彼女の頭の中にある寓話 5
人の足で踏み固められた一本道に、これまで限定的にしか生えていなかった雑草は不思議な思いをしつつ、しかし何も恐れることもなく自由に伸びていました。
落ちかけた陽が川面に反射し、目を細めなくてはならないところまで来ると流石に村の匂いは薄れ、ありがたいことに予想していた古い血の匂いも全くありませんでした。
西日が水音を磨いている小石の河原に立ち、薄い羽で行き場を持たぬようにゆらゆら舞う大量のカゲロウへ語り掛けました。
「ねぇ誰か、ぼくの話を聞いてくれないかな? 幽霊を一人紹介して欲しいんだ」
カゲロウは「虫」の声など無視して、恐れるわけでもない短い命を終える前にしなければならないことに必死でした。
「虫」は同じことを繰り返します。何度も何度も同じように言い続けました。よく分かっていたのです。カゲロウに話しかける「声」は直接幽霊に届くということを。
ただ、長いこと誰からも無視され続けているとやはり飽きてくるもので、体の周りに飛んでいたやぶ蚊にも、幽霊を紹介して欲しい、と冗談で言ってみました。吸える「血」がないことをいつまでも学ばないやぶ蚊は腕に止まったり、離れたりを繰り返すだけでした。
・・・・・・パチン、と透ける幼い手の真っ黒な影が「虫」の右腕に止まっていたやぶ蚊を叩き落としました。
「やぁ、こんにちは幽霊さん。蚊を叩いてくれてありがとう」
いつ隣にいたのか全く分からなかった、幼い女の子の幽霊にお礼を言いました。




