第7話 二人目の仲間
学校で言うところの生徒会長と同じくらい誉れ高き職業―――赤ちゃん兵士団長に、若干二か月という若さで成り上がった赤ちゃんがいた―――その名は、ロイ。
三白眼におかっぱという一見、ヤバそうな外見をしたその赤ちゃんは、20歳になるころには、西の大国ブリブリに置いて、1億の兵を率いる兵士団長にまで上り詰めたそうだ。
しかし、彼には二つの問題点があった。
一つは、攻撃的で、所かまわず斬りかかるという、モンスター大図鑑に間違ってのってしまうほどの戦闘狂だった。もう一つは、彼は態度が悪く、人に嫌われ、また妬みを買うという性質を生来持っていた。
これらの性質により、先の魔王大戦時に置いて、魔王側に寝返ることを恐れた悪役大臣に、誘惑され、それに屈したロイは、絶海の孤島に幽閉されてしまう。
だが、その幽閉は、悪役大臣の、一年間の便秘によってもたらされた不運な死によって解放されることとなった。
10年間の幽閉の後、故郷を見た彼が呟いた言葉は次のようだったと言う。
「メスゴリラしかいない弧島に俺を閉じ込めた、ゴミどもを味わってやる」
しかし、彼を幽閉した悪役大臣はもういない。そして、関係者も、不運の死を遂げたらしい。
だが、彼には、そんなことは関係なかった。悪役大臣も醜かったとはいえ人間だ。
人間ならば、悪役大臣だ!!―――というよくわからない論法を唱えたロイはなんと、殺人鬼となって帰って来たのだ。
○
「あなたが、ロイね」
「あん? あんたは?」
私が、ロイと出会ったのは、下水道だった。
汚水流れる、汚い地下水路で、ロイはボロボロのマントをまとい、座り込んでいた。
「どうして、そんなにしょんぼりしているの? もう殺人には飽きてしまったの?」
「ああ、飽きたさ。老若男女ところかまわず、殺しに殺しまくって、俺を追いかけてくる奴らも殺しまくって・・・・・・不運にも、俺は、人を殺すことにもう飽きちまったんだ。だから、こうして、死をまっているのさ」
ロイの顔はやつれていた。目は落ちくぼみ、頬はこけている。肌は、死人のように艶を失い灰色をしていた。
「死ぬ前に、私の仲間になる気はない?」
「あんたの仲間? 嫌だね、俺より弱い奴の仲間になるだなんて」
「そんなことないわ、私は強いわよ。誰よりも。ほら、先の魔王大戦があったでしょ。あの時の、勇者パーティーの一員なの。ちなみに、あの勇者パーティーは私がいなかったら、全滅していたわ」
私は嘘をついてはいなかった。私がいなければ、勇者パーティが絶滅していたのは事実だ。
そもそも、私は強い。
だって、暗黒面に目覚め、今や筋力パラメーターは、冒険者カードのステータス枠に収まりきらないんですもの。
「へえ、しょんべんくせえ餓鬼んちょに見えるけど、お前、強いんだ。とても信じられないな」
「なら、一発殴らせて、そうすれば、私の強さがわかるから」
「ああ、いいぜ」
ロイは、重たそうに体を起こし、私に頬を突き出した。
私は、鼻くそを飛ばす程度の優しさで、殴ったつもりだった。
ピンと。
が――――――、
「うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ロイの絶叫が轟くと同時、
ロイは、地下水路の天井を突き破り、青空をつき抜け、大陸二つを横断し、
山を幾つも砕き、とある草原に叩きつけられた。
私は、空間転移魔法を使い、ロイのもとに行く。
「どうだった?」
「す、すげえよ」
ロイは、穿った地面から体を起こした。
「あなたもすごいわね。死ななかったもの」
「俺が死ななかった? ん? ああ、たまたまさ。打ちどころがよかったんだ。また、偶然、生き残っちまった。ラッキーだったよ」
「うふふ、よかったわね」
「・・・あんたが強いのは、わかった。だが、まだ腕の方は試していない」
「あら、もしかして負けず嫌いなの?」
「どうとでも言ってくれていい。俺は、この肉切り包丁であんたの実力を試さしてもらう」
ロイは、股間の間に仕込んでいた肉切り包丁を抜いた。
よく使いこまれており、よく磨かれている。
すでに、刃の長さは数ミリしかない。
「それが、多くの人間を調理してきた肉切り包丁ね」
「ああ、肉職人としても、評判が良かったんだ。みんな、俺がさばく肉はうまいと言ってくれたよ」
「うふっ、変な人。妄想かしら?」
「いや、事実だ。それに、俺はあんたのような幼女の肉が、何よりも好きなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
私とロイとの死闘は、それこそ私にとって長い時間続いた。
ロイの繰りだす光速の斬撃を、私がまつ毛の先ではたき落とす。
なんか、私たちはダンスをしているようだった。
そして、数秒後、戦いは決する。
ロイは、両膝を地面につき、続いて両手もついた。
「どうしたの?」
「もう戦いはやめだ。どうあがいても、俺はあんたには勝てない」
「どうして、そう思うの?」
「だって、あんた、逆立ちをしながら俺と戦っているじゃないか」
どうやら、私が居眠りをしていたことに気がついていないらしい。
私は、あまりにも遅いロイの斬撃に、暇をもてあそび、お化粧直しをし、それでもまだ来ないロイの斬撃を、ペタペタペタと何千回と触れた後、逆立ちをして寝てしまっていたのだ。
「それが、あなたのプライドを刺激してしまったのね」
「ああ・・・・・・」
「で、私の仲間になってくれるの?」
「・・・条件がある」
「なに? 条件って?」
「腹が減っているんだ」
「あら、そう」
私は、自分の一部をズバッととか、ブチッとしてロイにあげてもよかったのだが、世界崩壊が恐ろしかったので、最も無難な、私が知っている高級料理店に連れて行ってあげた。
料理店に連れていく前に、ボロボロの服から、しっかりとした正装に着替えさせてあげた。
おかっぱ頭に、三白眼、低身長ではあったが、
ロイは髭を剃り、髪を整え、しっかりとした服を着れば、かなりのイケメンだった。
「どう? 美味しい?」
「ああ」
ロイは、慣れないフォークとナイフを使い、肉を切り分け、食べている。
その肉は、ちゃんとした家畜のもの。
ちゃんとしたシェフが、香辛料で味付けし、レアに焼いた、誰もが舌鼓みを打つものである。
「なんか、人間らしさを取り戻したみたいね」
「あんたの言う、人間らしさとは何だい? モグモグ」
私は、ロイの言葉にハッとしてしまった。
人間らしさとは何だろうか?
そのような規範を誰が決めたのだろうか?
そして、
この世界の規範は誰が決めたのだろうか?
声の大きかった人?
自己主張の強かった人?
権力を持った人?
「・・・まあ、そんなことどうでもいいじゃない」
「ああ、肉がうまいからな。モグモグクチャクチャ」
「で、料理はお口にあったかしら?」
「もちろん」
ロイは、おいしそうにステーキを頬張る。
私は、こうしてペットをもう一匹、手に入れたのだった。