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13 作戦会議(1)

 深夜の邸内は、いつも不気味さを漂わせ、静まり返っている。

 足音を響かせないように廊下を走り抜け、私は待ちに待った厨房の扉の前に立った。

 息が荒れて、視界が揺らいでいる。ここまで来るだけでも「ミリア」の体は疲労困憊してしまうのだ。

 ハイルの執務室から解放されてから、夜になるまでベッドで休んでいたのに、まだ体力は回復していなかったようだ。

 深く深呼吸をして、私は厨房のドアを開けた。


 厨房にマロウの姿を見つけて、とても安堵した。

 マロウはいつもと違う服装だった。白のシャツに、黒のスラックス。昼間に正装をして出かけた名残だろう。

 腕まくりをして、流し台に立ち、コーヒーサーバー一式を洗っていた。

 私が昼間に勝手に使ったから。人の手で片付けられた道具を洗いなおしているのだ。

 マロウの調理器具に対しての几帳面さは、普段の粗暴な言葉使いとは似使わない。調理人ゆえか、ただの性格か。


 マロウが私に気づいて振り返る。

 顔をしかめて、ため息をつき、「とりあえず、座れ」と言った。

「昼間にコーヒーを淹れたの。どうしてもその必要ができて」

「ああ、聞いた」

「周りにもコーヒーのこと知られてしまったの」

「お前の淹れるコーヒーがどんなものか、厨房でも噂になってたぞ」

「・・・やっぱり」

 あまりいい傾向ではない。注目されれば、その分、身に降りかかる被害も増えるだろうから。

「まあ、直接お前に淹れてくれと言える人間は公爵家の人間だけだろうから、いくら俺らの間で話題になったとしてもすぐに何か起こることもないだろう」

「そうかな」

「この時間にお前が厨房へ来ることも、ここでコーヒーを淹れてることも誰も知らないからな。誰があの道具一式をそろえたか話題になってはいたが、分からずじまいで終わったしな」

 マロウの言葉に、少しだけほっとした。

「それで」マロウは私を見て、にやりとする。「公爵閣下の反応は?」

 天下の公爵閣下が自分と同じような反応をしたかもしれないと、それを期待している様子だ。

「驚いてたわ」

 私が言うと、マロウは満足げにうなずいた。

「コーヒーが気に入ったみたい」

「分かる。一度飲めば、あの香りと味わいは忘れることが出来ない。コーヒーを知ったら、お茶なんて飲んでられんよな」

「でも、お茶だっておいしいでしょ。飲み方だって多様だし」

 私の言葉に、マロウが反応した。興味を惹かれるものが出た瞬間、マロウは左の耳だけピクリと動くのだ。本人が自覚しているかは分からないが、私はこの反応を見つけた時、かなり嬉しくなった。

「それより、今日の交渉はどうだったの?」

 私は急かすように聞いた。

 マロウは思い出したように、ずっしりと重みを感じる皮の袋を差し出してきた。

 中をのぞくと、何十枚もの金貨が入っている。

「金額は?いくらで買えた?」

「20テールだ」

「えっ」

 流石にそこまで安く買えるとは思っていなかった。

 私の反応に、マロウは得意げに鼻を鳴らす。

「売価20テール。契約書にも書いてある。ただ、その金はそのまま借金返済にあてられるから、ボーゼ男爵の手元には残らんだろう。余計な逆恨みで付き纏われても面倒だから、もう20テールを別にボーゼ男爵に渡してきた。現評価額が30テールだからな、それよりも低い金額で高利貸しには伝えられて、その分が手元に残れば、ボーゼ男爵は得した気分になるだろう」

「ボーゼ男爵はすぐにサインした?」

「いや、かなり勘繰ってきたな。こっちから購入の打診をしたんだ、足元見てくるのは分かっていたが、最初の提示額は300テールだった」

「向こうは当然、アスラ山の価値なんて知らないでしょ」

「間違いなく知らないだろうな。300テールってのは、今日、絶対に返済しないと命が無くなる金額だ」

「返済日だったんだ」

「高利貸しも来てたからな。俺に支払わせようって魂胆だったんだろ」

「大丈夫だった?」

 マロウにどこかしら怪我をした様子はない。だが危ない場面での交渉になったと知り、行かせた自分の責任を感じてしまう。

 だが、いらぬ心配だったようだ。

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