Case 02「伝える」 第二節「両翼」
拘束される鳩。血と泥に汚れた、SOSの布切れ。湯気の立つ紅茶。
それらを囲んで唐突に会議が始まる。
先に口を開いたのは私だった。
「契約を先に結びましょう。そうすればこの事件は私たちの……。というわけにはいきませんか?」
一拍置いて眉間にしわを寄せながら警部も口を開く。
「厳密には俺……失礼。私の指揮下に入ってもらうが……。」
警部は少し言いづらそうに。あるいは適当な言葉が見当たらないのか詰まっていた。
その詰まった言葉を助手が引っこ抜く。
「その実は割と形式上。金銭面での拘束力しかありません。」
なるほど?流石にその辺りは民間の市場を考慮している……。要するに、警察の外注扱い。
指揮下とは言っても、実質は報酬と責任範囲の整理といったところかな。
「そうだ。それで今回の事件は率直に言えば、人命が関わっている。それを民間に流すのは……えー、事態は急を要するので……。」
と、またしても言葉に詰まっている。その詰まり様から何かと気苦労の多い中間管理職を感じ取れる。
組織ってのは大変なことだ。私には無理だね。
「あー、つまり信頼がないと?」
「まぁ平たく言えばな。」
しばらく沈黙が流れる。どうにかこの接触を無駄にしたくない。いや?というよりはこの事件に首を突っ込みたくて仕方ないというのが本音だ。
「よろしい!大いに結構です警部。では今回はボランティアといきましょう。成功報酬はあなたの信頼です。ああ、ご心配なく。捜査は行ってください。私たちも行いますし情報は共有しましょう。人命優先、ですよね?」
ちょうどいい落としどころというのを見つけられ、嬉々として警部に提案する。
つい興奮気味に話してしまったものだから警部は少しビクッとして驚きつつも冷静に言葉を返す。
「……了解した。まぁ、上手くいけば焼肉ぐらいは二人まとめて奢ってやるよ。俺らが先でもお前らが先でも対象が助かればな。」
そう言ってウィンクするお茶目な40代はなかなかきついものが……。
いや助手は目を輝かせているな。何か惹かれるものがあったのか。やはり男というものはわからない。
そう言って彼は証拠品?の鳩を段ボールへ詰めて帰っていった。
「目に見える形の報酬ではありませんね。」
茶器を片付けながら助手はつぶやくように言う。不服……というそれではなく心配するように。
「まぁ暇だし、大した出費もないから赤字にはならないんじゃないかな。社会においてはこれも一つの資本。」
「しかし、鳩を警部が持っていったせいでこちらにはほぼ情報がありませんね。警部からの連絡が来るまで待機しましょうか。」
私は窓の外、電線に留まる鳩へ目をやって確信する。
「いいや?私の推理が正しければ明日までにはsosの発信源を見つけられるさ。」
「!」
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車に乗り込むと、いつもの車内通話をONにして部下に連絡を取る。呼び出し音が途切れ、わずかなノイズが聞こえると俺はすぐさま要件を述べた。
「俺だ。急ぎの案件がある。至急鑑識を呼んでくれ。」
『お疲れ様です警部。本日は探偵との契約のはずでは?』
少し驚いたように聞き返す部下の声。
「言っただろう、急ぎと。おそらく誰かが遭難、もしくは誘拐された。詳しくは署についてから話すから可能な限りの人員を確保してくれ。」
『失礼。了解しました。』
だが、状況をすぐに理解してくれる。
こいつは浅海 楓。警察学校を首席で卒業。所謂エリートって奴だ。
俺とは正直違う方向性の人間だが、嫌いじゃあない。娘の様にかわいがっている。
最近の若いもんは――と口癖になりそうだったのを、こいつが来てからは今のところ一度も口にしていない。
俺自慢の部下だ。探偵にとっての不知火のような人間だ。
……まぁ、完璧とはいかない。若さが最大の武器であり、弱点でもある。
あと、こいつ基準で他の部下に期待すれば他の部下がどんどん消えていく。
まったく。最近の若いもんは。
……。
段ボールに詰めて最初は暴れまわってた鳩もしばらく車に揺られていたら落ち着いた。
正直、あの時はことを急いたが、イタズラということもある。どれほどこの捜査に人員を充てられるか不安だ。
そうして警視庁に着くなり、段ボールを抱えて部署へ戻る。定期的に大きく揺れる段ボールは、廊下ですれ違う同僚部下らの視線を集めるには充分であった。
「浅海!鑑識は確保できたか?」
そういうと浅海は敬礼をして扉を開ける。
「はい!上へは嘘にはならない程度に誇張しました。『麻薬組織の関与した疑いあり』として。」
「それ……。ええ?」
思わず浅海の顔を二度見する。確かにそう述べれば上は人員を出してくれるだろうさ。
それと今日の探偵事務所の件でわかったことがある。
有能な奴ほど、報告書に書きにくいことを平気でやる。
若さゆえってのもあるか。
「……」
困った俺を不思議そうに見つめる浅海。
そんな報告で?捜査の後、全然別件でした。と言えるか?そもそも成果を上げられなかったら?と考えるのはやめよう。
あとで何とでも言い訳は作れるが、人命は戻らない。
そう思いながら鳩と布を見つめていると、浅海はSOSを少し見て口を開く。
「これは……少し湿っていますからおそらく直近ですね。生存の可能性は高いかと。」
浅海がそう推理しながら安堵するもんだから、つい俺もそれを聞いて少し安堵したような、また面倒事に巻き込まれたような、そんなため息をついて座り込んだ。
「取り敢えず鑑識だ。この鳥の花粉、内容物、その他あらゆる痕跡を見逃すな。」
「内容物……もですね。」
と少し嫌そうに俯いて呟く。
「まぁ人命には代えられん……っといいたいが、別に殺しはしない。近くに鳥類専門の獣医がいたろう。そいつに頼んでそのう洗浄を行う。」
「随分と、お詳しいのですね?」
「まぁ飼ってたこともあったからな。」
文鳥だがな。
「なぁ……。その、さっきの上への報告、事後はどうするつもりなんだ?」
どうしても頭の中をその不安が駆け回るものだからつい聞いてしまった。
そういうと浅海は目を点にして首を軽くかしげた。
「別にいつも通り適当に丸め込んでおいてくださって結構ですよ?」
……。言い訳を徹夜で考えておくか。




