抱擁
七階は屋上だった。
エレベーターホールを出て屋上に向かうドアは開け放たれている。
その向こうには――
夏空の下、少女の背中が見えた。
少女は今まさに飛び降りようと、屋上のフェンスに足を掛けている。
「じゅりちゃん!」
私の叫び声で、少女は振り返った。
私は少女に一直線に駆け寄る。
そして、その小さな背中をギュッと抱きしめる。
「じゅりちゃん、死んじゃダメ」
「……で、でも、私……」
珠里が、私の腕を振り解こうとする。
「じゅりちゃん、どんな事情があっても死んじゃダメ」
「でも……」
「『でも』じゃないよ……私はもう誰にも死んで欲しくない……」
「……私、さつきちゃんのことも、なずなちゃんのことも……」
「分かってる。分かってるけど、死なないで。お願いだから、これ以上私を悲しませないで……」
珠里の身体からスッと力が抜ける。
珠里が倒れ込まないように、私はさらに珠里を強く抱擁する。
「……じゅりちゃん、私、決めたよ。引き受ける」
「え?」
「シオンのこと。私、シオンをやるよ」
私はついに決断したのである。
「だから、じゅりちゃん、一緒にアイラッシュとしてステージに立とう? 良いでしょ?」
振り返った珠里は、泣き腫らした目を、信じられないと言わんばかりに大きく見開く。
「……かのちゃん、本当に良いの?」
「うん。推しメンになれるなんて夢みたい」
「……いや、そうじゃなくて、私と一緒にステージに立つって……」
「アイラッシュにはじゅりちゃんが絶対必要なの」
「……いや、その、でも、私、犯罪者だよ?」
「それでも構わない」と私は言う。
「私が黙ってさえいれば、じゅりちゃんの犯罪が露見することはない。じゅりちゃんが引き続きミマをやってくれるんだったら、私、ずっと黙ってるよ」
「かのちゃん……」
珠里はさらに「でも」を重ねる。
「私、なずなちゃんを殺そうとしたんだよ? それでもかのちゃんは私を許してくれるの?」
許す、というわけではない。
しかし、許すとか許さないとか、そんなことはどうでも良い。
私はただ――
「私はただ、じゅりちゃんに生きて欲しいだけなの」
偽りようのない本音である。
私は、珠里に生きて欲しいだけなのだ。
そして、生きるためには居場所が必要である。
珠里にとって、それはアイラッシュであり、ミマなのである。
そして、私が生きるための居場所も、アイラッシュであり、シオンであるに違いない。
だから、私たちは、アイラッシュをやるのだ。
「じゅりちゃん、これからアイラッシュで一緒に頑張ろう」
「かのちゃん……」
「私、歌もダンスもまだまだだと思うから、じゅりちゃん、バシバシ指導してね」
珠里が、潤んだ目で私の顔を見る。
私は、珠里に向けて、精一杯の笑顔を作る。
「どうせ人間いつかは死ぬんだからさ。この世では一生懸命に生きて、全部出し尽くそうよ。天国の皐月となずなちゃんには、直接謝れば良いんだよ。死んじゃった後でさ」




