第一話 エントリー
大学三年の神谷湊は、やりたいことも特になく、
「なんとかなる」と思いながら毎日を過ごしていた。
そんなある日、同級生のあやのに言われる。
「湊、エントリーした?」
——そこから始まった、なんとなくの就活。
雰囲気で選んだ企業。
うまく書けない志望動機。
ちょっとした成功と、普通の失敗。
それでも少しずつ、自分の言葉で考えるようになっていく。
これは、「なんとなく」から一歩踏み出した大学生が、
ゆっくりと未来に向かっていく物語。
「湊、エントリーした?」
「……なにを?」
「終わってるね」
昼の学食。
あやのはカレーを食べながら、普通に言った。
「いや、まだ三年だし」
「もう三年だよ」
「え、そんな経った?」
「経ったよ」
スプーンが止まる。
「……まじか」
「まじ」
スマホを見せられる。
インターン募集の画面。
「うわ、いっぱいある」
「あるよ」
「これ全部受けるの?」
「受けないけど、見るの」
「見るだけでえらいな」
「そこから?」
あやのが笑う。
「湊、将来どうすんの」
「うーん」
カレーを一口。
「なんとかなるくない?」
「出た、それ」
「いやでも、実際」
「その“なんとか”が怖いの」
「えー」
画面をスクロールする。
知らない会社ばっかりだ。
「……これでいいか」
「どれ?」
「雰囲気よさそう」
「一番危ないやつ」
「なんで?」
「志望動機が書けない」
「……たしかに」
少し考えて、
「まあいいや」
送信ボタンを押す。
「……送った」
「お、えらい」
「えらい?」
「えらい」
ちょっとだけ、嬉しい。
「……なんかさ」
「うん?」
「未来、ちょっとだけ動いた気がする」
あやのが少し笑う。
「大げさ」
「いいじゃん」
もう一口食べる。
さっきより、ちょっとだけうまい気がした。




