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この雪が融けた時 ~婚約破棄された令嬢は、二度目の婚約も破談にしたいのに辺境伯が放してくれません~  作者: ポムの狼
第一章「二度目の婚約」

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第1話 聖女が来たので、お役目御免ということですね

「ルシアーナ……お前とマティアスの婚約を破棄することにした」


 深々と頭を下げていた私に落ちてきたのは、国王陛下の声。玉座の間での突然の婚約破棄だった。


 ゆっくりと頭をあげ、雪色の長い前髪の隙間から、私は壇上を見上げた。


 正面には玉座に座る陛下。

 その脇には王太子殿下。

 殿下に腕を絡めているのは、先日異世界からやってきたという聖女だった。

 王太子殿下と聖女は、私を見下ろし、口元はニヤリと歪んでいる。


 ……悔しい。


 決してマティアス殿下に未練があるわけではない。王太子妃教育のために、私は十歳のことから王城に住んでいた。当然、王太子とは、毎日のように顔を合わせていたのだが、私が彼を男として見たことは一度だってなかった。


 それでも、悔しいものは、悔しい。

 今まで私が実家を離れて王太子妃教育に励んできたことも、マティアス様の公務を陰ながら支えてきたことも、全て無駄だったと言われている気がしてならなかった。


「……承知いたしました」


 唇が震えた。自分の想いを噛み殺しながら、そう返事すると、陛下は丸い顔に浮かぶ汗をハンカチで拭きながら頷いた。


「すまぬな、ルシアーナ。これも国のためだ」


 困ったように笑う陛下。いつものことだ。

 早くに妃殿下を亡くし、大事に育ててきた王太子殿下のわがままをこの方はいつもこうやって通してきた。

 いや、大事にしているとは、違うのかもしれない。本当に大事にしているのなら、親として間違っていることは、注意するだろう。


 この方は、全てが面倒なだけなのだ。


 息子に間違いを教えるより、こうやって下の者に無理を言った方が簡単だからそうしているだけなのだ。


「謝る必要などございません、父上。ルシアーナよりユイの方が優秀なのですから」


 吐き捨てるように言った殿下の声には、明らかな侮蔑が揉められていた。美しい黒髪の聖女もそれに同調するように口元を歪めて笑った。


「『精霊の愛し子』だというからルシアーナを婚約者にしていたのに、何も起きません。でもユイは違う。ユイには『癒しの奇跡』があります」


 私の実家のツェラー公爵家は、まれに『精霊の愛し子』と呼ばれるルビー色の瞳の娘が生まれる不思議な家系だった。その娘が王家に嫁げば、その代の王国は栄えるという言い伝えから赤い瞳をして生まれた私は、生まれた時から王太子殿下の婚約者なのだ。


 実際私は、精霊たちの力を借りて、幾度となく王家を支えてきたつもりだが、私より彼女の方が優秀だというなら仕方がない。


 辛かった王太子妃教育も、殿下の代わりにこなしてきた公務も、「血みたいな瞳が気持ち悪い」と罵られるのも、これでさよならだ。


 殿下の言葉に頷いたのは、隣の聖女だ。


「そもそも、根拠のない言い伝えだけで、こんな陰気な方と婚約していたことが間違いだったのです」


 私だって昔から暗かったわけじゃない。

 殿下に気持ち悪いと馬鹿にされるうちに、自信がなくなって次第に前髪で目を隠すようになったのだ。


「ルシアーナは、国母にはふさわしくありません。明るく民に親しまれるユイの方がいい。僕はユイを愛してるんだ」


「マティアス様……」


 殿下と聖女は、互いに目線を絡ませる。


 ある日突然、王宮の空から降ってきた聖女。

 王宮の池に落ち、溺れかけた彼女を殿下が助けたのが、二人の出会いだ。


 少しずつ二人の距離が縮まっていく様を最も間近で眺めていたのは、私だ。


 だけど私は自分の働きにだけは、自信があった。

 愛はなくとも、共に国を支える立場には収まるのだろうと高をくくっていたのだが、大きな間違いだったらしい。


「ルシアーナよ」


 申し訳なさそうに言葉を繋いだのは陛下だ。

 また汗を拭いている……まだ何かあるっていうの?


「そなたには、本当にすまないと思っている」


「……お気になさらず、陛下」


 殿下のことは好きではないが、嫌いでもない。

 ずっと一緒に過ごしてきたから、姉弟のようなものだ。

 弟のような殿下が幸せなら、もう私もそれでいい。腹は立つけどね。かなり……


「代わりと言ってはなんだが、そなたに新しい婚約相手を見つけておいた」


「……え?」


 陛下の言葉は、予想外のものだった。


「先の魔物の大量発生から見事に国を守ったグラーフ辺境伯への褒美として、そなたを婚約者とすることを決めた」


「まぁ、グラーフ辺境伯ですって!?」


 私の代わりに勝手に返事をしたのは、聖女ユイだ。


「グラーフ辺境伯と言えば、魔物退治に明け暮れ社交界にも一向に顔を出さない血みどろ辺境伯と言われている方ではないですか!」


 グラーフ辺境伯が収める北方のグラーフ領は、魔物が多く出ると聞いたことがある。

 どんな方かは分からないけど、私の頭の中に血で汚れた大男のイメージが出来上がった。


「血みどろ辺境伯。血みたいな目のルシアーナにぴったりじゃないか! さすがは、父上だ」


 殿下と聖女は、二人して腹を抱えて笑った。


「すまないな、ルシアーナ。そなたの力でグラーフ領が穏やかな土地になることを期待しておるぞ」


 そう言って陛下はまた、困ったように笑った。 



こんにちは!ポムの狼です!


こちら、まだ要項出ていないのですが、2026年のカクヨムコンに出そうかなぁと思って書き貯めているお話でございます。

いつものように、なろうにはどんなもんかお試しで、序盤の切りのいいところまで投稿しようと思います。


ざまぁも入る予定ですので、お好きな方は、お付き合いいただけますと、幸いでございます。

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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