アンドロイドはタイムマシンについて講義したい
何故、こんなにも謝られただけで嫌な予感がするのだろうか?例えるなら、フラグのようだ。そう、死亡フラグ。……まあ、別に死ぬわけでは無いだろうから大丈夫だろう。うん!
安心していると、アルはニコニコしながら口を開く。
「ところで、マスター?」
何だ?このプレッシャーは!?口は笑っているのに目が笑っていない所為で滅茶苦茶怖いんだが……
「マスター、知っていますか?」
「えーっと、何をですか?」
ずいっと一歩近づいてくる
「私、たとえ心の中だとしても、罵倒されるのって、嫌い、なんですよね。思わず武力行使するぐらいには」
「へ?」
自分が間抜けな声を出しているなー、と妙に冷静な自分がいる。まあ、現実逃避なのだろうが。というか、目の前には銃口、首元にはナイフの切っ先という現実から逃げ出したい。ただ、手足が動かなくて物理的に逃げ出せないのだが……
「えーっと、これは何?」
おそるおそる聞いてみると、アルはナイフを数本宙に浮かしながら無音で特殊な形状の拳銃を自慢げに見せてくる。
「このナイフは人型の機体に標準装備されている浮遊懐剣『フローティング・ソード』です。で、こっちの拳銃は”私の”特殊兵装です!」
「そう、なのか……」
「はい、そうなんです!」
そんな良い笑顔を向けないでほしい。眩しすぎるよ……、銃口が……
「そういえば、その特殊兵装って、何なの?」
「これですか?さあ?知りませんよ?」
「え?」
知らないって、どういうことなんだろうか?
「そういえば、博士が来れないという説明をしていませんでしたね。そっちを先に説明しましょう」
露骨に話題を逸らしてきた?いや、でも博士が来れないっていう理由も凄く気になる……
「そもそも、タイムスリップをどのようにして成功させたのか、ですが、これには色々な機密が詰まっているので話すことができません」
「そうなのか……」
「はい。まあ、私も知らない技術であふれていますからね、教えようとしても教えられないのが現状なんですが」
そう言ってアルは申し訳なさそうに頭を下げる。
「しかし、公開していい情報も在るので、それについては説明しますね。そもそも、私たちアンドロイドが使っているタイムマシンは前にちらっと話しましたが『時間跳躍』ではなく、『時間転移』です。一般的には、あぁ、今の時代では知りません。博士の時代の、ということなのですが、時間跳躍と時間転移はその『過去、もしくは未来へと渡る為の手段』という性質上、同一視され、呼び方の違いだと言われていました。しかし、博士の持論では、この二つは『同じ結果を生む』というだけで、本質的には別の物、ということです」
「別の物?」
「そうですね……、では、たとえ話、といきますか」
おもむろに近くにあった紙とペンを用意する。
「此処に、紙とペンがあります。この紙にペンを使って文字を書くのと」
以前にも使ったプロジェクター(目からビーム)で文字を映し出す。
「この様に映写機による文字の表示。同じprint、文字の出力でもその本質は全くの別です。片方は物に『書く』のに対し、もう一方は『映す』というところだけを見ても全くの別物です」
「つまり、時間跳躍と時間転移は書くのと映すという様に大きな違いがあるのか?」
「はい。その違いというのが、『移動』か『転移』という違いです」
「移動と転移?」
思わずオウム返しで聞いてしまうほど意味が分からなかった。どちらも動きを表しているし、違いはないような気がするのだが?もちろん、転移なんて今の技術じゃできないだろうけど、そんなのはアルとかの技術的になんとかなりそうだし……
「はい。そもそも、時間跳躍のイメージは『渡る』が近いです。これに対し、時間転移は『瞬間移動』です」
「ごめん、それじゃあ理解できない」
「そうですか?……そうですね、でしたら、瞬間移動のやり方について少し説明させてもらいますね」
手に持っている紙に二点ABを描く。
「このA地点からB地点に最も近い線を引くとどうなりますか?」
[二点ABの最短距離を求めよ]問題文にすると難しそうだが、これは結局直線で結べば良いだけなはずだ。そう答えるとあるは不機嫌そうに、正解、と返ってきた。どういうことだ?
「確かに、それが平面の世界では最短です。これをもとに、最短距離に道を造り、そこを高速で移動するのが現代の……、あぁ、未来の一般的な疑似転移装置です。しかし、この技術は壁が出来てしまうと使用不能です。そして、遅いのです」
「遅い?え?でも、最短距離なんだよね?」
「いえ、もっと短いのが在ります」
えぇっ?最短距離よりも短い??どういうことなんだろう……
「分からなそうなので、ヒントを与えましょう」
そう言って、アルは紙を折り曲げる。折り曲げる?もしかして……
「分かったようですね?」
「AとBを重ねるように折り曲げるのか?」
そう聞くと、アルは嬉しそうに、正解です!と返してくる。
「そう。紙を折り曲げてしまえば良い、そう考えてしまったわけです。そして実際に完成させたのが瞬間移動装置なのですが、実際には稼働せずに研究価値は在ったが使えないな、という評価になりました」
「なんで?使えそうな技術じゃないか」
「実は、この装置には重大な問題が在りまして……」
「問題があったのか」
「はい。この、AとBを重ねるのは出来るのですが、重ねたところで道は繋がらないのです」
さっき折った紙を見せてくる。
「このABは重なってはいても繋がっているわけでは無いので移動に使うためには、そこを繋げる、もしくは」
アルは言葉をそこで言葉を区切ると、ペンを持ち、刺す。
「穴を開けるしかない。しかし、道を繋げるには莫大なエネルギーが必要で、むしろ普通に行った方が早いというレベルでしたし、穴を開けるという方は、その、中の人間が耐えられず、壊れてしまうような状態でした」
「それは使えるというレベルじゃないな」
「はい。実際、未だに転移システムは完成していません」
ん?それだとおかしくないか?確か……
「その顔は疑問に思っていますね?『じゃあ、なぜタイムマシンは時間”転移”装置なのか』と」
「そう!なんで転移装置なの?」
「それはですね、全て博士の所為です」
「へ?」
「そもそも、時間の移動には時間跳躍の方が進んでいてメジャーでした。むしろタイムマシン=時間跳躍というのが主流でした。しかし、『時間』という壁にぶつかり、どのようにしてこの壁を破壊ないしすり抜けるのか考えていました。そこに博士が現れ、全て壊していきました。それが」
「アンドロイドという特定の種に限った限定的だが完全の時間転移」
そう言ってやるとアルは驚いてアホっぽい顔をしていた。少し笑ってしまったらナイフが浮遊してきた。うん。このぐらいでやめておこう。しかし、本当に悔しそうな顔をしていたのは面白かった。
「よ、良く分かりましたね」
「まあ、転移の問題が『人間が耐えられない』だけだったからな」
「そうなんですよね。元々あまり調べられていなかった転移という分野を使っていたのが博士の新しい方法です。まあ、人間が使えなくなってしまったというデメリットができましたがね」
「じゃあ、博士が来れない理由って!」
「そうです!博士も一応は人間なのでこちらには来れません!」
「よかった!アルみたいなのが二人に増えたら対処できないからな。まあ、説明してくれる時は真面目だったから忘れがちだが、アルだしな」
「………」
「……あ」
無言のまま二丁拳銃を抜き、ナイフを浮かせ、浮いているナイフを使いこなせるような独特な構え方で銃口を向けてくる。「あ、死んだ」と、素で思ってしまった。と、とにかく話題を変えないと!
「と、ところでアルさん?」
「はい。なんでしょう?」
うわ、ガチ怒りだ。何か、何か話題を!
あれ?おかしいな、未来について語るのはこれで終わるはずだったのに、何故、ナゼツヅクンダロー