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【第5話】騎士の誓いと一生分の溺愛

国境を越え、懐かしい我が国の風が頬を撫でたとき、私はようやく深く息を吐き出した。

アストリア王国の追っ手を振り切り、命懸けで私を連れ戻してくれたジークヴァルト。彼の名誉は、カイル王子の不当な行いが父王に伝えられたことで完全に守られ、今や彼は国を救った英雄として語られていた。


けれど、当の本人は英雄らしい浮ついた様子もなく、王宮の隅にある静かな療養室にいた。


「フィオレーナ様……そんなに甲斐甲斐しくしていただかなくとも、私はもう動けます」


ベッドの上、苦笑いしながら起き上がろうとする彼を、私はそっと、けれど断固として押し戻した。

かつての「鉄仮面」はもうどこにもない。そこにあるのは、私を気遣う優しさに溢れた、一人の青年の素顔だ。


「だめよ。あんなにボロボロになるまで戦って……私を、死ぬほど心配させたんだから。今のあなたを甘やかすのは、私の『職務』よ」


逃亡の夜、彼に言われた言葉をなぞるように冗談めかして言うと、ジークヴァルトは一瞬、眩しいものを見るように目を細めた。

そして、包帯が巻かれた方の手で、私の手をそっと握りしめた。


「……逃げる道中、私はあなたに『一人の男として伝えたいことがある』と言いました」


窓から差し込む午後の光が、彼の端正な横顔を照らす。その青い瞳は、もはや一点の曇りもなく私だけを見つめていた。


「私はずっと、自分に言い聞かせてきました。私は騎士であり、あなたは守るべき主君。この醜い執着は、あなたという光を汚すだけだと。けれど、あのアストリアの地で、あなたを誰にも渡したくないと……王女としてではなく、一人の女として愛しているのだと、思い知りました」


彼の熱い指先が、私の指の間に入り込み、深く深く絡められる。


「……私は、あなたを愛しています。騎士としての忠誠ではなく、一人の男として、あなたの生涯を隣で守り抜きたい。もう二度と、職務という仮面の陰に逃げたりはしません」


視界が、一気に滲んでいく。

ずっと、ずっとこの言葉が欲しかった。


「……遅いわよ、ジークヴァルト。私なんて、ずっと前からあなたに囚われていたのに」


私が彼の胸に顔を埋めると、彼は壊れ物を扱うような手つきで、けれど力強く私を抱きしめた。

革手袋を外した彼の素手の温もりが、私の背中に伝わる。その熱は、どんな言葉よりも饒舌に、彼の深い愛を物語っていた。


それから数ヶ月。

王宮の人々は、微笑ましい噂を口にするようになった。

あの“鉄仮面”と呼ばれた騎士が、王女殿下をエスコートする時だけは、とろけるような甘い眼差しを隠さなくなったのだと。


公務の合間、庭園を歩く私たちの距離は、以前よりもずっと近い。

彼の手がさりげなく私の腰に添えられ、他人の視線を遮るように引き寄せられるたび、私は彼の中に芽生えた「無自覚な独占欲」を感じて、小さく微笑む。


騎士の誓いは、今、一生分の溺愛を誓う愛の言葉へと変わった。

降り注ぐ光の中で、私たちはもう二度と仮面に隠れることなく、繋いだ手を離さずに歩んでいく

こんにちは、春乃ことりです。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


今回は、感情を封じ「鉄仮面」であり続けたジークヴァルトが、

愛する人を守るために自ら仮面を捨てる——

そんな瞬間を描きたいと思い、この物語を書きました。


当初は長編を目指していたのですが、今の私の力では短編という形に落ち着きました。

それでも、ひとつの物語として皆さまにお届けできたことを嬉しく思っています。


そして実は、この作品と並行して次のお話にも取りかかっています。

次こそは長編に挑戦したいと考えていますが、

焦らず、一歩ずつ経験を積みながら成長していけたらと思っています。

温かく見守っていただければ幸いです。


これからも、読んでくださる皆さまに

「次も読みたい」と思っていただける物語をお届けできるように頑張ります。


また次回の作品でお会いできますように。

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