第十話 古い記憶は結構忘れている事が多い
いつもの様に学校へ通う獅子雄達だったのだが、今日だけは少しだけ違った。
暖かい日の光を浴びていると、不思議と心が穏やかになって行く気がする。
「アレ見ろよ。作品名【黄昏れる極道】ってどうよ?」
「面白みがないから却下だ。これならどうだ?【恋い焦がれる極道】とか【極道の失恋】なんて」
俺の安らかな気分が、一瞬で不愉快に書きかけられていく。
せっかく気持ちが良かったのに…黄昏れる極道ってなんだよ。
散々人の事をヤクザヤクザって言っていたと思えば、今度は極道に昇格ですか。
にしても…妙なのに目を付けられてしまった。
いつもは窓際にあまり立つ事はないのだが、今日だけは別だ、
昨日の夜に店でエビを買っていった美少女が…校門付近にある電柱の側でこっちを観察してる。
しっかりと双眼鏡も構えて、こっちを見つめてるのが丸わかりだ。
昨日見たいに出雲の好きそうなパンク系の洋服を着てるから、ここからでも結構目立つ。
最初は登校するときに出雲が背後を誰かが着けてきていると気づいてから、早足で撒いたつもりだった。
亜紗妃ちゃんとも無事に合流も出来たから、安心して学校に登校をしてきたはずだったのに、休み時間に出雲がわざわざ教室まで報告しに来た事で発覚した。
教室に入ってくるなり「お兄のストーカーが出た!!」って叫ぶから、教室内が大騒ぎになってしまった。
気のせいだと思いながらも外を見てみれば、確かに居た。
「金田君よぉ~。君は少し恵まれ過ぎじゃないのかなぁ?美少女な妹が居る上で、男の娘まで。しかも家には美人な双子のお姉さんまで居るって噂だぞ!?この極道者!」
「極道者ってなんだよ!?初めて聞いたわ!確かに家に姉が居るけどな!元ヤン相手に羨ましいって言えるのか!?怒らせるとスゲぇ怖いんだぞ!?」
隠してきた姉の存在を自分でバラすという馬鹿な行動を取ったが、羨ましいとか言われたらキレたくもなる。
あんな理不尽に暴力を働く姉を羨ましいと思うなら、同じ経験をしてみれば良いんだ。
「待て待て!元ヤンって事は、結構なアレじゃないのか?男との経験が豊富とか。写真だ!金田!写真を出せ!俺達がジャッジしてやる!」
ジャッジするも何も、俺は写真を持っていない。
まず竜子さんと写真を撮ることが…いや、そういえばあったかもしれない。
以前、出雲と亜紗妃ちゃんを連れて知らぬ間に出かけていた事があった。
その時に三人で写した写真を自慢目的で送られてきていたはず。
スマホを確認してみると、しっかりと写真が残してあった。
どの写真を見ても全部煙草を咥えてるが、しっかりと見ると全部が違う。
つか出雲達の前で煙草を吸うなってあれだけ言ってるだろ。
「おおおおおっ!?これが金田の姉さんか!?スゲぇ美人な上で、超おっぱいデケぇぞ!?」
「男子サイテー」
「うるせぇぞ貧乳!お前の貧相な胸で僻むんじゃねぇ!ってことわ…出雲ちゃんも将来かなり有望なのか!?俺、今から告白してくる」
「その前に俺がお前を締め上げるけどな。家族にそういう目的で近づくなら、友人でも潰すぞ?分ってるな?」
満面の笑みで言ってみたが、俺の目は恐らく笑ってはいなかったのだろう。
声も張り上げるとかではなく、静かに言ったものの、少し声が低くなってしまった。
そっと肩に手を置いたのも悪かったのか、ガタガタと震えてる。
なんだか悪い事をしてしいまった気がする…だがあとで出雲に何か言われそうだからこれ良い。
「じょ、冗談だよ?本気にすんなって。な?」
「冗談なら良い。これはお前の為でもあり、俺の為でもある。お互いに合意の上だよな?」
「金田君って、結構シスコンだよね~。学校来ると時も一緒に登校してるし。学校帰る時も一緒に帰ってるよね?私も弟がいるけど、絶対に一緒に帰ってくれないよ」
教室内では謎の兄弟姉妹話が始まり、自然に愚痴に変わって行ってた。
あるものはお兄ちゃんお姉ちゃんなんだから我慢しなさいと言う愚痴から、兄姉にこき使われたというものまで。
かなりデリケートな話をする者もいれば、凄く面白いエピソードを話す者も居た。
「それで兄と弟がさぁ、家族だけだからって、素っ裸で歩くんだよ。信じられる?たとえ家族だといっても恥ずかしいじゃん」
「俺は別に平気だけどな。妹が風呂に突撃してきた時には流石に驚いたけど。金田の所は仲良さそうだから、今でも風呂入ってそうだな。特にお姉さんと妹の三人で」
「マジでそうだった結構引くんだけど」
「…姉の方は…前に風呂場でたまたま会ったあとに、半殺しにされかけたよ…つか殺されかけた」
周りからの哀れみの視線を向けられる中で、一名ほど俺に馬鹿な質問をしてきたヤツがいた。
「裸を見たんだよな?どうだったんだよ?あの美人なお姉さんの裸は凄かったのか!?」
「本当にアンタ最低。こんな変態の質問に答えなくて良いよ。金田君?顔赤いけど大丈夫?もしかして風邪?」
「な…なんでもない。気にしないでくれ」
まさかここで、あの光景を再び思い出すことになるなんて思いもしなかった。
昨日あった件もあるが…最近はそういうことが多すぎないか?
「ちょっと、鼻血!金田君!鼻血出てる!保健室!誰か保健室に連れて行って!」
「こいつ姉の裸思い出して鼻血出してやがる!本当のシスコンじゃねぇか!」
騒がしくなる教室を後にした俺は、ティッシュで鼻を押さえながら保健室へ向かった。
別に問題はないと言ったとしても、とにかく行けと言われて行くしかないと判断するしか出来なかった。
もしあそこで意地でも行かないと言ったら恐ろしいことになっていたかもな。
「すいませーん。鼻血出たんで、少し休ませて」
「お、お兄さん?どうしたんですか?鼻血ですか!?大変です!先生!お兄さんが鼻血を!」
鼻血一つで錯乱する亜紗妃ちゃんを落ち着かせていると、ベッドの方から先生が顔を覗かせながら注意をしてきた。
そりゃ保健室で大声を出せば注意をされる。
皆して鼻血程度で大騒ぎし過ぎだ。
「亜紗妃ちゃんはなんでここに居るんだ?」
少し押し黙る亜紗妃ちゃんだが、よく見てみると体操着を身につけている。
前の時間は体育だったのだろう…しっかりとブルマを着用なさっています。
不思議な事にもっこりとした部分はないから、何かで固定でもしているのだろうか?
「実は…出雲ちゃんが、出雲ちゃんが…ひっぐ、わだじのぜいで」
突然泣き始める亜紗妃ちゃん。
抱きつきながらも、大声で泣くものだから先生もどうしたら良いのか分らないらしい。
とりあえず…出雲の身に何かあったのかは分った。
もしかすると、考えたくはないが…ベッドで眠っているのは出雲なのではないだろうか?
一体出雲の身に何があったんだ?
そんなに酷い怪我なのか?気絶するほど酷い怪我なのか?
頼むから、大怪我だけはしないでくれ。
顔に一生残る怪我はやめてくれ…骨折とかも絶対にやめてくれ。
願いながら俺は、ゆっくりとカーテンを開けた。
「…おっす。お兄、なんで保健室にいるの?もしかして可愛い妹が大怪我したと思った?あはは、体育でドジ踏んじゃった」
「怪我とか…してないのか?」
「軽い脳震盪を起こしたみたいだから大丈夫よ。何でも、ドドッジボールをしていて、その子を庇ってボールを取ろうとして頭に当たったらしいけど」
平気な顔をしながら笑う出雲を見て、腰が抜けてしまった。
心配して損した気分だが、酷い怪我をしていなくて本当によかった。
「お兄さん!鼻血!鼻血がワイシャツに着いてます!」
油断をしている間に、鼻を押さえていたティッシュを落としてしまい、ワイシャツにはかなりの血が付着していた。
一見するとまるで喧嘩でもしたかの様にも見えてしまう。
確か血ってなかなか落ちないんだよな。
「それだけ元気があれば大丈夫ね。まぁ念の為にご両親に連絡はしておくけど」
「あ、うち今両親旅行で居ないです。姉も多分大学で…あ、龍子姉が居る!」
「龍子姉さんには期待しない方が良い。あの人はまず必要最低限の時くらいしか基本部屋を出ないから」
しばらく出雲は保健室で休むということで、俺と亜紗妃ちゃんは教室に戻る事にした。
問題は鼻血で汚れたワイシャツだが、着替え用のワイシャツなんて普段は持ってきていない。
朝から妙な事が続いてるが、もうこれ以上は何もないだろう。
そう信じたい。
ただ昨日来たエビを買って行った美少女が、朝に着けてきた事が気になる。
結構手慣れた感じだったと思うが、気づく出雲も出雲で感が鋭い。
窓を見る度に、双眼鏡でこちらをしっかりと観察してる。
視線が合った瞬間に手を振ってくるあたり、本人は何かの目的がある事は確かだ。
そして狙いは出雲ではなく、俺だろう。
会った事が無いはずなのに、なぜ俺を着けてくるのだろうか…まさかこれがモテ期と言うヤツなのか?
だがあの子は…見た目の年齢的には学生だと思ったのだが、学校には行っていないのか?
今日の一日の半分が終わり、俺達はいつもと変わらぬ道を歩きながら家へと向かっていた。
今日もまた店番をしなくてはいけないのだが、やはり背後から付けられている。
出雲からも再び耳打ちをされたが、一度気づいてしまうと気になってしょうがない。
校門を出た辺りから尾行されているのは直ぐに分っていた。
もう良っそのこと話掛けてみようとするが、関わりたく無いのか、出雲が必死に恋人のように腕を絡めて止めてくる。
同時に亜紗妃ちゃんも同じ様に腕を絡めながら、まるでポジションなんか余ってません!とアピールするかのような感じでいる。
なんだか…ちょっと可愛い抵抗方法だな。
しかしだ!この方法にはとんでもない弱点が存在する!
それはまるで俺が…彼女とイチャつきながらも、妹ともそういう関係だと勘違いされてしまうと言う点だ!
しっかりと腕を掴んでるから、成長した出雲の胸とほんのりとあるように錯覚させられる亜紗妃ちゃんの胸が、腕を包んでくる。
つか出雲が知らぬ間に結構成長してるのに驚きだ。
「大丈夫だから。お兄と亜紗妃ちゃんは私が守る」
「守るって、俺は別に平気だから離れてろ。お前こそ脳震盪起こしてるんだから、本当に背負わなくて良いのか?辛かった無理せずに言うんだぞ?」
「出雲ちゃん、やっぱり背負って貰おうよ。後ろは私が守るから…私が…まみょる!」
ああ…ダメだなこりゃ。
守ると言っているが、亜紗妃ちゃんの足がガタガタと震えてる。
言葉も最後にはかんでるから、この状態の方が良いのかもしれない。
逆に腕にしがみ付いて貰っている方が、倒れ込んだ時にも直ぐに対応が出来そうだからだ。
「家が見えてきたよ!あれ?亜紗妃ちゃん…真っ直ぐ家に来ちゃったけど、着替えはどうしよう。まぁまた私の服を着ればいいよね!?」
家の前に到着してから気づいたらしい出雲。
亜紗妃ちゃんの方も指摘されて気づいたらしい。
ため息を着きながら俺は、俺達を尾行していた美少女を見てみると、相変わらず電柱の後ろでこちらを観察…スマホを構えてるから盗撮に進化してらっしゃる!?
右手にスマホを持ちながら、左手は頬に添えてらっしゃいます!
こいつは本格的にヤバいかもしれないぞ。
警察に相談か?だが実害がないと動いてくれないって聞いた事がある。
それに俺が警察に行っても、逆に俺が怪しまれる気がする。
家の中に避難した方が早い気がする。
二人の顔を見てみると、同じことを考えていたのか意思が通じたのか、同時に頷いてきたので家の中へと避難した。
「あの人…昨日お店に来た人なんですよね?お兄さん、浮気したんですか?」
「浮気って、まだ誰とも付き合ってないからね?あとあの子も俺は昨日初めてあっただけなんだけど?」
「でもあの執着の仕方はただ者じゃないよ。ヘタレ過ぎるお兄にが簡単に手を出すはずもないから…まさか亜紗妃ちゃんと同じく一目惚れとか!?お兄ってばモテすぎ!なんか腹立つ!」
常時不安定過ぎないか!?
「とにかく、店の方にも来てるかもしれないから警戒!分った!?分ったら亜紗妃ちゃんのおっぱいタッチ!えいっ!」
「ひゃっ!な、なんで私の胸を触るの!?」
出雲は一見ふざけている様にも見えるかもしれないが、俺にはしっかりと分かっている、
あまりの事態に頭が追いつけなくて、混乱をしている。
だからふざけているかのように見せかけて、自分自身が何をしているのかを理解していないのだ。
そりゃヤクザ顔の兄に、こんな女の子?が二人も寄ってきたら混乱もするよな。
心が痛くなってきた…何だろうな、この感じは。
妹の心配をしながらも、自分自身を貶すって。
「獅子雄!帰って来たなら店の手伝いしろ!あとお前に会いたいってお客が来てるから早く!」
おお…敵は本陣に突撃をしてきたか。
制服のまま行くのはまずいので、とりあえずは着替えを優先するか。
しかし…本当に何者なんだ。
見た目は結構可愛いと思うが、出雲はかなり警戒をしていた。
まず学校まで着けてきて、双眼鏡でこちらを観察してる時点でかなり危ない人物だとは思うが。
あと竜子さんの声が五月蠅い。
呼びに来る度にブチ切れてるよあれ…下に行きたくねぇ。
そう思いつつも、下にいかなければボコボコにされるから店に向かう。
「遅ぇぞ馬鹿!うちの馬鹿弟がごめんね。あとで絞めておくから」
「気にしないでください。私は全然平気ですから」
思った通り…竜子さんがメロメロになってる。
やはり可愛い子には弱いか…困ったな。
「あのぉ~、弟さんをお借りしてもいいですか?ちょっと相談した事があるので」
「獅子雄を?別にいいけど、ソイツが何かするかもしれないから気を付けなよ。手出したらアタシが殺すから」
お願いだから貸さないで!煙草でも何でも代わりに買ってくるから!
「なんだったら家の中に上がりなよ。妹達がいるから、見張って貰ったらいいかも」
一瞬顔が無表情になったが、直ぐに笑顔でお礼を言ったのを見て、俺は背筋が凍りつきそうになった。
てか出雲と亜紗妃ちゃんはどこにいるんだ?
このままだと俺がヤバい状況に持ち込まれそうなんだが!?
昨日もヤバい状況に行ったけども!
「やっぱり…ボクの事は覚えていないんだね。そうだよね…あの頃とは全然違うから。バカだな…あの頃はまだこんな恰好なんてしていなかったのに」
口調が変わった?
それに一人称も、私だったのが突然僕呼びになった?
「獅子君は覚えてないかもしれないけど、僕はハッキリと覚えてるよ。小学生の頃の…ボクの初恋の人なんだから」
「待て。君は一体何を言っているんだ?少し頭の中を整理したいから、とりあえずリビングの方で話そう」
全然状況が頭に入ってこないが、かなりややこしいことだけは理解が出来た。
俺自身には覚えがないが、この子は俺の事を知っている。
それもまるで親しい友人かのように呼んでくる上で、同じ小学校だと言う。
俺が忘れているだけなのか?または別の理由があるとかか?
「とりあえず座ってくれるかな。君は俺と面識がある見たいなんだが、どうしても俺は思い出せないんだ。人違いとかじゃないよね?」
「ボクは本気で言ってるんだよ。今だって、あの日の事を覚えてる。小学五年生の頃…体育のドッジボールでボクに飛んで来たボールを、目の前で、しかも片手でキャッチしてくれたんだ」
小学五年生って…全然覚えてねぇ。
覚えてるとしたら、ドッジボールの獅子とか呼ばれてた記憶だけはあるな。
元々大きい体型と凶悪化していく顔面で、ボールを投げるときに相手がビビって避けるより当たった方が早いと判断されて、無敗伝説を作ってたんだよな。
俺を狙う場合も顔に威圧されて、威力が大幅に下がるってのもあったから、簡単にキャッチもできてた。
そうか…あの頃の話になるのか。
いやいや、過去を懐かしがってる場合じゃなくて、この子の正体を知らないとだ。
「失礼な質問をするけど…君の性別は女の子で良いのかな?」
俺の質問に対して、口で答えることはなく、顔を赤く染めながらスカートをまくり上げてきた。
中にはピンク色の柔らかそうな布生地を使われた下着に、その下着をまるで主張するかの様に膨らむ魔物が潜んでいた。
自分の事を僕って呼び始めていた時点で薄々そうではないだろうかと思っていたのだが、やっぱりそうでしたか。
この子も亜紗妃ちゃんと同じく男の娘ですか。
俺…なんで男ばかりにモテてるんだろ。
「獅子君は覚えてなかったのは悲しいけど…ボクはこの町に帰ってきた。ずっと会いたかった獅子君に、ずっと可愛く変身したボクを受け入れて貰う為に!」
「はぁ!?受け入れるって、俺は君の名前すら覚えてないのに!?」
「そこまでよ!お兄にはもう可愛い相手が居るんだから!レッツゴーあ・さ・ひ!」
リビングの扉が開くと同時に出雲が目の前を転がりながら来たと思えば、今度は亜紗妃ちゃんを呼び出し始めた。
入り口に立っている亜紗妃ちゃんは、出雲の趣味であろうパンク系の服をきているのだが、かなり露出が多いせいで恥ずかしがっていた。
へそを出しながらの、太ももまで丸出しのダメージ加工が施されたデニム系の短パン。
髪も右側に結び、頭には骸骨のヘアピン。
気になるのは手首と首につけた棘だらけのネックレスだ…なんて恰好をさせてるんだ!?
危ねぇよ!?棘は危ねぇって!あとで没収してやるからな!お兄ちゃんはそれは許しませんよ!?
「やっぱり私の勘は当たってた!お兄を狙っているのは直ぐに分ったし、アンタが女装をしていても、この出雲ちゃんの目を誤魔化す事は出来ない!」
「う、嘘はダメだよ。気づいたのも、入り口からスカートの中が見えたからだよ」
「覗きとか良い趣味をしてるんですね~?そうやっていつも獅子君のお風呂覗いてたりして」
睨み合いを始める二人だったが、間に亜紗妃ちゃんが入りとりあえずは収まった。
「お兄!コイツ誰なの!?」
「私は獅子君の幼馴染みですけど何か?同じ小学校で五年間ずっと同じクラス。途中で転校する事になっちゃったけど…私は、ボクはずっと獅子君が好きだった!」
「私だって…私だって、小さい頃にお兄さんに会って、ずっと好きな気持ちは同じです!」
人の家で変な修羅場を広げるのはやめていただけないだろうか。
まぁ2対1の時点で、あっち側の方は多分負けるだろうな。
「うぅ…ボクは諦めない。獅子君は絶対にボクのものにしてやる!覚えといて、ボクの名前は…ボクの名前は峰崎薫!しっかりと覚えておいてね!」
去り際に俺に投げキッスをしてきたが、嬉しくない。
名前は峰崎薫か…やっぱり覚えてないな。
小学校の卒業アルバムをって…途中で転校をしたって話してたな。
小学校の友人は確か高校にも数名ほど居たはずだから、明日にでも来てみるか。
「はーらーたーつー!何なのアイツ!?なんで私がお兄のお風呂覗くわけ!?意味分かんない!てかあんなのが居たら、私と亜紗妃ちゃんのキャラがだだかぶりじゃん!?」
「キャラがだだかぶりって…明日にでも同じ小学校だったヤツに聞いてみるよ。だからとりあえずは静まりたまへー」
「お兄さんが出雲ちゃんに対する対応が適当になってる」
店番をする前に大分体力を使ってしまった。
仕事に支障が出なければいいのだが、明日もまた心配だな。
同じように着けられるのだろうか?学校の外から観察されるのだろうか。
そして学校には通っていないのだろうか?
俺と同い年で学校に通っているのなら、高校二年のはずだがもしかしてサボったりしてるのか?
とにかく不安で仕方がない。
考え込みながら店の方へ行くと、いきなり背後から竜子さんに蹴りとばされた。
理由は遅いのと、帰り際に泣いているのを見て俺が泣かせたと勘違いしたらからだそうだ。
最悪な爆弾を落として行きやがったよ。
獅子雄の前に現れた少女は実は男の娘だった。
突如現れる亜紗妃のライバル、そして次回、亜紗妃と出雲のタッグによる戦いが始まる!?