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驚きで目を見開いた志希が振り返ると同時に、またも風景が変わる。そこはもはやアパートの一室ではなく、ただの白い空間だった。
そして、振り向いた志希から少し離れた場所、白い空間に佇む一組の男女が――。
「……お母さん、お父さん」
志希は呆然としながら、ふたりに向かって呼び掛ける。
そう。そこには、志希を温かな眼差しで見つめる両親がいた。
「荒熊さん、これは……」
「まあ、神様からのサービスということで」
志希が問うと、荒熊さんはウィンクしながら応じた。
どうやら荒熊さんは、志希の霊力を対価としてもらうことなく奇跡を起こしてくれたらしい。言葉通り、志希への“サービス”として。
「二人は今の状況をわかっている。行っておいで」
飛び跳ねた荒熊さんに背中を押され、志希はつんのめるように前へと足を踏み出す。
しかしそこからは、自分の意思で足を前へと進めていく。
「お母さん、お父さん……」
ふたりのことを呼びながら、志希はついに駆け出す。
そして、腕を広げて待つ母の胸に飛び込んだ。
「お母さん、ごめんなさい! 私、ずっと『お母さんに捨てられたらどうしよう』って不安に思っていました。お母さんは、こんなに私のことを大事に思ってくれていたのに……。本当にごめんなさい!」
「気にしなくていいよ。むしろ、私の方こそごめん。私がしっかりしていなかった所為で、不安にさせちゃって」
母の肩に顔をうずめるようにして志希がこれまで抱えてきた思いを伝えると、母も志希の背中をポンポンと優しく叩きながらそれを受け入れる。
すると、そんな志希の頭を温かくて大きな手が撫でた。
「お父さん……」
志希が顔を上げると、父が昔と同じ穏やかな顔で志希の頭を撫でていた。
記憶の彼方から蘇ってくる懐かしい感触に、志希の涙腺がまたも緩んでいく。
「大きくなったね、志希。君の成長した姿を見られて、すごくうれしいよ」
そう言って、父は母ごと志希のことを抱きしめた。
ずっと忘れていた両親の温もりを感じながら、志希はもう何も言うことができないまま、ただ泣き続ける。たとえ一時の夢であっても、二度とこの温もりを忘れないように、心と体に染み込ませていく。
だが、不意に母が「拓真、ちょっとごめん」と父へ離れるよう促した。父の温もりが消え、次いで母も志希から体を離す。
そして、志希を正面から見つめ、こう言った。
「志希。あんたは、もう私たちのことで悩まなくていい。負い目を感じる必要もない。だからその分、幸せになりなさい。あんたが笑ってくれていることが、私と拓真の願いだから」
自分の言うべきことを言い終えた母は、コツンと自分の額を志希の額に当ててくる。
母が生きていた時はよくこうしてもらったと、志希は目をつぶりながら思う。母と額を合わせていると、どんなに悲しいことや辛いことがあった時でも、すぐ心が楽になるのだ。
「……はい。もう私、負い目に逃げたりしません。お母さんたちの願い、きっと叶えます」
だから今も、志希は心安らかなまま、素直に母へ答えることができた。
母の方も、そんな志希の答えに満足したのだろう。額を離し、太陽のように明るい笑顔で、「うん! それでこそ私の娘だ!」と言ってくれた。
そして、志希の前を父に譲る。
「拓真、次はあんたの番よ。最後なんだから、父親らしくビシッと決めなさい」
「愛希さん、それはハードル上げ過ぎだよ」
母から特大のバトンを渡され、父がどうしたものかという顔で志希の前に立つ。
父は少し考えた後、志希の肩に手を置き――。
「志希、幸せになりなさい」
「それ、もう私が言った」
志希へ言葉を贈った瞬間に母からダメ出しされ、困ったと言いたげに苦笑した。
「愛希さん、ちょっと厳し過ぎない?」
「娘の門出に妥協なんかできるか! いいから、もっと気の利いた言葉を考えなさい」
「……はい」
母に説教された父が、トホホと肩を縮こまらせる。
そんなふたりの姿が微笑ましくて、志希は思わず笑ってしまった。このふたりは相変わらず仲良しさんだと、改めて実感した。
その間に父も掛けるべき言葉を思いついたのか、テイク2とばかりにもう一度志希の方へ向き直った。




