↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/65

大団円から始まる物語 ~魔王系彼女より愛を込めて~

「それでは新迷宮(ダンジョン)落成を祝して――遥か異(丶)世(丶)界(丶)、日(丶)本(丶)よりお越しの沙々木充(ささきみつる)様。今回の大事業の立役者である沙々木(ささき)様よりお言葉をいただきたいと思います」


 艷(つや)やかで伸びのある女性の声に促され、一人の青年が前へと進み出た。

 彼はゆっくりと会場を見まわす。


 髪代わりに頭から大きな葉を生やした植物の女怪(じょかい)。

 暗紫色のフードつきローブで全身を覆う小柄な女魔法使い。

 巌(いわお)のように屈強な肉体をした髭面の剣士。

 会場にいる面々の視線が集まる。


「私はこの世界にやってきて、皆さんとお会いできて本当に良かったと思います」


 口を開いた青年――充(みつる)の声に緊張の色はない。

 今回のパーティーは極々身内の、充を含めて9人しかいない小規模なもの。

 それなりに親しい者しか居ないこの場では、かしこまる必要もない。


「この世界は、砂漠に行けば巨大な生き物が暴れまわり、洞窟に潜れば綺麗な魔法が飛び交い、どこを訪れても驚きと感動の連続でした」


 明るく声を張る若者の姿を見る者たちの表情は優しい。

 童顔に好々爺じみた笑顔を浮かべる年齢不詳の男性が。

 燃え盛る炎を宿した目つきの勇壮な男性が。

 思い思いに、若者の言葉に頷いてみせている。


 赤毛の女戦士が「“扉の迷宮”(とびらのダンジョン)では世話になったよ!」と囃し声をかけた。

 その声に、充は照れ笑いと軽い会釈を返した。


「その中でも、この世界にある迷宮(ダンジョン)――私の世界でいうところの発電所であり、工場であり、あるいは牧場である不思議な施設の存在を知れたことは、私にとって一生忘れられない思い出になるでしょう」


 充は不意に天を仰ぐ。


 “迷宮”(ダンジョン)。

 それは、迷路と魔物と罠に囲まれ、宝箱が置かれている場所。

 海の底や絶海の孤島に隠された場所。

 安全地帯が置かれ、傷を癒やす泉が湧く場所。


 充が子供の頃から書籍やコンピューター・ゲームの中で触れてきたもの。

 あの、お約束に満ちた、お馴染みの存在。

 それがそのまま本当に存在したことは、彼にとって最高の感動であった。

 子供の頃から夢見ていた場所が現実にあったのだ――と。

 現(丶)実(丶)も(丶)夢(丶)に(丶)溢(丶)れ(丶)て(丶)い(丶)た(丶)のだ――と。


「そして、そんな感動を与えてくれた迷宮(ダンジョン)というものの建築に関われた日々と、迷宮(ダンジョン)を守りきり、無事に完成させられたことを誇らしく思っています」


 言葉を続ける彼の脳裏には、様々な光景が蘇っていた。

 この世界で働いた土地、訪れた迷宮(ダンジョン)、その強烈な彩りが思い浮かぶ。


 巨大な岩人形に剣と魔法で立ち向かったあの日。

 妖艶な魔女や、あどけなくも美しい人外の少女と笑って過ごした時間。

 冒険者たちのアイドルに一目惚れされて、結婚を申し込まれた衝撃。

 迷宮(ダンジョン)を壊そうと襲ってきた敵を道路交通法で無双し、撃退した最終決戦。


 どれもが破天荒で一見して意味不明で、だからこそ記憶に深く刻まれている。

 それら全ての感動を胸に、充は挨拶の言葉をまとめた。


「今回造られた迷宮(ダンジョン)は、この世界に住む多くの人々に、私が得られたような感動をきっと届けてくれるものと信じています……ご清聴、ありがとうございました」


 一礼して下がった充に、会場から喝采が飛ぶ。

 進行役の女性が「充さん、ありがとうございます」と囁き声で彼をねぎらった。

 充もほっと息をつき、「こちらこそ」と女性に返した。


「主人(マスター)からは、なにかお言葉はありますか?」


 喝采が止むのにあわせ、進行役の女性が隣に寄り添う少女へ声をかけた。

 言葉を振られた有角、有翼の少女はこくりと頷くと、充へ視線を向けた。


「充お兄さん、ありがとうございます」


 そして涼やかな鈴を転がすような声で、一言、礼を述べ。

 それから会場の面々へと視線を移し、白く細い喉を震わせた。


「わたしたちも、充お兄さんに案内してもらい、日本という異世界を何度も観光してきました。そこで沢山の綺麗な景色を観て、美味しい食べ物を食べました」


 星の光を透かすような、透明感ある少女がふわりと微笑む。

 その瑞々しい唇が語る内容は、充と共に過ごした休日の出来事。

 週末の休みを利用して、充と連れ歩いた日本の日帰り旅行のことである。


「新しい迷宮(ダンジョン)には、わたしたちが異世界で得られた楽しさを沢山詰め込みました。迷宮(ダンジョン)に遊びにきて、そうした異世界感を感じてもらえたら、と思います」


 言葉を終えた少女は、そっと頭を下げた。

 会場が再び喝采に包まれた。


「挨拶も終わりましたところで、ここからは食事の時間の始まりです」


 機を見計らい、進行役の女性がパーティー本番の始まりを宣言した。

 すると、声にあわせて会場のテーブルに次々と湯気をたてる料理が姿を現す。

 まるで魔法のように――ではない。

 事実、この世界には確かに存在する、魔法の力によって。


「今日は沙々木様が腕をふるって、さまざまな料理を用意してくださいましたので、どうか心ゆくまで異世界の料理をお楽しみください」


 テーブルに並ぶのは、ありったけの料理たちである。

 チリチリと音をたてるキツネ色に焼けた餃子。

 香ばしい匂いを漂わせる、高菜の緑が爽やかなチャーハン。

 カラリと揚がった衣がキラキラと油で輝く鶏の唐揚げ。


 かと思えば、中華風のものだけではない。

 とろりと半熟卵の黄色が鮮やかなオムライス。

 食欲を刺激する赤色、鼻をツンと刺す香りのカレーライス。

 その他、スパゲティ、鍋もの等々。

 日本でよく見る料理たちの総動員である。


 たちまちパーティー会場に歓声と空腹を誘う香りが広がっていった。




 日本とは異なる世界、“石の国”の荒野に建つ広大な図書館の最上階。

 透明な天井から満天の星空を堪能できる展望室。

 そこを会場にして、パーティーは一層にぎやかに盛り上がっていた。


「お姉様の豊満なお胸を久々にいただきィー! やっぱ抱き心地最高ゥー!」


 例えば、姦しい歓声が響く会場の一角に目を向ければ。

 そこには、伸縮自在の腕を伸ばす植物の魔物と。

 そして、その腕で胴をぐるぐる巻きにされる、進行役の女性の姿があった。


「あんまり乱暴にすると着崩れしちゃうから、ほどほどにしてね」


「ヤッホゥ! ほどほどの許可をいただいちゃったよアタシ!」


 桜色と藤色の、鮮やかなローブを着た女性が胴に絡む腕を撫でて苦笑している。

 撫でられている植物の魔物はといえば、すっかり悦に入っている。

 じゃれ合う女性たちを見て、充は目を細めた。


「ほらぁ! もう一杯イケるだろう?」


「当然だ! オレはまだまだ呑み足りないぞ!」


 また、別の場所からも威勢のよい声が聞こえてくる。

 視線をずらせば、そこには呑み比べをする男女がいた。

 引き締まった肉体美の赤毛の女戦士が右に。

 はちきれんばかりの筋肉を揺する髭面の剣士が左に。

 空の酒樽の山を背に、酒盃を呷っている。


 充が呑み比べ見ていると、そこへ小柄な男性が笑いながらやってきた。


「ぼくはあの2人に付き合うと潰されるんで、こっちに避難しますね」


 線が細く、ともすれば少年かと間違えそうな男性が、そう言って充の横に立つ。

 同じテーブルにいた女魔法使いが、フンと鼻を鳴らした。

 彼女は充と2人きりの状態を邪魔されるのが気に食わないらしい。

 だが、男性に料理を分けてやったりと、本気で邪険には扱わないらしい。


「みんな、凄いですね」


「あれは大丈夫よ。いつものことだから」


「昔からあんな感じですから、ぼくらには見慣れたものです」


「ははあ、そうなんですか」


 同じテーブルを囲む者が3人になり、各々、談笑を続けながら。

 新参者である充は、改めて会場を見まわした。

 右を見ても左を見ても、皆が笑い、お祭り騒ぎを満喫している。

 正に宴もたけなわであった。




 そのとき、会場に、腹の底に響く男性の声がこだました。


「“身体強化”! “回復強化”! “耐性魔法”! “身体制御”!」


 連呼されている言葉は、魔法の呪文(スペル)である。

 なにごとかと充が目を向ければ、会場の中央で仁王立ちする男性がそこに居た。

 猛々しく目を輝かせた男性が、自身を強化する魔法を重ねがけしているのだ。


 突然の臨戦態勢に、緊急事態でも発生したのかと充は身構えた。

 だが、「あれも大丈夫ですよ」と横から柔和な声がその緊張を制した。


「“星の魔女”ミヤ! 俺は! 今日こそお前を超えてみせるッ!」


 会場の中央では、準備万端整えた男性が、そう宣言する。

 それは植物の魔物に絡まれている女性――魔女ミヤに対する宣戦布告であった。


 「おっと始まったぞ!」


 呑み比べをしていた2人は、それに対して囃し声をあげ。


 「退避退避~」


 ミヤに絡んでいた魔物も、気の抜けた声をあげてその場を離脱した。

 周囲の反応についていけず、充は困惑するばかりである。


「ミヤさんは、彼にとって唯一の未だ勝てない相手ですから」


「ああして今でもことある毎に挑戦してるのよ」


 戸惑う充に、子供のような背丈の男女による簡単な状況説明が為される。


「勇者様よ! 若いモンにみっともないところを見せんなよ!」


「マロー! 好きなだけやっちゃいな!」


 酒呑みたちの声援が飛ぶ最中。

 その声を背に浴びながら、“勇者”マローは気焔をあげた。


「20年鍛えた今の俺は“魔神”を倒したあの日よりも強くなった! 今日は折角の記念日だろう? 俺が! お前に! 最高の敗北を贈ってやるぞ!」


 一方の、名指しをされたミヤはといえば。

 拘束を解かれ、着衣の乱れを直していた彼女は、男性の言葉を静かに聞き届け。

 やがて、慈母のような柔らかい微笑を浮かべて応えた。


「いいでしょう。遥々天の彼方より訪れし勇者よ。ただし、この身に宿る魔の力は、かの“魔神”ほど優しくはありませんよ」


 そこまで、周りに合わせて成り行きを見守っていた充であったが。

 その妙に芝居がかった彼女の台詞に、思わず噴き出してしまった。

 なにせ、それは彼にとって聞き覚えのある台詞であったのだ。

 先日、彼女に貸したゲームに登場する魔王の台詞の真似である。

 事実を知っている者としては耐えきれない。


 その笑い顔に気付いたのか、彼女の声が、充の頭の中に届く。


『充さんとの日本旅行で編み出した新魔法、“玉屋”(タマヤ)を披露しちゃいますね!』


 それは、緊張感の欠片もない内容であった。

 どうやらこれは本当に、彼女たちにとって、賑やかな日常の一幕らしい。


「さあ、見せなさい勇者よ。貴方の最期を飾る勇姿を」


 色鮮やかなローブを着飾り、長い黒髪をなびかせる美貌の魔女が厳かに言う。

 すると、周囲に植物を象った象形文字めいた模様が大量に浮き上がった。

 それらは複雑に絡み合い、白く輝く魔法陣が形作られる。


「そして――」


 ふわりと浮遊した魔女が、見上げるほどに飛び上がった。

 いつのまにか展望室の天井が消えている。

 夜空へと飛び出した魔女は、宇宙に輝く巨大な青い星を背に、微笑んだ。


「さあ、来なさい勇者よ! 我が魔法の真髄をもって、その魂を中天に揺蕩(たゆた)う貴方の故郷まで送り届けてあげましょう!」


 魔女の声に呼応して、星空から、輝く魔法陣が連なり階段となって降りてきた。

 勇者はそこへ足をかけると、剣を抜き、精悍な笑みと共に咆哮した。


「ゆくぞ! 俺の旅の、最後のやり残しよ! 俺の意地と矜持に懸けて!」




 パーティー会場の空は、今や彩りに満ちていた。

 流星の如き剣戟の閃き。

 観る者の心を奪う綺羅びやかな魔法の華。

 それらが盛大に、壮大に夜空を飾っている。


 夜空を眺めていた充の横に、角つきの――竜の少女がやってきた。

 お騒がせしていますと軽く頭を下げる少女に、楽しんでいるよと充は返した。


「あの綺麗な魔法、充お兄さんとの旅行で思いついたそうですよ」


「らしいね」


 暫く2人は空を見上げて、ぽつぽつと会話した。


 充は、ちらりと少女の横顔を窺う。

 魔法の光を反射して赤に、黄色に、青色に照る端正な面立ち。

 それは空で闘う自分の従者への不安など微塵もない、柔らかな表情であった。


 竜と魔女の揺るぎない信頼関係を垣間見た気がして、充の表情も自然と緩む。


「また今度、ミヤさんが新しい魔法を思いつくような場所を案内するよ。勿論、りゅーちゃんも一緒に。この“最終迷宮(ラストダンジョン)の隠しボス”沙々木充にお任せあれってね」


「ありがとうございます、充お兄さん。日本旅行をいつも楽しませてもらって。次も、とても楽しみです。ミヤも、いつも楽しみにしています」


 2人はまた次回の約束を交わし、そして、同時に空を見上げた。

 煌めく星の大海原で、輝く魔法のうねりの中で。

 彼らの旅の、欠かせざるもう一人の同行者は、宇宙に大輪の花を咲かせていた。

次回、『起筆に終わる物語 ~黒幕系彼女より愛を込めて~』に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。