第9話 悪夢
悪夢を見た。
夢の中で、私は走っていた。
長い廊下を駆け抜け、道を折れる。その先には個室がいくつもあった。
ドアをひらけると洋式便器があり、中には水が溜まっていた。
私は、もう我慢できず、下着を脱ぎ、座り、ほっと息を洩らす。
危なかった。
――――――危なかったじゃない!!
「うあああああああっ、またやってしまった」
ベッドの中で目を覚ますと、下半身が濡れていた。
カボチャパンツだけでなく、レースの寝間着まで濡れていた。
幼女になったためか、どうも抑えがきかなくなっている。
体が大きかった頃は、トイレの夢を見て、決壊するなんてことはなかったのに、幼女になってからはまるっきり駄目だ。
シーツには、世界地図かと思えるくらいに大きなシミが出来ていた。
「いつになったら、おねしょしなくなるのかしら・・・まあいいわ」
私が、パンパンと手を叩くと、私の仲間である三人が部屋に入って来た。
ライン、ロイ、ピエールの三人とも、私の虜になっている。
私が死ねと言えば、喜んで死ぬし、泣けといえば、喜んで涙を流す。私の足をなめろと言えば、喜んで舐めるし、私の汚○を食べろといれば、喜んで食べる。私の前で、男同士楽しめと言えば、楽しむし―――――とまあ、私の言うことなら、何でも言うことをきく玩具と化していた。
「また、やってしまったわ」
「よく、あることですよ」
とピエール。綺麗な歯を出して笑っている。
「でも、やっぱり、幼女だけれど、はしたないことよね」
「まあ、俺だって、時々やばいことはあるからな」
耳の穴をほじくりながら、恥ずかしそうに言うロイ。
「でも、どうしましょう。すぐに洗わないと」
「俺が、洗っておくよ。いや、むしろ、メリクリの汚したのを洗いたいんだ」
私のそそうを洗いたいと膝まづく、ライン。
それから、三人は、私の世話をしてくれた。
ピエールは、私の服を着替えさせてくれたし、ロイはシーツを洗いに行ってくれた。ラインは、私の汚れたパンツを口に含み、洗うなどという変態的パフォーマンスをしようとしてくれたが、さすがに、そこまではと思った私は、彼に足蹴りをくらわしてやった。
ラインはそれすらも、喜んでいた。
私は黒のローブに着替え、中庭に出た。
噴水が、私を歓迎しているかのように噴き上がり、
小鳥たちが歌を歌いながら、青い空に羽ばたいた。
芝も色とりどりのお花も、朝陽に照らされ、すべて金色に輝いていた。
雲一つない、いい天気だった。
「メリクリ、朝食は何がいい?」
ピエールが私に聞く。
「そうね、パスタと、サラダと、ケーキが食べたいわ」
具体的な指示を出してはいないのに、三人は私に気に入られようと、私に言われた料理を各々集めに行く。
カルボナーラ、マンゴースパゲティー、明太子スパゲティー、シーザーサラダ、サウザンドサラダ、ドクロサラダ、フルーツタルト、ショートケーキ、チョコレートケーキ、どれも個性的で、どれもおいしそう。
でも私は、
「やっぱり今は、パンが食べたい気分なの。それとフルーツジュースが飲みたいわ」
といっても、彼らは顔色一つ変えることなく、再び料理を持ってくる。
そんなことをしていると、テーブルの上に料理がのりきらなくなってしまう。
「山積みになってしまったわね。これどうしようかしら、こんなに食べきれないし」
というと、彼らは、私のためを思って、それらの料理を食べ出す。
なんて、面白いんでしょう。
私は、椅子に深く腰掛け、ほんのり桃色をしたフルーツジュースを飲む。
イチゴ、オレンジ、レモン、マンゴー、隠し味に塩を少々。
イチゴがベースの味となっており、舌触りが滑らかで、すごくおいしい。
「ねえ、メリクリ。昔、メリクリは『婚約破棄よ!!』と言ったことがあるって言っていたよね」
「そんなこと、言ったかしら?」
「うん。確かに言っていた。僕が婚約破棄と言われて、落ち込んでいる時に、メリクリも言った事があるって」
私は憶えていなかった。
「で、ピエール、それがどうかしたの?」
「あのさ、その薬指にはめた銀色の指輪って、婚約指輪だよね」
「ああ、これは・・・」
「メリクリは、まだ、その婚約指輪をくれた人のことを思っているの?」
「どうしてそう思うの?」
「だって、時折、その指輪を慈しむように触っているじゃないか」
ピエールは私ですら気がつかなかった、無意識で行われていた所作について指摘してくれる。
たしかに、私は、フルーツジュースを飲みながら、アレルがくれた婚約指輪に触れていた。
「面白い指摘ね。でも、これは私自身への戒めなのよ。私は、彼に対して復讐を誓った。それを忘れないために、ずっとはめているの」
「そうなんだ。僕の勘違いだったんだ。でも、なら、すごいよね。その彼、君ぐらい強くても、まだ復讐を果たせないほど強いんしょ」
「ええ、彼は、魔王を倒した勇者ですもの」
ピエールの指摘は正しかった。
私はいつでも、勇者パーティーに復讐を果たせるほど、すでに強くなっていた。
なのに、なぜ、私は、復讐を果たさないの?
ざまぁをしないの?
私は、まだ、あのアレルに惚れているとでもいうだろうか?
「あれ、メリクリ、どこに行くんだ?」
中庭を横切ってゆく私に、ロイが声をかけてくる。
「私は、私自身の真実を知るために、消毒師の像に再び会いに行くのよ。あの冷たい魂を宿した石なら、それを教えてくれるはず。さあ、あなたたちも準備しなさい。そのために、あなたたちを仲間にしたのだから」
三人は、唾を飲み込んだ。
さあ、どのような結末が待っているのかしら。