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 彼女と出会ったのは偶然入ったこの店だった。


 終電だったのに眠ってしまって乗り越した。折り返しの電車はなく、駅を出てタクシー乗り場へ向かった。そこには長蛇の列が。僕は時間をつぶすためにやっている店を探しながら繁華街をうろついた。路地を入ったところに明かりのついた看板が見えた。その店に入った。

 そこはカウンター席だけの小さな店だった。薄暗い店内で一番奥の席に彼女が居た。気怠そうに頬杖をついて、入って来た僕をチラッと見た。僕は軽く会釈をして一番手前の席に着いた。

「ウイスキーの水割りを」

 マスターは何も言わずに水割りを作ると、そっと僕の前に置いた。一口すする。奥の席からタバコの煙が漂ってくる。

「お一人ですか?」

 沈黙の空間に耐え切れず、僕は彼女に声を掛けた。

「悪い?」

 と、彼女は一言。これでは会話が続かない。

「地元の方ですか?」

「違う」

 彼女の素っ気ない態度に僕は閉口した。時間が止まってしまった空間にタバコの煙だけが漂っている。


 僕は水割りを飲み干すと席を立った。そろそろタクシーを待つ行列も落ち着いている頃だろう。料金を支払うと店を出てタクシー乗り場へ行った。予想通り行列はなくなっていた。けれど、タクシーも止まっていなかった。スマートフォンで時間を確認する。始発までにはまだ時間がある。歩いて帰れる距離ではあるが、その時、僕の頭の中に先ほど立ち寄った店に居た女性の顔が浮かんだ。いつの間にか僕はそこへ向かって歩き出していた。

 店に着いたとき、看板の電気が消えた。僕はドアを開けて中を覗いてみた。

「あ、終わりですか」

「大丈夫ですよ」

 そう言ってマスターは店に入れてくれた。

 店に入ると居た。彼女が。酔いつぶれてカウンターに突っ伏して。そんな彼女を見ているとマスターが呟いた。

「いつもこうなんですよ。宜しければ隣に座ってあげてください」

「余計なお世話よ」

 彼女が急に起きだしてマスターを睨んだ。

「帰る」

 彼女はそう言って席を立ったのだけれど、ふらついて僕にもたれかかった。

「ちょうどいい。送って…」



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