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第28話:王女様の「花嫁修行」。~「ルナ様、この雑巾がけは、わたくしの肌を美しくするためのエステですの?」~

空中要塞に、新たな「ノイズ」が加わった。

 エリュシオン王国の第一王女リリアーヌ。彼女は、ルナとセレスティアという二人のヤンデレ聖女が放つ、皮膚を刺すような殺気の中にありながら、一人だけ春の陽だまりにいるような笑顔を浮かべていた。

「あら、この布で床を磨けばよろしいの? カナタ様が歩まれる場所をこの手で清める……なんて素敵な花嫁修行ですの!」

 リリアーヌは、ルナが「再教育用」として差し出した、魔力を極限まで吸い取る呪いの雑巾を手に取り、嬉々として床に膝をついた。

「……リリアーヌ様。勘違いしないでください。それは修行ではなく、貴女という不純物をこの要塞から排出すべきか判断するための『選別』です。一箇所でも磨き残しがあれば、即座にその存在をデリートします」

 ルナが杖を構え、影の中から無数の監視用の「目」を出現させる。その瞳の一つ一つが、リリアーヌの失態を今か今かと待ち構えている。

 だが、リリアーヌのポジティブさは、ルナの想定を遥かに超えていた。

「まあ! そんなに見つめられるなんて、わたくしの美しさが注目されていますのね。ほら見てください、ルナ様、セレスティア様。磨けば磨くほど、わたくしの腕の筋肉が引き締まって、カナタ様好みの『しなやかな花嫁』に近づいていく気がしますわ!」

「……くっ。この女、私の『時間の加速(教育)』を受けても、なぜ精神が壊れないの……っ!?」

 隣で同じく床を磨いていたセレスティアが、歯を食いしばりながら呻いた。

 セレスティアは、ルナに植え付けられた「掃除=快感」という刷り込みによって、今や狂ったように手を動かしているが、リリアーヌは「カナタへの愛」という単一の感情だけで、過酷な労働をすべて「自分磨き」へと変換していたのだ。

「セレスティア様も、もっと腰を入れないとダメですわよ? カナタ様は、もっとダイナミックな奉仕を望んでおられるはずですわ!」

「貴女に……主様の何を、分かると言うのですか……! 私の方が、長く、深く、主様に磨き上げられたというのに……ッ!」

 要塞の廊下は、もはや掃除の場ではなく、どちらがより「深くカナタを愛しているか」を競い合う、狂気のプレゼン会場と化していた。

 一方、そんな修羅場の気配を全く察していないカナタは、リビングでテツと共に、新しく実装した【物質変換:料理モード】のテストを行っていた。

「よし、テツ。今回は『データ上の栄養素』を直接、味覚レイヤーに貼り付けてみたんだ。見た目は普通のオムライスだけど、一口食べれば幸福度が強制的に100%に固定される、究極の癒しメニューだぞ」

『カナタさん、それって実質的な「精神操作」に近いですよ……。まあ、毒じゃないからいいんですけど、今の要塞の空気感でそれを出したら、火に油を注ぐんじゃ……』

「大丈夫だって。みんな掃除で疲れてるみたいだしな。……おーい、三人とも! 飯ができたぞ!」

 カナタの声が響いた瞬間、三人の少女たちが、音速に近いスピードでリビングに集結した。

 

「カナタ様! 貴方のお手製をいただけるなんて……この瞬間のために、わたくしは生まれてきましたわ!」

「……主様。その料理、私が……毒見(という名の独占)をさせていただきます……」

「カナタ様。……不純物が混ざらぬよう、私が貴方の口まで直接、お運びいたしましょう」

 三方向からの猛烈なアピール。

 カナタが差し出したオムライスを巡り、ルナの黒い魔力、セレスティアの狂った執着、そしてリリアーヌの圧倒的なポジティブ魔力が激突する。

「……あ、いや、普通に食べてくれればいいんだけど……」

 カナタが困惑しながらスプーンを置いた瞬間、三人の手が同時にそれを掴んだ。

 空中要塞という閉鎖空間。

 そこでは今、世界を滅ぼせる力を持った三人のヒロインが、たった一口の「主の料理」を巡って、要塞そのものを崩壊させかねない愛の戦争を激化させていた。

「……なあテツ。なんか、昨日より要塞の温度が上がってないか?」

『……カナタさん。それは、室温じゃなくて「殺意」の熱気です。……もう僕、サーバー室に引きこもっていいですか?』

【次回予告】

第29話:『要塞の「お風呂回」が、何故か水中格闘技大会になった件。』

カナタが作った「自動洗浄機能付き大浴場」。

そこへ同時に入り込んだ三人のヒロインたちが、背中の流し合いを巡って全裸のデスマッチを開始!?

カナタの無自覚な「サービスシーン」が、要塞を爆発寸前に追い込む!

【作者よりお願い】

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