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第1話 エリート魔法学園は入るだけでも大変です!

「魔力量3って……ルミナさん、これでうちの学園に編入しようと思ったんですか?!」


 王立魔法学園の編入試験を始めて早々、試験官に詰められて、うんざりした気持ちになる。


 魔法学園に通うのは昔からの夢だった。何しろ魔力量3では、どこも門前払いで合格など夢のまた夢。今回は依頼で魔法学園に通う必要があるということで、希望に胸を膨らませてきた結果が編入試験からのコレだ。


「くそっ、アレクシスめ――」


 怨嗟のつぶやきが漏れる。エサに釣られた私が悪いんだけど、こんな騙し討ちはあんまりだろう。だけど、せっかくのチャンスをふいにはしたくない。


「ま、待ってください! 魔力量は低いですけど、実技はそこそこ自信あるんです!」

「そこそこ、ねぇ……これを挽回するなら、そこそこくらいだと厳しいんだけど。せめて、私が驚くくらいのものがないと」

「全力で頑張りますので、どうか!」


 必死に頼み込んだ結果、試験官の方が折れて門前払いは辛うじて回避された。あとは何とか全力で試験官が納得するような実力を見せるしかない。


「わかったわかった。実技も見てやる。だが、手心を加えるつもりはないぞ」

「かまいません。私の全力を見てもらいます!」


 次に連れていかれたのは魔法練習場だった。30メートルほど先に5つほどマトが等間隔に並んでいる。


「では、こちらのマトに魔法を撃っていただきます。総合的に見て判断しますが、何よりも重視するのは威力ですね」

「わかりました。杖は使ってもいいですか?」

「かまいませんよ」


 試験官の許可が下りたので、杖を手に取る。それを見た試験官が眉間に皺を寄せた。


「魔法石が付いていないようですが……」

「あー、私の杖は付けはずしできるようになっているんですよ」


 話しながらマトの間隔を目測する。2メートルほどの間隔で5つ並んでいるので、半径5メートルほどの爆発を起こせれば全部巻き込めるはずだ。


 こぶし大の魔法石を取り出して杖の先にはめる。純度はそこまでではないが、5つのマトくらいなら問題ない。


 中央に立ち、地面に杖を突き立てる。魔石の左右に両手を添えて、向かって時計回りに魔力を循環させる。


「何をやっているんですか? 何も起こらないじゃないですか!」

「もう少し待ってください!」


 痺れを切らした試験官が急かしてくる。言われるのが分かっていれば焦ることはない。強めに言い返しながら、循環の速度を急速に上げていく。


「30メートルなら、そろそろか」


 ごく微量の魔力を杖の先に付いた魔法石に当てると、急激に連鎖反応をして光を放ち始めた。


 すでに魔力の循環速度は秒速10万回を超えている。


 十分だ。杖に付いたトリガーを全力で引く。


 魔石を固定するロックが外れ、超音速で発射された。キィィィン、という甲高い音を撒き散らしながらマトに向かって一直線に飛んでいく。


「えっ?!」


試験官が辛うじて超音速の魔石を目で捉え、あまりのスピードに思わず声を漏らす。


 ──ドゴォォォォン!


 マトに当たった瞬間、魔石で起きていた連鎖反応が臨界に達して、5つのマトを全て巻き込んで爆発した。予想していたよりも爆発の規模が大きく、半径10メートルほど。大きく地面を抉って、マトのあった場所に巨大なクレーターができていた。


「何なの、この爆発は?! 地面が思いっきり抉られてるし! マトが跡形もなくなってるんだけど!」

「そうですね」

「おまけに屋根や壁まで! うわぁぁぁ、これ修理費がヤバいことになるんだけど!」

「そうですね、それで合格できそうですか?」

「そんなこと言ってる場合か?! いくら全力でも、ここまでしろとは言ってないんだが!」


試験官がパニックになって叫び出したけど、私にとって大事なのは合格できるかどうか。感触を聞いてみただけのつもりなのに、なぜか全力で詰められてしまった。


「えっと、これでも抑えたんですけど。これでも合格するのが厳しいなら、もう少し強力なものを使おうかなと――」

「やめろぉぉぉ! もう十分だ! 絶対に合格する。いや、合格させる! だから、これ以上はやらなくていい!」


試験官に太鼓判を押してもらえて少しだけ安心できるようになった。しかし、これまで魔力量のせいで落ちてきたトラウマが蘇る。


「いつも魔力量のせいで落とされるので、今回こそは──」

「心配するな! いいか、くれぐれも自暴自棄になるんじゃないぞ!」

「わかりました。結果は明日ですよね?」

「ああ、形だけでも職員会議を通す必要があるからな。試験はこれで終わりだ。お疲れ様」

「お疲れさまでした。それでは失礼しますね」


 お辞儀をして、試験官に背を向け校門を目指す。何となく合格できそうな予感がして、帰り道の足取りも軽い。


 しかし、学園から出る途中で不穏な気配を感じて足を止める。気配のする方を見ると、黒髪黒目の少女に二人の少女が詰め寄っていた。


「黒髪黒目って、この国だと珍しいな」


 遠く離れた別の国では珍しくない容姿だが、金髪碧眼を基本とするデニール王国の中では非常に目立つ。もちろん、今の私も金髪碧眼だ。


「フェイリア様、あの泥棒猫に注意してくださいまし!」

「そうです。私の婚約者も、あの女にデレデレとして!」

「落ち着いてください。気持ちはわかりますが、シャーリーさんは聖女です。下手に動けば神殿との軋轢を生むことになります」


 どうやら、フェイリアという少女に聖女の振る舞いを注意してもらいたい、ということらしい。しかし、神殿との関係性を懸念して迂闊に動けないという感じだった。


 迂闊に動けないのは二人の少女も同じようで、フェイリアを矢面に立たせて何とかしようという考えが透けて見える。


「甘いですわ! 殿下だって、あの女とベタベタしているじゃありませんか」

「殿下は、元平民の聖女様をサポートするように言われているだけですから」

「そんな悠長なことを言っている場合じゃありません!」

「とにかく、まだ動くべき時ではありませんから!」


 二人も何とかフェイリアを動かそうと圧力をかける。フェイリアの方は何とか穏便に済まそうとするも、二人の強硬姿勢は変わらず、語気を強めて言い放つと、校舎の中へ走り去っていった。


 残された二人は、いなくなったのをいいことに矛先をフェイリアに向け始めた。


「まったく、あの方にも困ったものですわ」

「ホントに。公爵令嬢でなければ関わりたくもありませんわ、あんな女」

「あの黒い髪と黒い瞳──闇の申し子でしょう? 同じ人間とは思えませんわ」

「クローネル公爵家も、後継があれでは先行き暗いでしょうね」

「そうね。公爵家といっても沈みかけた泥船。他の家も手を切る算段を進めているようですが、早くしてもらいたいものですわ」


 散々フェイリアの悪口を言って溜飲を下げた二人も校舎の中へと消えていった。


「いまだに闇の申し子なんて言っているのか」


 そう呼ばれてかつては忌避されていた黒髪黒目だけど、今では単なる迷信だと思われている。それが、まさか魔法のエリート学校で信じられているというのが驚きだった。


「エリートだと思っていたけど、中身は大したことないなんてことはないよね……?」


 アレクシスの依頼を受ける羽目になっただけで憂鬱だというのに、試験官にはゴミ扱いされ、合格したとしても学べることがない、なんてことになったら目も当てられない。


「あーもー、気にしてもしょうがない! 試験は終わったんだし、甘いものを食べに行こう!」


 雑念を振り払って、試験前から目を付けていた喫茶店へと向かった。明日からは、いよいよ待望の授業が始まる。

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