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紙の町の魔女  作者: 倉沢トモエ


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薬包紙と金平糖(一)


 第一話 砂糖


 あら、ごめんなさいね。魔女さまは、ちょっと出ていらっしゃるのよ。

「お医者様と、お薬の調合を工夫する、その相談なんですって」

 店番の婦人のうち、勘定場のふくよかな婦人はそう言った。

「じき、お戻りでしょうよ。そちらの窓のお席におかけになって、お待ちなさいな」

 店内は、茶を飲むための小さな卓と椅子が三つずつ並んでいる。

 客人はその右端の卓についた。


 店のすみに置かれた作業台では、ふたりの婦人が作業をしている。

「金平糖なんですよ。この匙で一杯ずつ」

 断髪のひとりは正方形の薬包紙の真ん中にのせて、器用にきっちり包んでいる。

 白髪交じりの髪を櫛でまとめ上げているもうひとりは、次々に包まれてゆく金平糖を、十二包ずつ紙袋に詰めている。

「子供さんに、あげるものなんですよ」

「なんせ、苦いお薬で評判なもんですから」

「お砂糖が毒になるときには、これではなく、あちらを」

 帳場に置かれた小さな篭にいっぱい、熊や猫や犬の指人形が入っている。

 なるほど。ご褒美か。客人の顔がほころんだ。

「あなたにも」

 そう言って立ち上がり、金平糖包みのひとつを客人に持たせた。


「うちの村でも、子供がお医者に行くと、こんな風に薬包紙にくるんだお砂糖を帰りに下すったもんよ」

「うちもだわ。お菓子なんてなかったし、ご褒美はなんでもお砂糖だったわね」

「ご馳走もお砂糖だったわ。豆をゆでて、お砂糖かけて食べるとおいしいわね」

「今でも大好き」

 甘い話が終わらない。


「どちらから?」

 勘定場の婦人が茶を入れて、客人と作業台の婦人らに置きながら話しかけた。今日の茶は涼しげな緑の匂いがした。

「あのう……」

 朴訥そうな話し方をする客人は、黒い外套の、その下も黒い衣だった。

「久しぶりに、ひとがいるところへ来ました」

「魔女さまを訪ねていらっしゃったんですから、ずいぶん遠いところなんでしょうねえ。みなさん、そうなんですから」

「どこから、と申すより、あるものを尋ねてあちらこちら、腰が定まらないここ数年です」

「なにか探していらっしゃるの?」

「ええ。鳥を。私が飼っていたのではないのですが」

「逃げてしまったの?」

「うっかり籠を開けたのではなしに、追い出されたらしいのです」

「まあ、かわいそうに」

「生き物は、最後まで面倒みなきゃ。ねえ?」

「わかった。

 占いを頼みにいらっしゃったのね? 失せもの探しはよく頼みに来るわ」

 客人は、婦人たちが店の入り口を見つめているのに気がついた。


「すまないわねえ、魔女さまはお留守なのよ。こっちで待つかい?」

 入り口には娘がいた。赤毛を肩のあたりで切り揃えている。

「……いいえ。また、このつぎお邪魔します」

「あら。せっかく来たんだから、これをお持ちよ」

 何の用件だったのか。

 渡された金平糖をしまうのにも慌てた様子で、いなくなってしまった。


「どうしたのでしょう」

「占いを頼みにきたんでしょうよ。そんな年ごろの娘もよく来ますよ」

 客人はしばし考えて、

「ああ!」

 その、あまりにも目を丸くした様子に婦人たちが笑いだした。


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