第十二話 病欠している間は余計に何かしたい。
腰を痛めて学校を休んだ獅子雄。
そんな獅子雄を心配する出雲と亜紗妃だったが。
いつも読んでくださりありがとうございます。
投稿が大分遅れてしまい申し訳ございません。
これ以降の投稿に関しましては、不定期になりますがご了承ください。
こ…腰を完全にやってしまった。
石頭を持つ出雲の頭突きに加えて、元ヤンで昔鍛えていた竜子さんによる踵落としの連撃を喰らったからだ。
同じ日に、たった数分の間に連続攻撃を喰らえば誰でも腰を痛める。特に竜子さんの踵落としはまさしく殺人技で、病院送りにされた人は数え切れないと言われている。
「お、お兄…これをどうぞ、お納めくださいませ」
「確かそれって、今大人気のケーキ屋で売ってるプリンじゃないか。しかも並んでもなかなか買うことが出来ないって噂の」
「なんとか苦労して手に入れてきた。お兄の腰を破壊した挙げ句に、色々迷惑を掛けたから」
ヤバい…俺、超被害者なのに感動して涙が出てきた。でもなんで破壊を英語にしたんだ?
「あとこれは竜子姉からのお詫びだって」
プリンと一緒に差し出された竜子さんからのお詫びの品は、煙草の箱とライター。これを貰っても困るだけなんだが?
まず俺は未成年かつ、煙草の臭いが正直言って大嫌いだ。
普段は竜子さんに目を付けられないように我慢しているのだが、俺に大嫌いな煙草を吸えとでも言っているのか?もしそうだとしたら大問題だ。
未成年に煙草を推奨するというのは、法律的にもかなりマズイ。
「竜子姉ってば、お兄の事を全然分ってないよね。お兄に似合うのは、普通のコンビニとかで売ってる奴よりもジッポーのほうなのに」
「お前も全然分ってねぇよ。まぁライターは別の要点で役立てられるが、煙草の使い道なんて…ヒルを取る事くらいしか思いつかないな」
「私も煙草っていうと、竜子姉が前に見せてきた滝登りって技とかとか煙の輪っかを口から出すのしか思いつかない」
いくら考えたって煙草を吸う気が無いから、考えるだけ無駄だ。
捨てたら捨てたで見つけられた時に文句を言われるだろうから、机の中にでも保管しておけば良いか。それも見つけられたら、大切にしてると言えばなんとか納得して貰えるかもしれない。
ところでだ…いつもは出雲と一緒にいる亜紗妃ちゃんが見当たらない。
「亜紗妃ちゃんはどうした?一緒じゃなかったのか?」
「なんか、お兄がダウンしてる分を代わりに頑張るって言ってて。今は竜子姉に教わりながら中型魚辺りの水替えしてるはずだよ」
「流石に変な事とかを教えたりしないよな?俺に煙草を渡したみたいに」
「流石に亜紗妃ちゃん相手にはしないでしょ。でもちょっと心配になってきた…私も前にビタミンが摂取出来るとか言う電子タバコ渡されたけど」
出雲にまで渡していたのかよ…本格的に心配になってきた。
「俺は良いから、亜紗妃ちゃんのサポートを頼んで良いか?むしろそうしてくれ」
「本当に大丈夫?なんだったら亜紗妃ちゃんを連れてきたほうが喜ぶ?私より色んなお世話とか頼めるよ?」
おふざけが過ぎる出雲を睨み付けると、そそくさと部屋を出て行った。アイツは人を心配しているのか、苛立たせに来ているのかどっちなんだ。
出雲が自身の大好物であるプリンを買ってきてくれたのは嬉しかった…だがテーブルの上に放置されるのは正直言ってキツい。こっちは腰を痛めているからベッドから降りるのがかなり辛い。
「どうしてこうなっちまったんだ…俺が一体何をしたって言うんだ。学校も休まないと行けないし…考えたら龍子姉さんの手伝いもしないといけないってのに」
もう少しでテストもあるって聞いてるのに、不安になってきた。
いや待て、今こうして動けない時こそ少しで時間を有効に使う為に、学校を休んでいる間は勉強をするべきだ。若い時だからこそ時間を無駄にしてはダメだと近所のたまに店に寄っていくおじいさんが言っていいたはず。
多分若い間に遊んでおけと言う意味で言ったんだろう。だが俺は少しでも勉強を頑張らないといけない。
ただでさえ家の手伝いと俺の可愛い金魚たちの世話で勉強をあまりしていないんだ…少しでも休める時間に努力をしておかないと。
赤点なんて取ったりしたら、金魚たちの世話も出来ない挙げ句、竜子さんに馬鹿にされ続けるのが目に見えてる。
「よし…マジで勉強しよう。まずはゆっくりと片足から下ろして」
ベッドからゆっくりと片足を下ろしただけで、腰から全身にかけて激しい痛みが走る。
あえて言わせもらう。俺はこれ以上は動ける気がしない!
本当に腰が限界に来てる!壊れる!ヘルニアになった事ないけど、多分これぐらい痛いんだと思う!
やはり二人の攻撃は殺人級の威力を持ってると再認識が出来た。
「し、失礼します。お、お兄さん…一体何をしているんですか?」
言えない。勉強をしようとしてベッドから降りようとしたら、激痛で動けなくなったなんて、恥ずかしくて言えない。
「もしかしてトイレに行きたかったんですか?言ってくれればお手伝いしますよ?」
「違う…別にトイレに行きたいわけじゃないんだ」
「トイレじゃないということは…あ!金魚さん達のお世話は大丈夫です!私も結構お水を換えるのが上手くなってきたんですよ」
違うんだよ…心配をしてくれているのは嬉しいけど、考えていることが全部違うんだよ。本当は勉強をしようと思ってベッドを降りようとしただけなんて言ったら、あとで出雲達に絶対笑われる。
「お店のことも安心してください。しばらくはゆっくり休んで、体を治すことを優先してくださいね」
「あ…うん、ありがとう。ところで…出雲と入れ替わりで来たみたいだけど」
「実は出雲ちゃんが、お兄さんを一人にしておくと安静にしてないと思うから側に居て上げて欲しいって頼まれたんです」
「出雲か…なるほどな」
行動を先読みされていただと?しかも出雲にだ。
今までで出雲のやりそうな事を先読みすることはあった。だが逆にこといらの行動を先読みされるといったことは無かったのに。
変なところで悔しい気持ちが芽生えてくる。
「今日はお客さんも少ないみたいで、お姉さんは退屈と言いながらアロワナを眺めてましたよ」
竜子さんの様子を報告しながら、優しく腰をさすってくれてる亜紗妃ちゃん。手の温もりを感じていると、これがなかなかに幸せな一時と思えてくる。
何よりマッサージがかなり上手い。それも的確にこっていることろや、押して欲しい位置を分かっているかのように押してくる。
「この辺りとか結構こってますね」
「そうなんだよ。大型の水槽のメンテナンスをしたりすると結構腰に来るんだ」
「見ていて思います。大きい肉食のお魚の群れに手を入れて、ガラスの汚れとかを一生懸命拭いてますよね…私、いつもその姿を見て尊敬してるんです」
尊敬しているといわれると、照れくさいな。妹から尊敬なんてされたことすらないから、結構新鮮な感覚だ。
照れくさい理由の一つは学校の後輩って所もあるんだろう。ようは後輩に頼られて尊敬される先輩ってのが、これなんだな。
「あ、そういえば出雲ちゃんと一緒にプリン買ってきたんですが、一人で食べれそうですか?無理そうならお手伝いしますが」
「その辺は大丈夫だよ。ありがとう、さすってくれたおかげで少し楽になった」
後ろの方を向くと、笑顔で嬉しそうにしていた。いつ見ても、優しく笑うんだな。
最近じゃあこの笑顔を見るのがほんの少しだけ、日頃の癒しになってきている。
俺は多分ゲイとかではないはずなんだが…龍子姉さんの影響もやはりあるのか?それに加えて我が家には現在腐女子が三人もいるわけで、そこにアロワナ系女子と古代魚大好き親父がいるわけだ。
かなり癖が強いような家族構成だな…俺も金魚大好きヤクザみたいなものだから。
「ヤバい!あの変人がまた店に来てる!てか竜子姉と超意気投合してる!本当に何者なの!?」
「何者って言われても、俺の小学校時代の同級生としか言いようがない」
いきなり青ざめた出雲が部屋に入ってきたが、話しの内容からして峯崎がまた現れたようだ。もしこの状態で峯崎に突撃でもされたら、俺は対処する自信がない。
腰を痛めて身動きが殆ど取れない状態で、出雲達と峯崎による争いを部屋で起こされたりしたら、想像しただけで冷汗が出てきた。
前回の件で多少は懲りたかと思っていたんだが、あれは早々懲りないタイプの人間だ。
丁度目の前に丁度良い例が一名ほどいる。
何度言っても繰り返して懲りない性格の妹が目の前にだ。
「今日こそは絶対に撃退してやるんだから!亜紗妃ちゃんは全面的にお兄を守って。私は徹底的に戦う!竜子姉に教わった喧嘩方法で!」
「ま、まかせて!お兄さんは私が絶対に守ってみせるから!」
二人で守ってくれるというのはありがたいんだけどもな。逆に凄く不安で仕方がないんだよ。
扉の前で戦闘体勢を取りながら待機している出雲。喧嘩の方法を教えてもらったらしいが、手が猫みたいな形になってるんだが大丈夫か?
よく見ると腰が後ろに引けて、若干ウルト○マンみたいになってるぞ。
あと亜紗妃ちゃんも戦おうとしている意思は伝わってくるんだけど、枕を持ってかれるとこっちとしても辛い。戦闘態勢と言うよりは、ビビって枕を抱えているようにしか見えないんだ。
「しーしーくーん!?遊びに来たついでになんか色んな物を頂きに来たよ!名付けて、怪盗シュリンプ参上!!」
「怪盗シュリンプって…超ダッサ!」
出雲よ…俺も全く同意見だ。
「ダサいって、ボクの大好きなシュリンプを馬鹿にするのか!?」
「どう考えてもダサいじゃん。まだ怪盗ルナーとか怪盗ティアーとか怪盗レッドシャドーとか、他のカッコいいシュリンプ名とかあるじゃん!なんでシンプルにシュリンプの部分を取っちゃうかな!?」
敵対している相手にダメだしをするって、お前はどっちの味方をしてるんだ?
確かに俺も同じくダサいって思ってる。出雲が言うとおりにルナーシュリンプやティアーシュリンプ、他にもフィッシュボーンシュリンプなど現在も種類は増え続けている。
だが峯崎はきっとエビの中から一つだけ選ぶというのが出来なくて…きっと仕方なく怪盗シュリンプにしたんだ。
「エビが好きなら普通はそこから選ぶでしょ」
「だって…考えていくうちに面倒くさくなって、もうまとめちゃえばいいやって」
「俺の心の中にある僅かな心使いを返せこの野郎!!」
「なんでボクが獅子君に怒られてるの!?」
ダメだ…大声を出したら結構腰に響いてくる。
そっとしておいて欲しい反面で、三人がこれから何をしでかすか分らないから、心配で休む事すら出来ない。
「つまり、お兄も亜紗妃ちゃんも私同様にダサいと思ってるわけ。理解出来た?出来たんだったらさっさと下の店で有り金全部で高級エビを買っていけばぁ~?」
「へぇ、やっぱり獅子君の妹なだけあって結構可愛い顔してるんだ」
「は、はぁ!?いきなり何!?マジキモい!コイツマジでキモい!いきなり口説いて来た!マジお兄助けて!可愛い妹を魔の手から救ってよ!コンクリでどっかの海に沈めて来てよ!」
青ざめた顔で叫びながら、俺のベッドに逃げ込んで来る出雲。それも人の背中に乗っかりながら、シーツを被ってガタガタ震えてる。お前は女装系男子が平気だと思っていたんだが、峯崎は対象外だったか。
俺が腰を痛めていることすらを忘れているのか、思いっきり腰に重心を掛けて来てる。
「出雲ちゃん、お兄さんの背中に乗ったらダメだよ。今は腰を痛めてるのに」
「だってソイツが気持ちんだもん!これならお兄に守って貰えるのと同時に、ソイツにお兄との仲良しこよしを見せつけて嫉妬させられるじゃん!」
「ボクは兄妹仲良くするのは良いと思うけど?だって家族愛って美しくない?それにボクよりも、そっちの子の方が嫉妬してるように見えるけどね」
峯崎はそう言いながら、そっと亜紗妃ちゃんの方へと指を向けた。
「わ、私は別に…嫉妬なんて」
「亜紗妃ちゃんは良いの!むしろそれが可愛いって言うか、超可愛すぎるからOKなの!」
もう何を言ってるのか、自分ですら分らなくなっているな。
錯乱し過ぎていて、若干変な方向に走り出そうとしているようにも思える。というか本当に退いてくれないか?マジで重い上に痛い。
「別に血を流して争う気なんてないんだけど…そうだ、ボクと勝負をしてみない?ボクが勝てば、獅子君はボクの物。逆に負ければ引き下がるってのはどう?」
「お兄さんを物扱いしないで…ください。お兄さんは物じゃなくて、人なんです!だから…賭け事でお兄さんの取り合いをしようとかやめてください!」
「そうそう!お兄を物扱いして良いのは私と竜子姉だけなんだから!」
一人以外が…俺を人間扱いしてくれない。これって結構傷つくんだが。
特に妹から人間扱いされない兄って存在は、世の中にどれほどの数がいるのだろう。下手をしたら俺以外にも沢山いるのかもしれない。
てか人を賭け事の景品にするのをやめて欲しいんだがな。
「じゃあどうやって決めるの?まさか暴力とかで決めたりする系?」
「女の子殴るとかマジ最低なんですけどー!竜子姉とやり合うなら別に構わないけど、半殺しで済むかなぁ」
「喧嘩だけはやめろ。とにかく俺を賭けたりするんじゃない」
「お兄は何か良い案でもあるの?てかお兄が思いっきり追っ払えば万事解決じゃん!ハッキリしないお兄も半分は悪い!」
きっと背中の上で、出雲は腕を組みながら納得をしたような顔で一人で頷いたりしてるんだろう。
俺は一応ハッキリとしていた積もりだったが…出雲には誤魔化しているように見えていたのか?
ということは、亜紗妃ちゃんや峯崎も同じように見えているってことか。いやはや、本当にまいったぞ。
確かに亜紗妃ちゃんとは結構アレな方へ走りかけているのは自覚してる。理性を抑え切れていない俺自身が悪い。
「でもお兄は昔から結構押しに弱かったりするから、やっぱりここは竜子姉に頼むのが一番かな。私ちょっと呼んでくるから、亜紗妃ちゃんはお兄の護衛よろしく!」
そう言ったあとに、急いで部屋を飛び出して行く出雲。
こうして部屋の中に男三人だけ残されたわけだが、峯崎は何を偉そうに椅子に座ってるんだ。しかも結構短いスカートを履いているせいで、足組までしてるから中が見えそうだ。
以前に見せつけられたことはあるが、あれって見せられた所で見た目から違う性別で驚かされるだけで…得に何か感動するってのがないんだよな。
「獅子君って結構落ち着いた感じの部屋にしてるんだね。本棚は魚の本で一杯だけど…いやらしい本とか持ってないの?もしかして、本棚に細工とかしてあったりして」
なんでどいつもこいつも本棚の細工を見抜けるんだよ。
「その顔は図星の顔だ。ボクは別に獅子君がエロ本を持っていようが、金髪系が好みだろうが気にしない」
「あの…どういう意味ですか?」
「至って普通かつ簡単なことだよ。最終的に獅子君をボクに向けさせる事さえできれば、全てがボクの中では許容範囲になるってわけ…ボクを見てくれるなら、なんだってする」
「わっ私だって…お兄さんが振り向いてくれるなんら、なんたってできます!」
嫌な予感がしてきたんだが、気のせいであって欲しい。本気で峯崎のしでかしそうな雰囲気が怖い。
そう思っていたら、まるでこちらの意思を察したかのように、恐ろしい笑みを浮かべ始めた。
挑発でもしているのかのように、妙な手つきでこちらを誘ってきてる。
それに対して亜紗妃ちゃんが俺の前に座り直し、視線を塞ぐという謎の攻防戦が繰り広げられている。一体何の戦いを見せられているんだ。
「こうしてみるのはどうかな?獅子君に直接迫ってみて、反応が出た方の勝利って感じの?」
「一体…どんな勝負をする気なんですか?」
不敵な笑みを浮かべながら、突然上の服を脱ぎ始める峯崎。いきなりの事で顔を伏せてしまったが、相手は男だから別に伏せることなんてなかった。
考えて見れば以前に亜紗妃ちゃんも同じようにしたことがある。最近はそれが流行ったりしてるのか?
不安になりながらもそっと顔を上げてみると、峯崎同様に上の服を脱ぎ始める亜紗妃ちゃん。
まるでデジャヴな感じがしているんだが、この流れは多分あれなんだろう。漫画とかでアニメであるような、二人から同時に責められるってあれだ。
律儀にお互いにパンツと靴下だけは脱がないらしい。別に俺はそういったフェチとかってわけではないんだがな。
「準備は出来たから、あとは獅子君がボクか君のどちらかに魅力を感じるか迫ってみる。どちらを選ぶかは獅子君本院の自由だけど、もちろんボクを選んでくれるよね?」
「負けません…お兄さんを渡したりしたら、応援してくれてる出雲ちゃんに、会わせる顔がありません!」
勝手に二人で盛り上がってるみたいだけどな…俺はもう置いてけぼりにされてるんだよ。もう見る気すら起きないから、顔を枕に埋めていることに気づいてくれ。
「獅子君さぁ…こっちを見てくれないと困るんだけど?ボク達が勝負をするのには獅子君にジャッジして貰わないとだめなの?分るよね?ということで、一気にひっくり返すよ?」
「はい、お兄さんに決めて貰わないと、私達だけじゃ勝負にならないんです」
唐突に協力し合う二人。さっきまで敵対していた二人の間に何が起ったというんだ?
ついさっきまでお互いに敵同士だったにの、いつから協力する程の中に。まさか同じ意志を持つ者同士で、変に友情が芽生えたとかか?
結局は抵抗も虚しくひっくり返されてしまった。
俺の弱点であるくすぐり攻撃を使用してくるとは思ってもみなかった…完全に油断していた。
「もう逃げられないよ。腰を悪くしているこのタイミングだからこそ、チャンスは逃さないんだからね」
「しっかりと見て選んでください。私か…この人のどっちが魅力的なのか」
自身たっぷりの顔で余裕を見せる峯崎と、若干涙目になりながら不安そうな顔を見せる亜紗妃ちゃん。てか峯崎の肌がかなり綺麗すぎてびっくりなんだが。
亜紗妃ちゃんの方は以前から見てきたけども、峯崎は峯崎で結構白い肌をしてる。
って俺は何を考えてるんだ!?相手は男だって何度も頭の中で認識をしているはずだろ!?
「ほら、触ってみてよ。分るよね?ボクの心臓が早く動いてるのが…嬉しいからだよ?獅子君に会えたのが嬉しくて、いつもこうなんだ」
「わ、私だって同じです!私もいつだって、お兄さんの事を考えると胸が苦しくなって…でも前に抱きしめて貰った時は、胸が張り裂けるかと思って」
「はぁっ!?なにそれ聞いてない!ボク以外の子を抱いたって事!?それってかなり不公平だよ!?」
まるで人を浮気者みたいに言ってますがねぇ…俺は峯崎と付き合った経歴なんてないんだよ。それ以前にまず覚えてすらいなかったはずだ。
まるで付き合っていたのに、他の女に手を出したかの様な言われようだが、口に出して言いたい。言いたいんだが、声を出せる勇気が出ない。
それ以上に手に峯崎と亜紗妃ちゃんの鼓動が伝わってくるんだが、手の平が人肌に温かくて妙に心地が良い。
下手に考えるんじゃない…相手は男だから…でも見た目はやっぱり女の子だから。
「獅子君は見た目の割には草食系かと思ってたんだけど、意外と肉食系の獅子だったんだね。そんな獣にボクは、これからメチャクチャにされるのか」
だから勝手な妄想を広げるのはやめてくれ!マジで頭がおかしくなりそうだ!
「お兄さんが…ケダモノになる…私は、優しいお兄さんが良いです。優しく包んでくれる、いつものお兄さんがやっぱり好きです!」
「優しい系も良いんだけど、でも見た目的に少し乱暴的なのもまた興奮しない?理性爆発させちゃう感じで」
「やめてくれ…ただでさえ腰を痛めて弱ってるところに」
「やめるわけないじゃん。獅子君がハッキリとしてくれれば良いんだよ?獅子君さえ良いんなら、ボクは二人相手でも構わないんだから」
この峯崎の思考回路は、俺の考えを遙かに超えていた。まさか、状況を逆に楽しんでいたなんて。
亜紗妃ちゃんの方は、丸め込まれているのか、あるいは混乱してるのかまでは分らない。多分性格的に後者の方だとは思う。
もし、もしだ…この状況を打破出来る作戦があるとしたら、ただ一人だけ居る。
状況を破壊する事が出来る人物が…こっちに向かってきている音が聞こえる。
「テメェ!!よくもアタシの事を騙しやがったな変態野郎!!せっかく良くしてやってたのに、人の心を踏みにじりやがって!」
ただ一人の人物というのは、うちの姉である竜子さんだ。
「やっちゃえ竜子姉!アイツ私のことを口説いたりしてきたから、死なない程度に出禁にしちゃえ!」
「獅子雄ォ!!お前は後でシバキ倒すから覚悟しとけや!まずはそこにいる奴から徹底的に叩きのめす、今すぐ全員下のリビングに服着て来いや!」
それから俺達三人は、竜子さんの説教と言う名の制裁を受けた。
拳骨一発で済んだ亜紗妃ちゃんが羨ましいが、今回の一番大きいダメージを受けたのは峯崎だろう。何度も間接技を決められた挙げ句に、絞め落とされるのを繰り返されていたからだ。
俺は俺で同じように間接技を決められた後、お情けを受けながらも丸めた新聞紙の棒で、痛めている腰を飽きるまでお経で使うあれみたいに叩かれ続けた。