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番外 at モスク

アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。


『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。


最後に到着したのは元ゲスマンでもあるエンマ。

今はクラレンス領になったとは言え、ここに因縁の有るシャリムをわざわざ連れてきたのにはとても大きな理由がある。


それは…


お母さんの墓参りをするためだ。


僕はあのクソ絨毯男が深淵の底に眠ってから、暇を見ては無人になった男の屋敷を訪れ徹底的に調べ尽くした。


敷地周辺、関連施設も含め徹底的にサーチをかけ、それでも足りず皇都全体にもサーチをかけた。ある程度これは…と思った場所を絞り込んでからはヴォルフの力も借りてある一つの臭いを徹底的に探しまくった。


そしてついに発見したのだ。…彼の母親が眠る場所を。


恐らくゲスマンの地下で暮らしていたシャリムは来たことが無いであろうゲスマンのモスク。トラキアで見たのと同じ、丸い屋根の付いたモスク。

トラキアと違ってゲスマン皇帝は皇都をそのまま放置して自力で東に逃げ出したため既存の建物が随分残っている。


金襴豪華なのが好きだったゲスマン皇帝は皇都の建物には贅を凝らした。おかげでこれらのモスクもとても素晴らしい芸術品だ。だから取り壊さずそのまま残してあった。

その中でも最も質素なモスク近くの共同墓地に彼の母は弔われていた。

彼女を憐れんだ使用人の誰かが運び込んだのだろう。その事実にほんの少しだけ胸をなでおろした。


ものも言わず佇むシャリム。声をかけることなどとても出来ない。その場にヴォルフを残して僕はアーニー、ウィルを連れ、エンマにおける僕の別荘へと戻ることにした。



もらい泣きしていたウィルの目は真っ赤っかだ。心優しき僕の泣き虫さん。初めて会った時からちっとも変わらない。

そのウィルに子守を任せて、僕とアーニーはエンマの地図を床に広げた。


「今のうちに打ち合わせしちゃおうか。アーニー、電波塔の設置予定地だけど…」

「おう。それだけどよ。もう少し南に行ったところに廃棄された古い宮殿があるんだと」


なんとアーニーは僕がシャリムと墓参りしている間に、僕がクラレンス王に頼んでエンマに残してもらった、モスクの管理をしている現地人(奴隷商に居た中の一部ね)から聞き込みをしていたというのだ。


浅黒い肌のシャリムと違って艶やかな褐色のアーニーはどこから見ても強キャラ感がある。どこに行っても舐められる事が無いのでこういう時に割と便利だ。


「宮殿跡地か…」

「随分崩れちゃいるらしいが半分ぐらいは残ってるってよ」

「うん、それで?」

「そこに相当立派な石柱が残されてるんだと。なんでもすげーレリーフが刻まれてて、柱のてっぺんには一羽の鷲が羽を広げてるらしい」


あー、なんかイメージ湧いた。


「それを利用する気?」

「今じゃお前の持ちもんだろ?」

「クラレンス王のね。まあダメとは言わないだろうけど…」


確かに、エトゥーリアやウルグレイスと同じように、既存の建物を利用できるなら、その工期はグンっと縮まる。

目星をつけてた場所もあるにはあるけど…エンマの電波塔に手を付けるのは一番最後だ。まだまだ計画段階だし、なにも問題は無い。


そうこうしている間にアーニーは寝てしまったがシャリムはまだ帰らない。僕はウィルにフィンを頼んで、ヴォルフと交代しに行くことにした。



「ヴォルフ代わるよ。別荘で休んで来て。シャリムはずっとあのまま?」

「ああ。一歩も動かずあのままだ。積もる話があるんだろう…」


積もる話…、ゲスマンを逃げ出してからのあんなことやこんなこと、全部語って聞かせているんだろうか…。ランカスターでの捕り物、王都でのテロ事件、ダンジョンランドで遊んだことや…エルフの里に行ったことも。


ヴォルフと交代してから、さらに2時間はたっただろうか。ようやくシャリムは僕が背中を預けていた、モスクの外壁にまで戻って来た。



「いっぱいお話しできた?」

「全部話した…」

「お母さんなんて?」

「笑ってた…」


「せっかくだから歩いて帰ろう。そう言えば最近は真夜中散歩もしてなかったし」

「…昼…」

「そうだね」



しっかりと握りしめた手と手。いつになく饒舌なシャリムは帰り道も話し続けていた。レイジタウンの灯台、初めての船旅、ウルグレイスの聖堂巡り。そのどれもこれもが楽しかったと。

少し休憩、と腰を下ろしたどこかの四阿。ここも造作が素晴らしかったので温存していた小さな公園だ。


マジックバックから取り出したお茶を目の前に差し出してもシャリムのおしゃべりは止まらない。本当に珍しいことだ。初めて見たよ、こんな姿。


「もっといろんなところに行きたい。それでここにまた…」

「うん。報告に来なくっちゃね」


「イソヒヨドリが待っててくれる。だから僕はどこでも行ける…」

「うん。いつでも待ってる。いい?シャリムが帰る場所は僕のもとだ。道に迷ったら許さないよ?」

「迷ったら呼んで」


そう言って僕の胸に揺れる黒水晶を撫でるシャリム。そう。これがある限り僕とシャリムは一心同体も一緒。

その指はそのままスス…と移動し、僕の頬を固定する。すると、気が付いたら僕の視界は…オレンジの日輪をもつ闇に捕らわれていた…


半日以上水も飲まずに座り込んでたシャリム。

僕はシャリムのカサカサになったその唇を感じていた。





毎日更新を目指しています。

お星さまをぽちっとしていただけると大変大変嬉しいです。作者の励みでございます(;^ω^)


この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)

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