表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔獣図鑑 ~AIスキルが優秀すぎて無双します~  作者: 宮田 喜助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

第二十話 失われたもの


朝。


冒険ハウスの食堂に、かすかな足音がした。


階段を降りてきたルルは、明らかに眠たそうだった。

髪は少し乱れ、目の下にはうっすらと影がある。


「……おはよ」


「おはようございます」

「朝ごはん、できてますよ」


シノがそう言って、湯気の立つ皿を並べる。


「ありがとう」


ルルは椅子に腰を下ろし、ぼんやりとパンを手に取った。


ゼンはその様子を見て、軽く眉を上げる。


「徹夜か?」

「魔導書の研究、どうだ?」


ルルは一口かじってから、少し間を置いた。


「……そのことなんだけど」

「すごいことが、分かったわ」


シノが動きを止める。


「すごい、ですか?」


「ええ」

「正直、頭が追いついてない」


ルルは魔導書を机の上に置いた。



「この魔導書ね」

「七つの属性魔法が、それぞれ一つずつ記載されてたの」


「火、水、風、地、光、闇、無」

ゼンが静かに言う。


「そう」

「でも、問題はそこじゃない」


ルルはページをめくる。


「全部――詠唱も、理論構成も、まったく違うの」


シノが首を傾げた。


「……同じ魔法、ではないのですか?」


「同じ“魔法”とは思えないくらい、考え方が違う」


ルルは少し考えてから、続けた。


「おそらくね」

「魔法は、最初から一つの体系じゃなかった」



ルルは“無属性”の頁を開いた。


「見て、この無属性魔法」

「詠唱も理論も、私たちが今使っているものとほぼ同じ」


シノが頷く。


「はい……見覚えがあります」


「でも、他の属性魔法は違う」

「魔力の捉え方も、詠唱の意味も、まったく別」


ルルは指で別の頁を示す。


「つまり――」

「魔法が生まれた当初」


「七人の魔導士が」

「それぞれ自分の考え方で魔法を作った」


「その結果が、属性魔法なのよ」


ゼンは短く息を吐いた。


「……統一されてなかった、ってことか」


「ええ」



「……前に」

「ゼンの短縮詠唱を、私が真似したことがあったでしょ」


シノが思い出したように言う。


「はい」

「ですが、発動しませんでした」


「そう」

「私がやっても、何も起きなかった」


ルルは小さく拳を握る。


「あれは」

「私たちが知っている魔法理論を前提にした詠唱じゃなかった」


「原初の考え方のままの魔法を」

「そのまま短縮したもの」


「だから、理論が合わなくて発動しなかったの」


ゼンは黙って聞いていた。



ルルは一度、ゼンを見る。


「ゼンがどうして、それを使えるのかは……」

「正直、分からないけど」


一拍置いて、話を戻す。


「でも」

「私たちが今使っている属性魔法は」


「無属性魔法を基準に」

「使いやすく、分かりやすく作り直されたものよ」


「原初の考え方が、失われたあとにね」



「失われた魔法が、なぜ失われたのか」


ルルは、静かに言った。


「それは――」


「無属性以外の“原初”を知っている者が」

「何らかの形で、いなくなったから」


シノが息を呑む。


「……いなく、なった?」


「理由は分からない」

「殺されたのか、追放されたのか、封じられたのか」


「でも、結果ははっきりしてる」


ルルは魔導書を軽く叩いた。


「この国には」

「無属性魔法だけが、多く残っている」


ゼンが低く言う。


「だから、それを基準にするしかなかった」


「ええ」

「そうやって作られたのが、今の属性魔法」



シノが、静かに尋ねる。


「……それは、本物ではないのですか?」


ルルは首を横に振った。


「使えるし、効果もある」

「偽物じゃない」


「でも――」


ゼンが言った。


「俺の魔法は、再現されない」


ルルは頷く。


「ええ」

「原初の魔法を、そのまま削ったものだから」



食堂に、静寂が落ちる。


朝の光が、窓から差し込んでいた。


「……この魔導書は危険よ」


ルルは、そっと本を閉じた。


「失われた魔法を取り戻す鍵であり」

「同時に、この国の魔法そのものを揺るがす」


ゼンは低く言う。


「世界の根っこだな」


ルルは、眠そうな目のまま頷いた。


「ええ」



食事を終えた三人は、次の目的地へ向かうため歩き始めた。


島の小道を進み、

丘を越えた先。


ゼンが足を止める。


「……」


シノも前を見て、言葉を失った。


「……村、ですね」


そこにあったのは、

半壊した村だった。



家屋は崩れ、

壁は焼け、

屋根は傾いたまま残されている。


人の気配はない。

だが、生活の痕跡だけが、生々しく残っていた。


「……襲われた跡だな」


ゼンが低く言う。


「最近だ」

「魔力の残り方が、新しい」


その言葉を聞いた瞬間――

ルルの視界が、揺れた。



崩れた家。

泣き声。

助けを求める声。


――ラディ村。


記憶が、容赦なく蘇る。


「……っ」


胸が締めつけられ、息が詰まる。


「ルル?」


ゼンの声が届く前に、

ルルは走り出していた。



「ルルさん!」


シノの呼び声も、耳に入らない。


壊れた家々の間を抜け、

村の奥へ。


「誰か……!」

「誰か、いませんか……!」


返事は、なかった。


広場に出た、その瞬間。


足が止まる。



必死に逃げた痕。

崩された瓦礫。


「……また……」


力が抜ける。


「……間に合わなかった……」


視界が暗くなり、

音が遠のく。


その場に崩れ落ちる直前――


「ルル!!」


ゼンの声が、かすかに聞こえた。



「……ルル、どうした!」


ゼンが駆け寄り、抱きとめる。


シノも膝をつき、必死に呼びかけた。


「ルルさん!」

「しっかりしてください!」


返事はない。


ゼンは脈を確かめ、静かに言った。


「……大丈夫だ」

「気を失ってるだけだ」



三人は村を離れ、

冒険ハウスへ戻った。


ベッドに横たえられたルルは、

苦しそうな表情のまま眠っている。


ゼンは毛布をかけながら言った。


「今日は、もうここで休もう」


シノが頷く。


「はい」

「……ルルさん、大丈夫でしょうか」


「問題ない」

「今日は、寝かせてやろう」



夜。


冒険ハウスの周囲は、深い静けさに包まれていた。


風が止み、

虫の声も、いつの間にか消えている。


眠るルルの呼吸は、規則正しい。


――だが。


闇の中で、

異様な気配が、ゆっくりと近づいてきていた。


足音は、抑えられている。

一定の間隔。

迷いのない歩み。


魔獣のものではない。


人の意志を感じさせる、気配。


影は、家を囲むように散り、

闇に溶け込んでいく。


扉の前で、

誰かが静かに息を整えた。


眠る家へ向けて――

確実に。



第二十話 完


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

魔法が「失われた理由」に少し踏み込んだ回になりました。

そして最後に、静かに不穏な気配が忍び寄ります。

次回、物語は一気に動き出します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ