうだけど、尾行とか、美術館で静かに歩きたいときとか、すごく便利だ。
もしかしたら黒い靄の存在に対しても有効かもしれない。
足音で追跡されるなんてことがあったら、【ひとみ】さんの『はいど・うおーく』の出番がきそうだ。
「その場では足音が聞こえなくなりますが、1時間後には聞こえてしまいますし、何より匂いや足跡はそのままですから。あまり意味はないのです」
「いえ、とても役に立つ『星力』だと思います。それに足音が一時間後に聞こえるということは、事前に『星力』を使った後に足音を出しておいて、一時間後にその場に戻って今度は『星力』を使わずに歩けば二重に足音を出せるという使い方もあるのではないでしょうか」
「それは・・・考えたこともありませんでした。いえ、それが何の役に立つのかはわかりませんが。でも使い方は足音を消すということだけではないですね。・・・ふふ、やはり【テル】さんは変態です」
おっと再び変態扱い。
でも笑いながら言っているあたり、良い意味っぽいかな。
褌一枚で変態と言われた時よりだいぶ柔らかな表情だし。
「もう!しつこいですわ!私、もう行かせて頂きます!」
「おうおう行っちまえ!はん!あたしたちの仲間になんなかったこと後悔させてやんぜ!」
「まあ!捨て台詞が三下ですわー!」
おっと、どうやら決着がついたらしい。
たぶん【あまの】さんの敗北みたいだ。
「それではごきげんよう。・・・と言いたいところですが、面白いお話を聞かせて頂いたお礼に、一つ提案がありますの」
「あぁん!?実は仲間になんのか!?」
「それはありえませんわ~!」
「強情すぎんだろテメェ!」
ふむ、提案。
なんだろう。
とりあえず褌関連は止してほしい所だ。
「提案とは何でしょう。あなたは面白い話を聞きたかったとおっしゃっていたあたり、他に面白い話でもあるとかでしょうか?」
【ひとみ】さんが眼鏡の位置を整えながら促す。
面白い話か・・・・。
穴や靄に興味がある様子だったし、関連する話だと助かるんだけど。
「残念ながら面白い話ではありませんわ。いえ、面白くなる可能性もありますわね」
「ほーう?いいじゃねえか。聞いてやんよ」
ひたすら断られ続けてもきちんと話を聞く【あまの】さんは器が大きいな。
俺は特に何もされてないから話を聞くことに否はないけど。
「それでは提案させて頂きますわ。あなた方は三度黒い靄と対峙したご様子。でもその正体や出現条件についてはまだわからないことだらけなのでしょう?」
それはその通りだ。
『ぼくのせんぞたち』によって機械語が先祖、というか元となるもの?ということはわかったけど、それくらい。
その目的やなぜ現れるのかは、仮説の域を出ない。
「それならば、仲間を増やすなどよりも、まずその黒い靄と遭遇した場所で再現できるか試すのがよろしいのではなくって?」
「一理ありますね。【テル】さんが転移する際の状況は再現が難しいというか無理でしょうが、【アマノ】さんと【テル】さんが遭遇した球でしたか?あれなら再現ができるのでは?どうやったのかわかりませんが」
「お!アレな!アレはただ穴の縁削っただけだぜ!そーすっと突然球が出てきてよ!削ったとこ直しちまったんだわ!」
「あら面白い。同じことをしてみてまた黒い靄というのが出てくるようでしたら、情報が増えますわね」
確かにそうだ。
三回の遭遇というのは情報量が少なすぎる。
この提案は乗ってもいいかもしれない。
「俺はやってみてもいいと思うのですが、お二人はどう思いますか?」
「いーぜ!ついでに『ぼくのせんぞたち』も使ってやろーぜ!」
「私も了承します。正直何ができるのかわかりませんが、観察であればお任せください」
うん、三人の意思が統一できたところで、さっそく向かおう。
「それでは私はこれで失礼致しますわ!面白いお話をありがとうですわ~。また機会がありましたらお会いいたしましょう」
褌お嬢様はそう言って踵を返すと颯爽と去っていった。
嵐のような人だったなあ。
いや、見た目的にお祭りのような人、と言う方が正解かもしれない。
「・・・・・・」
「あん?どーした【ヒトミ】?そんなにアイツ見つめてよー。やっぱ誘うか?」
「いえ、あの方の褌・・・かなり使い古されているようで一目ではわかりませんでしたが、よく見れば【テル】さんのものと非常に似ているような・・・」
また褌の話題に!
・・・いや、これは重要かもしれない。
俺の褌はこの世界では遺失技術だったはず。
それと似ているものが偶然存在する?
「本当に、何者なんでしょうね」
もう見えなくなった褌お嬢様とまた邂逅する日はくるのだろうか。
「また会うことがあれば問いただしましょう。はぐらかされる気もしますが・・・とにかく今は、黒い靄出現の再現ですね」
【ひとみ】さんの言葉で俺たちは街の出口へ向かう。
うまくいけば黒い靄との再戦。
今度こそ靄の謎の糸口を掴み取ってやろう。
*お読み頂きありがとうございました。
第三章完結となります。
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