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8月4日に出会った彼女ー彼女の一人称 2ー


 私はあらためて自分の容姿と魂をトイレの鏡で確認してきていた。瀬田が佐伯狙いだったのは、いやむしろ佐伯が瀬田狙いなのはビア・ガーデンのときから三人の間で暗黙の了解ごとだった。それはそうだろう。仮に私が男だったら私より佐伯を狙うし、私が佐伯だったとしたのなら私ごときと競うまでもなく、つまり遠慮などしようもなく瀬田へ唾をつけさせて頂く。それの何が悪い?

 それでも瀬田と佐伯は何を思ったのか、はたまた何を企んだのか? そこそこカッコイイ、という瀬田の友達と四人で飲もう、と私に声を掛けてきた。瀬田のスマホで見せられた大学時代の友達の写真は「そこそこ」というより、かなりイケてた。姉弟で経営するグラフィックデザイン事務所に勤めているらしい、無精ひげの坊主頭が恥ずかしそうに微笑んでいるのを見せられたとき、マジかっ! と声に出していても、品のない女だな等と私を責めはしないかっただろう。それほどの男だった。


 しかし全くどうしたもんだ!! 相手が私だった故のキャンセルとまでは自分を卑下したくはないのだが、百通りあるドタキャンパターンの最上位的な「体調不良」による辞退はさすがに膝も震える。それでもすぐさま代打を見つけていて、どんな男子かは会ってのお楽しみ、と突然のLINEでほざかれた。無精ひげの坊主頭ほどの期待をしてはならないことなど分かっていた。ただ知らされたのが当日の昼過ぎだったことで、気持ちを整えるのは難儀だった。二週間以上の間、ときにはあり得ない妄想も現実的に可能な気がしてくるほどだった心の暖機はたかが半日程度では冷めようもなく、むしろシフトレバーはドライブポジションを強く求めた。楽しみにしていた、ありえないほど素晴らしい高原の天気が少なくとも小雨であることを確実に予感しながら、しかし車を降りることはできなかったのだ。そしてまた到着した高原は小雨どころではなく、どしゃ降りだったと言って差し障りなかろう。私は誰にも知られず腹の中でそう思っていた・・・・・・しかしそれはもちろん第一印象に過ぎなかったのだが。


 伸ばそうとしているの? 伸びただだけなの? 一生をかけても判断できない微妙な髪型の男。どうして(サッカー日本)代表のオフィシャルTシャツを着ているのに下のハーフパンツはブルズなのか? たまたま私はそこまで嫌いではなかったものの、ブルズから露わなすね毛にしたってこれから合コンする男の自覚はないとしかいいようがない。プーマの青いサンダルは「お店」の履物として溶け込むに違いないと予想したけれど、実際は溶け込むどころか、私たちは全員がそれを履いてトイレに立ってしまっていた。店名の入るクロックス(もどき)は下駄箱の隅に何足も揃っていたし、青いプーマだけが酔い潰れた豹のように床で寝そべっていた。宇宙のやる気を考えていた私はうっかり履いてしまった。


 顔の話はしたくない。眉毛だけは整っている。それだけだ。目も鼻も口も、大きさや形は個別単位ですでにどこかが変に珍しく、トータル的に見ると恐ろしくバランスを欠いている。

 今夜、暗黙のうちに私へあてがわれた彼を初めて見たとき、私は誰よりも我慢強かったはず。いや、実際は幾らかの差し引きがあったことで、それなりには彼とも楽しく時を過ごすことは出来ていた。広場の「樹」に手を当てていた男と今夜飲むことになるなど思いもしていなかったからだ。

 バイトが休みだった私は待ち合わせの広場へ早く来ていて、駅前の本屋で時間を潰した。広場を横切るとき密かに「樹」の幹へ一瞬手を添えた彼の行為を横目で捉えていた。恥ずかしそうに手を引っ込めた男が誰であるのかをまだ知らなかったが、その行為自体に好感を持った。

 男が誰であったのかを知った後、その男は挨拶した私の名前を褒めてくれもした。珍しいだとか、どういう字を書くの、出身はどこ? 等と初対面の人の殆どは聞くが奴は違った・・・・・・


 「嘉緒(カオ) (カオリ)です」

 「へぇ、それはまたリズム感のある可愛い名前ですね」


 私は初めてそのようなことを言われ、逆に軽く動揺した。苗字と比べ投げやり感の否めない下の名前。幼少の頃は珍しがられる苗字を呪っていたものだったが、バランスを取ろうともせず、また大した意味もなく(と母は言っていた)つけられた「香」にこそ本質的な問題があることに気が付いた。気付いたというよりはシフトしたのが中学生のころだったろうか?

 柳は、ちょっとラップっぽいし、とは言わなかった。仮に言われても許せそうな気がしなくもなかった。彼の言葉には嘘の無い場所から発せられる直線的な雰囲気が確かにあった。

 そんなわけで、途中まではそれなりに楽しく飲んでいたものの彼がトイレへ行っている間に何かがぶり返してきていることを、私自身気付いていなかった・・・・・・少しばかり顔のいい瀬田が実家で飼っている健気な猫の自慢話しに頷いていればよかったのだ・・・・・・




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