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ラストダンジョンの隠しボスが日本観光をするようです  作者: 幽人
第9章 異世界迷宮 日本式
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『迎え撃つは異世界の理』

「“水の国”の人たちには、日本(異世界)の恐ろしさを身をもって味わってもらおう」


「恐ろしさ、ですか?」


 いつもの“古代図書館”にあるミヤの書斎にて。

 充(みつる)が思い立ったように言ったその言葉に、ミヤは不思議そうな顔をした。


 過激な反迷宮(ダンジョン)主義団体、“竜の祝福”(ドラゴンブレス)が充(みつる)たちの迷宮(ダンジョン)へと突入する前日。

 相手の行動を察知した充たちは、迎撃のための最後の打ち合わせを始めた。

 作戦のおおまかな内容は以前の会議通り、ミヤが侵入者撃退用の迷宮(ダンジョン)を現在の迷宮(ダンジョン)に被せて、突入してきた相手を追い返そうというものである。

 だが、この当初からの作戦の内、侵入者撃退用の罠について、迷宮(ダンジョン)造りに慣れたミヤに一任するのではなく、特殊なものを造ろうと充が言い出したのであった。


「反迷宮(ダンジョン)主義の人たちには、一度、『魔法の恩恵がなくなった世界』の大変さってものを、ちゃんと実感しておいてもらいたいからね」


「あ……充さんの言いたいことがなんとなく分かってきました」


 充とミヤが顔を寄せて打ち合わせを進める一方。

 横のソファでは“竜王”エンシェが思い悩んだ表情で黙考を続けており、それを“魔法蒐集家”ジーンが静かに見守っている。

 竜の少女は、作戦決行日前日となってもなお、“竜の祝福”(ドラゴンブレス)を追い返すべきかどうか迷っていたのである。

 そのため、今回の作戦は充とミヤが話し合って詳細を決め。

 その間に、エンシェが作戦自体を決行するか否かを決心する、という予定で、こうして2組に分かれ、それぞれに思い悩む時間を過ごしていたのだが――。


「思い通りの結果を生むかは微妙なところだけど、駄目だったとしても、相手にお引取り願うことには変わりないし、やってみる価値はあるかなってね」


「それは……もしかすると効果的かもしれませんね!」


 先の充の提案を受けて、ミヤが思わず嬉しそうな笑顔を溢したことで、作戦会議組の雰囲気は一気に和んだ。

 何か知らないけれど大丈夫そうね、とジーンがその様子を横目にお茶を啜る。

 そして、こっちは大丈夫かしら、と尻尾を抱えて悩む少女に再び視線を戻した。


 エンシェとジーンの静まり返った一角とは対照的に。

 盛り上がった充たちは良しと頷き、早速とばかりに額を寄せて詳細を囁き合う。


「まずは信号機と横断歩道、あとは線路かな。道交法(どうこうほう)の厳しさを堪能させよう。一時停止とか、あんな細かいことを把握し切れる筈もないし」


「駅の自動改札もどうです? 絶対にお腹を打ちますよ」


「いいね! ルール違反者への対応は……」


「取締人形(パトカーゴーレム)を配備しますよ。違反者は全員、縛ります」


「スピード違反で大概はアウトになりそうだなぁ」


 罠の他にも謎かけ(リドル)がありますが、とミヤが言った。


「謎かけ(リドル)は用意します? 本来は迷宮(ダンジョン)内の魔力が偏らないよう撹拌するために冒険者を迷宮(ダンジョン)内くまなく歩かせるための仕組みですが、足止め目的に利用することもあります」


 それはいい、と充が何かを思いついた表情で応じる。


「用意する。とっておきのネタがある」


「おお、充さんとっておきのネタですか」


「私というか、日本(異世界)ネタかな。大きな町でも物納(ぶつのう)ばかりな“水の国”の人たちを絶望させるだろう――確定申告の税計算ってネタがね!」


「ご、極悪!」


「誰も解けないって自信を持って言えるよ。日本人(ひのもとじん)の私だって専門家に相談してやっとだし」


 苦笑いする充に、お疲れ様ですとミヤも苦笑した。


「あの、日本(ひのもと)を悪く言うつもりはないんですが……住む人全員に課す約束事の内容が専門家にしか理解できないのって、それは仕組み的に問題があるのでは……?」


「私は門外漢だけど……難しいところだよねぇ、その辺も」


「あ、すみません。また話が脱線しそうですね」


「ああ、うん。まあそういう、魔法の恩恵がなくなった後の世界は、秩序の維持にどれだけ厳しいルールが必要なのか、全体像の把握すら困難なルールに縛られなきゃいけないかってことを、この機会に反迷宮(ダンジョン)主義の人たちに知ってもらおう」


 そうして、あれこれと充たちが話を進め。

 一通りの作戦会議が終わった頃、見計らったようにジーンが口を開いた。


「詳細も決まったようね。本当なら私(ジーン)も暴れてやりたいところだけど」


「ありがとう。でも任せておいて」


 充の力強い返事に、しぶしぶといった様子でジーンは頷いた。

 今回の問題は、あまり騒ぎを大きくしないためにも、“水の国”の有名人であるジーンには裏方に徹してもらう手筈となっていた。


「マローも、センもビィミィもミトラも応援してるって言ってたわ。しっかり、とっちめてやりなさい」


「ああ。頑張ってくるよ」


 宙に浮き、目線を同じ高さにあわせてくるジーンに、充は笑いかけた。

 それから、充は横へ視線をずらす。

 そこには、不安そうに見つめてくるエンシェがいる。


 作戦は決まった。

 後は、この少女の思い次第。


「充お兄さん……」


「りゅーちゃん」


 充は、竜の少女を安心させるように、改めて誓いの言葉を告げた。


「私も初めは迷ったんだ。“帰らずの迷宮”(かえらずのダンジョン)の昔話も聞いていたし、迷宮(ダンジョン)のせいで悲しんだ人がいるのは確かだから。相手がワガママで迷宮(ダンジョン)を壊そうとしているにしても、迷宮(ダンジョン)を壊されたくないのだってこっちのワガママだしね」


「充お兄さん……それは……」


「そんな相手のことを思う気持ちと、ミヤさんやジーンや私のことを思う気持ちと、どっちを優先すればいいか、悩んでいるんだよね」


「……はい」


 その言葉は、悩む少女を思いやってのもの。

 また、異世界アルバイト生活の中で充が確かに手に入れた、それでも誰にも譲れないものがあることを宣言するものであった。


「でも私は、ワガママでも、ここで迷宮(ダンジョン)を守るために戦いたいと思う」


 幼い頃から、ずっと自分が抱えてきた世界への疑問、違和感、期待感。

 それら全ての答えを得たことで。

 自分には迷宮(ダンジョン)を守る理由があることを、もう知っているのだから。


「自分が迷宮(ダンジョン)の生まれで、今でもそこに故郷があって、彼らのことを放っておいたら次に壊されるのは自分の故郷かもしれないって可能性を知ってしまった以上、手遅れになる前に行動をしたいと思ったんだ」


 その言葉に、はっとした表情を見せたエンシェは尻尾を強く抱き締めた。


「だから私は、私の故郷とそこに住む私の友人たちを守りたいっていうワガママを通すために、胸を張って彼らと対峙しようと思う。勿論、ミヤさんやジーンが私たちの迷宮(ダンジョン)を守りたいって思っていて、その気持に私も応えたいって理由もある。このワガママは、彼らにだって譲れない。だからりゅーちゃんも――」


 角を撫でるように、充の手がエンシェの頭に添えられた。


「りゅーちゃんも、ミヤさんが好きでしょ?」


「はい」


「それだけでいいんじゃないかな。ミヤさんのために行動したいって、それだけで。それくらいのワガママは言ってもいいと思うよ。――それに、ちょっとくらいワガママを言う女の子っていうのは可愛いものだからね。ねぇ、ミヤさん?」


「はいっ! 主人(マスター)のおねだりなら何でも喜んでっ!」


 充とミヤのやり取りに目を瞬(しばたた)かせ。

 やがて、エンシェは花を咲かせるような笑顔になった。


「ありがとうございます、充お兄さん。ミヤも、ありがとう」


 そして、竜の少女は鈴を転がすような声で言った。

 まずは、自分を気遣ってくれた2人へと感謝の言葉を。

 次に、今回の迷宮(ダンジョン)建築の責任者としての号令を。


「わたしたちの迷宮(ダンジョン)をよろしくおねがいします。どうか、無事で――充お兄さん。ミヤ」


「任された!」


「お任せください!」



 * * *



「それで、展望室まで移動した理由は?」


「充さん、こちらをどうぞ」


「……剣?」


 ジーンも帰り、日本では深夜に差し掛かろうという頃。

 充を展望室へと導いたミヤが、そこで彼に手渡したのは一振りの剣であった。

 どこにでもありそうな、古風な、両刃の剣。

 というよりも、充にとってはどこかで見覚えのある剣を。


「今回は充さんひとりに対して、相手は何人もいるわけですから。充さんの作戦でいきますと、最後には多数の相手を前に、充さんが立ちはだかることになります。ですから、護身用兼登壇用にと思いまして」


「護身用はとにかく、登壇用?」


「はい」


 ミヤが、嬉しそうに返事をする。

 この表情は新しい魔法を披露する前触れかな、と充は思う。


「充さんとその剣に縁のあるものを紐付けて、いわゆる召喚魔法を考えてみたんです。剣を床に突き立てて“黒鬼”(コッキ)と呪文(スペル)を唱えれば発動しますので、試しに、床のことは気にせずにやってみてください!」


「それって……まさか!」


 ミヤの言葉で、充はこの剣をどこで見たのかを思い出した。

 同時に、この剣に「縁のあるもの」の正体も。


「じゃあ、遠慮なく……」


「足元にお気をつけくださいね!」


「OK!」


 切っ先を下に向けて剣を構えた充は足腰に力を入れ。

 全力で床へと刃を突き立て、叫んだ。


「“黒鬼”(コッキ)!」


 その瞬間、充の視界が揺れた。

 充の足元が突如として盛り上がり、剣を中心に黒々とした物体が湧き出す。


 それは充を頭に乗せたまま、みるみるうちに10m近い高さまで伸び上がる。

 その身体は、黒光りする磁鉄鉱の如き威容。

 その姿は、無骨な岩を組み合わせ、人の姿に似せた四肢を持つ。


「ああ! やっぱりこいつか! 懐かしいな!」


 それは、額に剣を突き立てられた形で頭に充を乗せたまま直立する、巨大な岩人形(ゴーレム)――充がかつて初めての異世界バイトをした際に戦ったあの岩人形(ゴーレム)であった。


「“念話魔法”で動かせますので、今から操縦方法をお教えしますね」


「おお~……宇宙(そら)が近い……」


 その、予期せぬ新たな助っ人の登場に充はいたく少年心を刺激され。


「まさか巨大ロボットのパイロットにまでなれるなんて、やっぱりミヤさんのところでバイトを始めて良かったよ!」


「喜んでもらえたようで良かったです!」


 それから一晩中。

 少年心を抱く見習い冒険者の青年と、その傍に寄り添う色鮮やかな魔女は、宇宙(そら)に浮く青い星の光で照り輝く巨人を、思う存分、躍動させるのであった。

※物納……税を金銭ではなく穀物等でもって納める制度。日本でいえば明治時代より前の年貢米がこれにあたる。ここでは、大きな町を円滑に管理するため、町長が町の住人から食料や衣類等の物品を定期的に集める制度のこと。

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