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ラストダンジョンの隠しボスが日本観光をするようです  作者: 幽人
第5章 世界を救った勇者から愛の告白をされました
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1/7節『異世界城郭 大阪城』

「わたしの家以外でこんなに大きな建物を見たのははじめてです」


「凄まじいお嬢様発言に聞こえる台詞だね、それ」


「“水の国”にはここまで大きなお城はありませんでしたからね」


 吹く風に桜の花弁が舞う春の日。

 花見日和の陽気に誘われ、充(みつる)たち3人は大阪城(おおさかじょう)へとやってきていた。


 今回は、これまで充が案内してきた日本の観光地とは違う。

 ミヤとエンシェにとって初となる大都市――大阪の中心部への旅行である。


 初の新幹線、初の列車旅行にはじまり。

 降車した駅の人混み、街に林立するビル群、絶え間なく走る自動車の列。

 そうした都会の光景もまた、彼女たちにとっては新鮮に映るもの。


 きゃっきゃと喜ぶ2人を連れて、充は大阪の街並みを練り歩き。

 都会の一角に鎮座する、巨大な城跡のそばへと彼女たちを案内していた。


「お堀ってこんなに高くて深くて……幅もあって、凄いものなのですね」


「お城を守る生命線ですもんね……お城、お堀、お花見……いいですねぇ」


「これを見ると、なるほど地上から攻めるのは無理だって思うよね」


 3人はすぐに大阪城の敷地に入らず、堀に沿う歩道を歩き。

 視界の先まで続く、長大な石垣を堪能する。


 石垣の白、茂る木々の緑、その向こうに聳える白と緑と金に輝く天守。

 これまでにない、人工物に宿る熱量を感じられる美しい景色。

 そのさまに、ミヤとエンシェの2人は手を打って喜んだ。


 暖かくなってきた春の風のなか。

 不意に、エンシェが手すりから身を乗り出し、堀の中を覗き込んだ。

 ミヤがそっとその身体を支えながら、自分も興味深そうに深い堀を見下ろす。


 今日のミヤは本人たっての希望により和装である。

 小さな花の柄が浮いた白地の着物に、淡い桜色の長羽織。

 まさに純和風で落ち着いた装いといえる。


 都市部ならば和服を着ていても、不審な目では見られないだろう――。

 充のその言葉を聞き、待っていましたとどこかから持ち出してきたものである。


 対するエンシェは、ふわふわとした白いロングセーター姿である。

 下はショートパンツなのだろうか、一見、なにもはいていないようにも見える。

 陽光を弾く素足が眩しい、若々しい格好である。


 こうして横から2人を見ていると身長差も相まって親子みたいだな、と。

 その微笑ましい光景を見て、充は自然と笑顔になっていた。




 大阪城は石垣の巨石と、敷地内の梅林や桜の庭園が有名な観光地である。


 3人は大阪城の門を潜り、巨石で造られた石垣の威容を拝み。

 庭園に入っては、広々とした敷地を埋める花見客に混じり、存分に桜を楽しみ。

 開放感溢れる広大な城郭内を、目移りさせながら歩きまわった。


 エンシェが、城内でも最大級の巨石を間近でしげしげと眺めていたとき。

 ミヤが「古くて壊れやすいでしょうから気をつけてくださいね」と声をかけ。

 100tあるような石が「こわれもの」扱いかと、充が笑いそうになり。


 充の一押し、石垣に囲まれた曲がり道――桝形(ますがた)。

 巨大な石垣による威圧感をたっぷり味わえる場所。

 まるで岩の迷宮に迷い込んだかのような気分に浸れる場所。

 そこに立ったミヤが、石垣の石組みや鑿跡(のみあと)を見ては目を細め。


 各所に白い巨石が積み上げられ、高低差も激しい道。

 敵の侵攻を防ぐために曲がりくねり、階段や石垣が連なる城郭内。

 さながらアスレチックのようなそこで遊ぶ、小さな子供たちに混じり。

 エンシェも巨石の階段を登っては、高い石垣の上の眺望を堪能し。


 思い思いに大阪城を満喫するうち。

 石垣に登っていたエンシェが、内堀を行き来している小舟を見つけ。

 そこから充たちは、小舟に揺られての内堀観光に移った。


 舟の上で、見上げる高さの石垣を間近にして。

 エンシェは喜び、ミヤは感心しきりであった。


「これだけの石垣を作るとなると、かなりの人が動員されての大事業だったでしょうね。“水の国”と規模が違うのは、やはり人の数の差ですか……」


「1600年代の大阪は人口30万人以上で世界でも指折りの大都市だったかな。多分、工事に動員された人も相当多かっただろうね」


「30万人以上! “水の国”とは桁が違いますね!」


 城の歴史を語る音声案内を聞きながら。

 目の前の大事業跡について語り合う充たちであったが。

 人口の話になった際、ミヤはその数の多さに感嘆の声をあげた。


「“水の国”ってそんなに人が少ないの?」


「大きめの町でも1万人には届かないくらいの人口ですし、“天使を歓待した町”だって2万人以上3万人未満くらいのものですよ?」


「1万人に届かない……というと、冬に行った忍野村(おしのむら)くらいか。3万人未満だと、その前の富士河口湖町(ふじかわぐちこまち)くらい……丁度、中世ヨーロッパくらいの人口なのかな?」


 “水の国”の、日本とは異なる事情を聞き、充は小さく唸る。

 近頃は“水の国”で過ごす時間も増え、かの国には親近感も増している。


 特に、ここ2ヶ月ほどは、充がエンシェと面通しを済ませたこともあってか。

 前から仲の良かったミヤが、いっそう充との距離を縮めてきていた。


 たとえば、少々手間のかかる仕事の紹介が増え。

 あるいは、充に新しい魔法を教え。


 そうした経緯も手伝ってのことだろうか。

 訪れた町々の様子を思い浮かべるのも、今や造作もないことだった。


「“天使を歓待した町”はもっと人が多いかと思ってたけど、意外だなぁ」


「それでもここ20年で人口は増えているんですが……」


「なんだかんだ言っても20年ちょっと前までは滅びかけていた世界、かぁ」


 堀を泳ぐカモやコイを見て無邪気に喜ぶエンシェの隣で。

 充は異世界を知り、改めてわかる日本の豊かさを感じ。

 扇状に聳える立派な石垣を見上げるのであった。




 ――日本の人口の過密さ。

 それを存分に実感させてくれる形で、それからも大阪城観光は続いた。


 博物館も兼ねている天守閣では、観光客が多いために入場制限を課せられ。

 3人は行列に並びながら、いつまでも天守閣目前の石階段で待ち続け。

 充とミヤは「スタミナ制迷宮(ダンジョン)だ」と顔を見合わせて笑った。


 その発言は、先日、充が口にした何気ない疑問。


「最近のゲームはスタミナ制っていう、数分ごとに貯まるポイントを消費しないとダンジョンに入れないやつが多いんだけど、主人公の体力も魔力も満タンなのに、このスタミナって数値は何なんだろう」


 それに対する、ミヤの回答。


「それは迷宮(ダンジョン)のスタミナですよ」


 このやり取りを思い出してのものである。


 曰く、宝の質や量と罠の質とを落として大量の訪問者を得る迷宮(ダンジョン)。

 薄利多売系迷宮(ダンジョン)は、想定以上の訪問者がいると採算があわなくなるらしい。


 1人が10回迷宮(ダンジョン)を訪れた場合と。

 10人が1回迷宮(ダンジョン)を訪れた場合と。


 後者のほうが大概は多量の宝を奪取しやすいというのは、納得の話である。


 そのため、そういった迷宮(ダンジョン)は、内部の罠の再設置等準備時間も兼ねて。

 短時間に想定以上の人が訪れたり、ある程度の人が内部に入ったとき。

 休憩時間的に、入口を閉ざすシステムを採用しているものがあるのだとか。


 それを聞き、なるほど迷宮(ダンジョン)側のスタミナか、と充は膝を打ち。

 おまけに――。


「ものによっては魔力鉱石(まりょくこうせき)を入口の扉にはめ込むことで内部に魔力を充填させ、休憩時間を短縮させられる迷宮(ダンジョン)もあります」


 このミヤの言葉に、「課金だ! スタミナ回復だ!」と充は笑ったものである。


 行列に並び続けること、それからしばし。

 ようやく天守閣に入ってからも、混雑具合は変わらなかった。


 細い通路にぎっしりと詰まった人。

 その流れに乗るように牛歩で先へ進み。

 最上階の展望台では、人混みで満足に遠く霞む街並みを見ることもできず。


「面白かったですけれど、もう少しゆっくり見てみたかったですね」


 天守閣から脱出した後、ミヤは少々残念そうに言い。

 それでも、古い屏風絵等の展示物を見られたことを喜び。


「人混みに揉まれるなんて、日本でなければ滅多に体験できないものです」


 いっぽうでエンシェは、窮屈さを堪能していたようで、上機嫌であった。


「言われてみれば、人混みを堪能できたという点で、あれも一興ですかね」


 そう言って主人とにこにこ顔で会話するミヤを見て。

 場合によっては、あの混雑もまた日本観光の一部になるものだな、と。

 充は、慣れ切っていた人混みというものの別側面を拝んだ気がするのであった。




 大阪城は外堀を囲う芝生や森も含め、一日中歩いていられる広さがある。

 充たちがひととおりの観光を終えたころ。

 西日も傾き、あたりは急速に暗くなっていった。


「それじゃあ最後に、最近できた夜景スポットに案内するよ」


 充は空を見上げ、頃合いだと見るや、そう言って後ろの2人を促した。

 日の落ちた城内を歩き、最後に3人が向かったのは天守閣――のすぐそば。

 和風の景色の中、そこだけ妙に洋風で目立つ、しゃれた建物であった。


 天守閣が建つ広場にあるそれは、元博物館であり。

 最近、土産物屋兼レストランの商業施設としてリニューアルされた建物である。

 屋上が開放されているそこは、大阪の夜景を一望できる展望台でもある。


「わぁ……街中がキラキラしている……お祭りみたい」


「これは綺麗ですねぇ」


 高い柵もない、開放的な屋上。

 そこに出たエンシェとミヤは、広がる夜景に溜息を吐いた。


 白く、赤く、オレンジに小さな光の粒が揺らめき、眼下に散りばめられている。

 四方が望める屋上で、右に行き、左に行き。

 あちこちの景色を指し示しては、2人は笑い合った。


 それを離れた場所で見守りながら、充もまたひとり、そっと溜息を吐いていた。

 どうやら今回の旅行も、2人に楽しんでもらえたらしい。


 そう安堵する彼の頭に、前触れなくミヤの声が鳴り響いた。

 それは彼女の“念話魔法”による一言。


『充さん――ありがとうございます!』


 そうやって喜んでもらえるから、こちらこそ楽しませてもらっています――。

 ミヤの言葉に、充はそう思いながら。


 そして、その言葉を届ける方法が、このような魔法の為せる技であり。

 それを既に当然のものと受け止められる自分がいるという現在に。


 充は、抑えきれないほどの感謝の念を抱きながら。

 覚えたての“念話魔法”を使い、お礼の言葉を返していた。


『こちらこそ、一緒に楽しい旅行ができて感謝しているよ』


『……はい! ありがとうございます!』


 新迷宮(ダンジョン)完成まで続く、このすばらしい日本観光。

 取材旅行の名目を失う夏以降も続けるのかどうか、今はまだわからない。


 だが、できることならば彼女たちと、もっと楽しい時間を共有していきたい。

 だから、どうかこの楽しい生活が変わらず長く続きますように――と。

 そう、心の底から願うと共に。



 * * *



 そのような、心に響く一言を伝える魔法。

 充にとって、日常の中で輝く明るいイメージだった“念話魔法”。


 その、冒(丶)険(丶)者(丶)風(丶)の(丶)使(丶)い(丶)道(丶)を知ったのは――。

 大阪旅行を終えて、まもなく。

 難攻不落と恐れられる迷宮(ダンジョン)にて、遭難者救助にあたったときのことであった。

※大阪城……大阪府の市街地にある、巨大な城(現在は城跡)。公園として整備されており、連日、訪れる人で賑わう観光地。梅林や広い庭園があるほか、非常に高い石垣と、石垣に使われている巨石が名物。天守閣は博物館として営業している。


※魔力鉱石……魔力を帯びた石。“水の国”ではその魔力を利用して、生活に役立てている。より強い魔力を帯びた、上質の魔力鉱石は高値で取引される。「目に見えない力を発生させ、その力が日常的に使われている物」という点で、日本でたとえるならば磁石のような存在。

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