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永遠に響く風の歌  作者: 長澤まき
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26. 頑固者の歌


あの日から、盟主たちと塔の広間で話をしてから、何日経ったのだろうか。


祈りの間でずっと祈り続けていた。


精霊に、クレイに、亡くなった人々に、この世界の安寧に。



塔の入口は閉ざしてしまった。


私に出来ることは、もうこれしかないから。



身体が重くて熱い。


でも、クレイが炎に包まれた時はもっと熱かったはずだ。



そういえば、ランドルフに引き取られた頃にもこんなことがあった。


あの時は、確か、お母様が……



たくさんの幸せの記憶が、シャボン玉のように浮かんでは弾けてゆく。



もっと早くに出逢えていたら―――。



ランドルフの子どもとして生まれることが出来ていたなら―――――。






夢と現の狭間を漂っていた気がする。

ふと目を開けると、祈りの間にいたはずがなぜか広間のソファで横になっていた。


「起きた?」


「……あれ?夢かな……ソフィーが……いる……風は…水に……沈められた……?」


「なに馬鹿なこと言っているのよ。おはようルーチェ。」


そうだ、私はルーチェ・エル・リュミエール。

愛し子のなり損ないだ。


光の眩しさに腕を持ち上げると、隠すことができないほどの禍々しい紋様が刻まれていた。


「こんなになるまで……本当に貴女は馬鹿ね。」


ソフィーは目にいっぱいの涙を溜めてぎこちなく笑った。


「水の国で……何かあった……?大丈…夫?王は……?」


「ルークは多分、王城で盟主たちと会談してる。真っ先に心配するのが私のことだなんて……」


「泣か…ないで……本当に……この国が……水に……沈んじゃう……。」


笑わせるつもりだったのに、うまく声が出せない。


何とか言い切って笑ってみせると、ソフィーの目からはポロポロと涙が落ちてきてしまった。


「貴女のために何もできない自分が許せない!私はルーチェに助けてもらったのに……!」


「十分……助けて…くれてるよ……。」


「そんなの当たり前じゃない!他の愛し子たちも皆心配してる。こんな姿になって……」


腕の紋様にそっと手で触れ、肩を震わせるソフィーを見て、初めて水面越しに会った日のことを思い出した。


「ありがとう。少し……気分が……楽になった。」


ソファから身体を起こし、ソフィーの手を取って握った。

温かな優しさが伝わってくるようだった。


「……ルーチェが頑固なのはわかってたつもりだった。でも、私だって頑固なの。」


「うん……知ってる。」


「私は貴女を失いたくない。だから……だから、貴女が話さないのなら愛し子のことをあの人たちに話すわ。」


「……っ!ソフィー……っ!」


「そうでもしないと、ルーチェは生きる選択肢を選んでくれないでしょ?風はいつだって自己犠牲がすぎるって水の精霊も言っていたわ。」



「自己犠牲……だなんて……」


「してるでしょ。馬鹿よ、大馬鹿よ!なんでこんなことになるのよ。ちゃんと話しなさいって、信じなさいって……大切なヒトと心を通じ合わせる勇気を持ちなさいって私に言ったのは貴女じゃない!」


強い意志を感じさせる瞳に睨みつけられ、言葉が出なくなってしまった。


「ありがとうソフィー。でもね……」


「諦めろ。水の愛し子もお前に負けず劣らず頑固だ。」


いつの間にかリューが背後に立っていた。


礼を取ろうとしたソフィーを止めて、私の顔を覗き込む。


「私の力が届かない形で、全てを終わらせるつもりだったのだろう?」


やっぱり何でもお見通しだ。

リューはいつも通りの無表情だけど、今はなぜか泣いているように見えた。


「ならば真の意味でお前を守るのは、精霊の加護ではなくヒトの想い、なのだろうな。」


目の前に翳された手から風が紡ぎ出される。


「彼奴も言っていただろう?『恐れるな、信じろ。』と。」


ソフィーと共に暖かな風の渦に巻き込まれた。


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