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VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
残された者たち
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シオン

 私は今、拍手の渦の中にいる。


 「エレクトロアイランド」はシオンのソロパートの多い曲であり、締めもシオンのソロである。


 私は、モニターを確認し、客席の白いペンライトを見つけては大きく手を振ってみせる。



 私がシオンを引き継いでから三ヶ月。

 メンバーによる懇切丁寧な指導もあり、我ながらパフォーマンスも板に付いてきたと思う。


 引き継いだ当初は、「歌い方変わった?」「最近ダンスの調子が悪い?」などとファンから指摘されることもあったが、最近ではそれもない。


 私は、ちゃんとシオンになれているのである。


 私がシオンになることを決意したのは、珠里をはじめとしたアイラッシュのメンバーのためである。


 今私と一緒にステージに立っているメンバー三人は、私がシオンになることを望んでいた。風華だってそうである。


 そして、珠里の自殺を食い止めるためには、私がシオンになり、アイラッシュをなるべく「元の形」に戻すことが確実だったのだ。



 とはいえ、私がシオンになることにしたのは、全て他の誰かのため、というわけではない。



 それは、誰よりも私のためである。


 シオンには生き続けて欲しい、と私が強く望んだのである。



 VRアイドルであるシオンと、生身の人間である楠木なずな。


 私はこの「二人」は同一ではないものの、()()()()()()()()()()()()()


 楠木なずなは死んでしまっても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という気がするのだ。


 要するに、なずなが生きている世界でないと私はダメなのである。


 それは、セゾンstationの復活を願ったなずなと何も変わらないのかもしれない。


 

 他方、果たしてなずなが、私がシオンになることを望んでいるのかどうかは分からない。


 なずなの遺書には、アイラッシュを終わらせたい、と書いてあった。


 私がシオンになって、アイラッシュを継続させることは、なずなの意思に反していることなのかもしれない。



 ただ、他方、なずなは最期のステージで、毒の影響に苦しみながらも「バーチャル」を踊り切ったのである。



 それは、シオンを生かし続け、アイラッシュを存続させるためだったのではないだろうか。



 アイラッシュを終わらせようと考えてステージで毒を飲んだなずなは、途中で心変わりし、アイラッシュを残すことを決めたのではないか。


 死の直前、なずなはアイラッシュをどうしたいと思っていたのか。



 楠木なずながこの世を去った以上、真相は分からない。


 死者の意思がどこにあったかを私がいくら考えてみたところで、きっと正解に辿り着くことはないのだろう。



 それならばもう、私自身で決めるしかない。


 

 結果として、それがなずなの意思に反していたとしても、それは、()()()()()()()()この世からいなくなってしまったなずなのせいだと思おう。



「実は今日、重大発表があります!」


 真央李が声を張り上げる。



「『ユウキちゃん辞めないで〜』じゃない! ユウキは辞めません!」


 真央李は、客席のファンと「お馴染み」のやりとりを繰り広げる。



「誰も卒業しません! その逆! アイラッシュに新メンバーの加入が決定しました!」


 おぉ、という歓声とともに、客席から再び拍手が巻き起こる。


 ヒナノが「脱退」した穴がようやく埋まるのである。



「新メンバーの名前は、ヒカリちゃん!」


 誰かのコピーではない。正真正銘の「新メンバー」である。


 これは、アイラッシュにとって、新たな船出なのである。


 そして、彼女にとっても――



「じゃあ、ヒカリちゃん、ステージに来て」


「はい」


 新メンバーは、すでにモーションキャプチャーを装着して、私たちと同じ部屋にいた。


 技術スタッフがセンサーのスイッチを入れることで、ヒカリのグラフィックがVR空間に現れる。担当色は赤。



 洗練された美少女のビジュアルに、客席からどよめきが起こる。


 ヒカリの中の人が誰かを知ったら、観客はその何百倍も驚くだろう。



 ヒカリの中の人は、大椿妃芽花だった。


 妃芽花は、客席に満遍なく笑顔を振り撒いた後で、私の顔を見て、微笑む。



 シオンになることを決意した私は、妃芽花に電話をして、キャンディー・クルーズ再結成の誘いを断った。


 すると、妃芽花は「私もアイラッシュに入る」と言い出したのだ。


 冗談に違いない、と思った。


 妃芽花は、実物アイドルとしてすでに成功を収めている。しかも、ルックスにおいて抜きん出た武器を持っているのである。


 それにも関わらず、自らの容姿を隠してVRアイドルをやるだなんて、バカげている。



 それに、妃芽花は、アイラッシュの秘密を知ってしまっているのである。


 その上で、アイラッシュに入りたいと思うはずはない、と思っていた。



 しかし、妃芽花は真剣だった。


 アイラッシュに入りたい理由は「果乃がいるから」とのことだった。これが妃芽花の本心なのかどうかは、私にはよく分からない。



 とはいえ、アイラッシュはちょうど欠員補充を考えていた最中である。


 アイラッシュサイドとしては、妃芽花の加入を歓迎しない手はなかった。


 アイラッシュでは、シオン以外は生声である。ゆえに、声によって、ヒカリの正体は妃芽花であることはじきにバレるだろう。


 しかし、それで構わない、というのが、妃芽花も含め、私たちの一致した見解であった。


 むしろ、既存の妃芽花ファンがアイラッシュに来てくれれば、アイラッシュは大きくなれる。



 妃芽花の加入によって、アイラッシュは新たな時代を迎えるのである。



 私は、客席を映しているものとは別のモニターを見る。


 それは、VRゴーグルに映る映像、すなわち、VRアイドルである、ユウキ、ミマ、スミレ、ヒカリ、シオンがステージに立つ様子が映っているものである。



 私は、心の中で、シオンに語りかける。



 なずなちゃん、今、天国で私たちのことを見ているかな?


 アイラッシュの新たな船出を喜んでるかな?


 それとも、怒ってるかな?


 

 私には夢があるんだ。


 それは、アイラッシュで天下を取ること。


 それは、きっと、風華にとっても、真央李にとっても、凛奈にとっても、珠里にとっても、妃芽花にとっても、共通の夢。



 私たちは、力を合わせてその夢を叶えてみせる。



 だから、もしそれが実現したときには、なずなちゃんも誇らしく思って欲しい。



 だって、アイラッシュは、なずなちゃんが作った唯一無二のアイドルユニットなんだから。



(了)





 本作「VRアイドル殺し」を最後までお読みいただきありがとうございます。


 勘づかれた方も少なくないかとは思いますが、本作は、間違いなく「【推しの子】」の影響下で書かれたものです。


 前作の長編を書き終わった後に、実家に帰る機会があったのですが、その際に母親から「これを見ろ」と半ば強引に【推しの子】の第一話を見させられました。


 最初は別の作業(「春の推理」の隣人ミステリーの表彰企画の審査)をしながら見ていたのですが、途中から完全にアニメを見入ってしまいました。


 そして、強い衝撃を受けました。


 なぜ【推しの子】の第一話がこれほどまでに心揺さぶるものだったのかを考えた結果、僕が気付いたのは、感情操作と論理操作が両立している、という点でした。


 僕の作品を含め、既存のミステリーは、論理操作に熱中するあまり、感情が置き去りにされる傾向があります。

 平然と人を殺し、その謎を平然と解く、というわけです。


 しかし、実際には人が死ねば悲しむ人がいます。謎を解くにも、感情がロジックを邪魔してしまいます。


 論理操作を徹底しながらも、決して感情を無視しない、というのが、今のミステリーに求められるのではないかなと思いました。


 そこで、僕は、感情も描くミステリーを「エモーショナル・ミステリー」と銘打ち、その第一弾として本作を着想したわけです。


 なお、本作では、【推しの子】のようなジェットコースターみたいに疾走感のある展開も相当に意識しています。



 他方、題材が「VRアイドル」となったのは、【推しの子】を意識して、というよりは、【推しの子】を見る前から、次は「VRアイドル」を題材にしようと決めていました(信じてもらえないかもしれませんが)。


 「VRアイドル」には詳しくない人が多いと思いますが、僕もつい数ヶ月前に、カラオケボックスの曲と曲の合間に流れる映像で初めて知りました。「えのぐ」という現在三人組のVRアイドルユニットです。


 元々地下アイドルが好きなので、「えのぐ」にも興味を持ち、ライブ映像を見漁りました。そこからの学びが本作では生かされています。



 話を変えますが、ミステリーとして本作を分析すると、大きく分けて、①皐月の事件と②なずなの事件があります。



 メインは、もちろん②なずなの事件です。


 毒で苦しみながらも踊り続けるというシーンを描きたいなと思いました。そのシーンがまず頭の中にあって、論理的な部分はある意味後付けだったかもしれません。


 なずなの事件で用いたのは、心理トリックです。

 (読者様となずなの)心理的に考えて自殺は考えられない状況で、自殺をさせる、というのが、このトリックの内容になります。

 自殺が考えられない状況(他殺フラグ)とは、具体的には、


・ステージの上で毒を飲むはずがない

・自ら毒を飲んだならば最後まで無理して踊り切るはずがない

・果乃と将来の約束をした翌日に自殺するはずがない

・果乃に対する遺書もなしに自殺するはずがない

・KILLERによる殺害予告がある

・皐月の死についても自殺に見せかけて他殺である、とKILLERが宣言している


などです。



 本件では、事件について丁寧に解説してくれる探偵役はいません。ただ、一応上記の他殺フラグの克服については、一定の解説はされているかと思います。



 そして、①皐月の事件は、物理トリック(密室トリック)です。

 これ自体は大したトリックではないと思っていますが、②なずなの事件とのコントラスト(①は自殺に見せかけて他殺、②は他殺に見せかけて自殺。そして①はKILLERの有言実行、②はKILLERの有言不実行)が、個人的にはハマったかなと思います。


 そして、何より、本作の特徴は、多重視点です。


 本作ではなかなか複雑な多重視点を用いていますが、長編で用いるのは数年ぶりでした。


 多重視点によって、メンバーの内面を書けたのは良かったかなと思います。

 また、一種の叙述トリック(というと、ミステリー好きな人に怒られるかもしれませんが)として、メンバーが受けているオーディションが珠里だけ違う、というのは、フーダニットに関わる部分だったので、重要だったかなと。


つまり、KILLERは、「なずなとは皐月以上に長い付き合い」と言っています。仮に珠里もアイラッシュオーディションで初めてなずなと風華と会っていたのであれば、珠里はKILLERたりえません。KILLER候補は風華のみということになるはずです。


要するに、筆者的には、KILLERは風華であるという誤導を狙ったのですが、読者様がどのように読んでくださったのかなというのは気になるところです。


また、黒背景に関しては、全然本編と関係なさそうな話が、実は本編と密接に関わっていた、というTHEミステリーな仕掛けを意図しました。



最終話は、蛇足だったかもしれません。ただ、妃芽花のその後を書かないわけにはいかず、番外編で妃芽花の話を書こうか悩んだ結果、なんとか本編に押し込みました。



主題としては、ある人がいて、⑴周りから見たその人、⑵その人の発言内容、⑶その人が内心考えていることはそれぞれ違い、かつ、⑷その人が望んだことと実現する結果もまた違う、ということを書きたかったのかなと思ってます。抽象的ですね。。



さて、基本的に短編書きなので、長編を二本連続で書いて疲れました。一本目は空振りでしたが、一本目と比較すると、本作は読者様からの反応もいただけたのかなと思っています。


なろうだとミステリー自体が読まれないですし、本作みたいな非特殊設定だとなおさら読まれないことは分かっているのですが、もし本作を少しでも気に入ってくださったのであれば、ご感想、レビュー、ブクマ、いいね、評価等のご反応をいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。



なお、次回作に関しては、特殊設定ミステリーで、またも長編を考えています。


内容は全然考えてませんが(おい)、タイトルは「魔法少女の雪冤」に決めています。


マジカル・リーガルミステリーです(カオス)


遅くとも今月中には連載開始したいと思っています。



今後とも菱川あいずをよろしくお願いします。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] エモーショナル・ミステリーとは、まさに言いえて妙! 登場人物の感情が丹念に描かれているのに加え、読者の感情を揺さぶって来ると言う点でも、まさに、です。 「最終章は蛇足かも」と言われてい…
[一言] てっきりですね、狙っていらしたのかとばかり思っておりました……!! 彼女のことは今でもいっそう推してます^^b いずれ彼女たちのために、素敵な景色を作れたら……と、ささやかな目標もできました…
[良い点] 一言で言うなら、ワタクシ終始みごとに作者様の手のひらで踊っていました……!! 誰がKILLERか。考えて、外れて。 「彼女」がそれと分かった時にはどうしようどうしようと柄にもなく狼狽したり…
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