第29話:要塞の「お風呂回」が、何故か水中格闘技大会になった件。
空中要塞の最上階付近に、新たなレイヤーが追加された。
カナタが「戦いの後のリフレッシュは不可欠だろ」という至極真っ当な(そして無自覚に火種を撒き散らす)理由で作った、超豪華大浴場『スカイ・スパ・エディット』である。
床一面には、触れるだけで疲労をデリートする特殊な魔導タイルが敷き詰められ、湯船にはカナタが世界各地の秘境から「コピペ」してきた最高級の薬湯が溢れている。窓の外には雲海が広がり、夜空に浮かぶ満月が湯面に幻想的な光を投げかけていた。
「よし、テツ。温度設定は常に42度、自動洗浄機能も完備だ。これなら、どんなに掃除で汚れても一瞬でピカピカになれるぞ」
『カナタさん……。その「一瞬でピカピカ」っていう機能、まさか脱衣所を通らずに直接服を「非表示」にする設定とか入ってませんよね?』
「お、よくわかったな。動画編集の『レイヤー非表示』と同じ原理だよ。効率的だろ?」
『……それ、ヒロインたちが聞いたら要塞が物理的に爆発しますよ』
テツの忠告が現実のものとなるまで、一分もかからなかった。
脱衣所には、掃除という名の前哨戦を終えたルナ、セレスティア、そしてリリアーヌの三人が集結していた。
「……リリアーヌ王女。カナタ様の作られたこの神聖な浴場に、貴女のようなノイズが足を踏み入れるのは、レイアウトの乱れでしかありません。貴女は下の階の、川の水でも浴びていればよろしいのでは?」
ルナが、バスタオル一枚の姿で冷たく言い放つ。その肌は月光を反射して真珠のように輝いているが、纏っている空気は刺し違える寸前の暗殺者のそれだ。
「あら、ルナ様こそ。カナタ様の隣に立つには、その『激重な魔力』を少しは洗い流した方がよろしいのではなくて? わたくしの清らかな光で、この浴場を浄化して差し上げますわ!」
リリアーヌも負けじと、王族特有の堂々とした(そして無防備な)姿で一歩も引かない。
そんな二人の背後で、セレスティアが虚ろな瞳で雑巾……ではなく、最高級のボディタオルを握りしめて震えていた。
「……磨く。主様の、背中……私が、磨く。汚れ一つ、残さない……。そのためなら、他の二人は、排水溝に、詰める……ッ!」
三人の殺気が激突し、湯船の薬湯がボコボコと沸騰し始める。
そして事件は起きた。
三人が浴場に足を踏み入れた瞬間、カナタが設定した『自動洗浄:レイヤー非表示』が作動したのだ。
「――え?」
一瞬にして、彼女たちが身に纏っていたバスタオルやメイド服が「非表示」へと切り替わる。
あまりにも完璧なタイミングで、湯気の向こうからカナタが「あ、温度どうだ?」と顔を出した。
「「「…………っ!!?」」」
静寂。そして、空中要塞が物理的に揺れるほどの悲鳴と、それ以上の密度の殺気が爆発した。
「主様……見て、ください……私の、汚れなき、データ……ッ!」
「カナタ様! 責任を取って、今すぐわたくしとマリッジ・エディット(結婚)を!」
「……消去。カナタ様の視界に入った不純物(他の二人)を、今すぐ、消去しますッ!!」
セレスティアが「磨く」という名の水中タックルをリリアーヌに仕掛け、ルナが空間を歪ませてカナタの周囲に「自分以外立ち入り禁止」の結界を強引に上書きする。リリアーヌは王家の加護で結界を物理的に破壊し、お湯を噴水のように巻き上げてカナタへと迫る。
お風呂回。それは本来、読者が癒されるためのサービスシーンであるはずだ。
しかし、カナタの空中要塞においては、それは世界最強クラスの女たちが、全裸で、魔力を全開放して、一人の男の「背中を流す権利」を奪い合う、地獄の水中格闘技大会へと変貌していた。
「……なあテツ。なんか、お風呂の湿度が上がって、呼吸が苦しいんだけど……」
『……カナタさん。それは湿気じゃなくて、彼女たちが放出してる「濃縮された愛(殺意)」です。……もう僕、このレイヤーからログアウトしていいですか……?』
カナタの「うっかり」が生んだ最大級のサービスシーン(大惨事)は、要塞の壁を粉砕し、夜の雲海へと大量の薬湯をぶち撒けながら、さらに激しさを増していく。
【次回予告】】
第30話:『要塞の「心臓」が、ついに反乱を起こした件。~「カナタ様、この家も貴方を愛しています」~』
度重なる修羅場とスキルの酷使により、空中要塞の管理AIがついに「自我」に目覚める!?
「一番カナタ様に寄り添っているのは、この壁であり、床である私です」
建物そのものがヤンデレ化し、ヒロインたちを外へパージ(排出)し始める!
【作者よりお願い】
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