【プロローグ】ドアマットヒロイン・コレット誕生秘話
★家事は不器用、趣味も特技もない人が転生したら、どうなるのか? 転生先が現代以前なら? 火はどうやって点けるのか? どうやって料理をするのか?
★そんな素朴な疑問から考えた話です。
「ちょっとアンタ、仕事をサボってんじゃないよ、さっさと庭の掃除を済ませなさい! でないと明日まで食事は抜きだからね! まったく鈍臭い娘だこと!」
知らないオバサンが、わたしの首根っこをつかまえて怒鳴った。
わたしゃネコか?
「聞いているのかい、コレット!」
どうやらわたしの名前は『コレット』と言うらしい。
(はぁ……お腹空いたよぉ……ひもじいよぉ……わたし、断食ダイエットなんてしたことないのに……)
※
わたしはドアマットヒロインになったばかり、ピカピカの一年生。
古ぼけた薄汚い紺色のワンピースと、紐で結んだだけのボサボサ金髪頭。ゴワゴワする下着。
友だちはいません。
百人の友だちってどうやって作るんですか、こんな《ポツンと一軒屋敷》で。
話し相手もいません。
そこら辺のネズミでいいですか、言葉は通じないけれど。
そもそもここ、どこですかね。
薄暗くて長い廊下。
いくつもの扉。
数メートル置きのキャンドル。
小さい窓。
高い天井。
らせん階段。
どことなくホッタラカシの庭園。
古ぼけたカビ臭。
街灯なんてありません。夜は暗すぎて怖いです、マジ怖いです。
リアルホーンテッドマンションですかね。
※
実はわたし、転生者になったばかりです。昨日の――ちょうど昼になったころ、この世界にワープして来たのです。
ワームホールでもあったんでしょうか。
というのは――。
大学一年生になって間もないわたしは、休日に近所の河岸段丘へ散歩に行き、崖落ちしてしまったのです――川に沿った段丘に咲いていた白くて可愛い花の写真を撮ろうとして。
馬鹿ですね〜。
その際、『あのぅ〜、わたし、もうこんな世界こりごりだから、あなた、わたしと代わってくれませんか?』と、金髪ブルーアイで薄汚れたお人形さんみたいな少女に言われたわけ。
代わるって……何を?
そしたら何と、産業革命前みたいな、シンデレラ時代みたいな、不便きわまりない世界に放り出されたのよね。話しかけてきた女の子に成り代わってしまったのかもしれない。
ということは、あの女の子は崖落ちしたわたしに転生したんだろうか。
わたしの身体は無事だったんだろうか。
あの女の子も、奇妙な世界にワープして右往左往しているに違いない。
つまり、今のわたしは金髪ブルーアイの薄汚れた、お人形さんみたいな女の子ということ? 鏡がないから分からない。
いや~、まいったな。
何時代のどこよ?
※
何の趣味も取り柄もないわたし。
地元の保育園・小学校・中学校・女子高校を経て、偏差値そこそこの地元文系女子大学の学生。
自宅から電車とバス通学。
成績は中くらい。
将来は語学を生かせる職場に就職出来たらいいな~、なんて。
ただし地元限定でお願いします。
満員電車で大都会へ通勤するのはゴメンです(田舎なのに大都会への直通電車が頻繁にあるのです、日本すごい)。
休日はひとりで近所の丘や川へ散歩するのが定番。
今のところ、クマに出会ったことはありません。
家事はパート勤めの母親がやっていたから、わたしは掃除も料理も裁縫もできません。自分の部屋くらいは片付けていたけれど。
そもそもが怠け者なので、家事などする気がないです。
楽器も弾けないし、絵も描けません。
では何ができるのか?
ネット小説を読むくらいならできます。つまり、リーディングができるわけ。
そしたら何と、転生した世界の文字が読めました、渋いオジサンの肖像画のサインを読めたから。
怖いオバサンの言葉もヒアリングして理解できました。
では話せるのか――たぶん。
文字を書けるのか――今のところ分かりません。
とにかくこんな、電気もネットもない、水道の蛇口もない、つるべ式井戸があるだけの不便な世界で生活できる気がしません。
きっとすぐに死んでしまうでしょう。
わたしに当てられた三階の部屋は、天井が傾いているから、屋根裏部屋なのかも。
窓は一か所だけ、電気なんてないから夜になると真っ暗。
月明かりだけが唯一の明かり。
たぶんわたしはこの屋敷の使用人になったんだろう。
転生先が貴族令嬢なんていうラッキーなことにはなりませんでした。
これからずっとここでこき使われるのかなぁ……。
ボ~ン、と重い音がいくつか鳴った。たぶん昔の時計の音。ドラマとかアニメで見た。
実際に見たことはない。
転生先は貴族っぽいお屋敷。
でもただの使用人。
お先真っ暗。
世知辛い世の中です。
お願い、誰か助けて。
元の世界に返してぇ!
☞転生ヒロイン心の叫びでした。
☞次回からドアマットヒロインの無自覚快進撃【進撃のヒロインあるいはヒドイン】がはじまります。




