第136章「未来へ向けて」
そしてぽかんとしている美乃理に栗原は笑った。
「ほんとう、謙遜するのね、龍崎宏美さんの言ったとおりだわ」
「宏美さんも……ですか。何て言ってるんですか?」
改めて昨日していた二人の会話が気になった。
「ええ。彼女、言ってたわよ。まだまだこれからだけど、将来を期待できる子だって。わたしと同じ評価みたいね」
「宏美さん、そんなふうに言ってたんですか」
肩をすぼめて戸惑う美乃理から視線を少し逸らした。栗原なりの想いが頭に浮かんでいるのだろう。まだまだ新体操が知られていない時代から、世界に飛び込んだ人。
以前の記事や経歴などから、草分け的な存在なだけにいろいろと苦労もあったという。
「わたしはこう思ってるのよ」
再び美乃理に視線を戻した。
「このままではこの国の体操は駄目、そういう想いから今回の合宿を開いたのよ。国内での競い合いに終始してて……その間にもっと世界はどんどん進んでて取り残される一方よ」
栗原は真剣な眼差しであった。
この人なりの真摯な思いであることは美乃理も受け止めた。
「今後はより芸術性、表現力を求められるようになる。単に言われたとおりに体を動かせばいいというわけにはならないわ」
もっと個々の持っているセンスが必要。そしてそういう大事なものを持っている子を探していた。
「それがわたし……なんですか?」
「あなたの表現力は他の子には無いものがある。龍崎宏美すらも持ってない魅力をあなたは持ってるのだから、もっと自信を持っていいわよ」
第一人者がそこまで御手洗美乃理を評価している。場合によっては宏美以上。傍らでこっそり聞いていた王鈴の顧問も正愛の顧問も驚いて目を見合わせていた。
「御手洗さん」
ふいに栗原の瞳に光るものが宿ったように感じた。
「あなたさえよければ、もっと高みを目指すための場所を用意したいと思っているの」
答えることができなかった。
(ひょっとして……これは……)
東都女子体育大へのスカウト。
自分も国際大会へ宏美と同じ道を行くのだろうか。
このまま正愛で新体操に取り組むことしか、頭になかった。
「……」
「……ちょっと急な話をしすぎたかしら。ごめんなさいね。今のはちょっとした会話だと思ってちょうだい」
栗原が美乃理が答えに困っていることを察した。
少し笑った後、その場を立ち去った。
「また後で練習をみさせてくれるかしら」
その後ろ姿を見つめていた。
しばらく佇んだ後に一息つく。
「将来のことか……」
そのまま高校も大学も正愛に進んで、新体操を続けられればそれで良いと思っていた。
今の美乃理は、新体操ができればそれで十分であった。
どうも周囲は、それだけでは済ませてくれなさそうだ。
(少し休憩しよう)
美乃理は手を止めた。
「さっちん、ありがとう、本当に助かったよ」
「またやるときは声かけてね、お疲れさま!」
サポートしてくれたさつきに感謝を伝える。
個人演技とはいえ、自分は一人でやってるのではないのは確かだ。
これからはもっと他の人の手を借りることになるかもしれない。
上を目指すならなおさらだ。
栗原コーチの言葉は心に残った。




