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VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
残された者たち
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アイラッシュのために(2)

 なずなを殺さなきゃいけなくなった――


 でも、珠里はさっき――



「なずなちゃんを殺したのはじゅりちゃんじゃない、って言ってたよね?」


 珠里は頷く。



「そうだよ。私はなずなちゃんを殺すことはなかった。結果としてね」


「……結果として?」


「そう。でも、私がなずなちゃんを殺そうと考えたことは事実」


 一体どういうことだろうか。まさか、なずなは二人から一斉に命を狙われていたということなのだろうか。


 そもそも――



「どうしてじゅりちゃんはなずなちゃんを殺さなきゃいけないと思ったの? なずなちゃんとは同志だったんじゃ……」


 珠里となずなは、風華とともに、セゾンstationの復活を目指した「同志」なのである。

 なぜ二人の思惑がすれ違ってしまったのか――



「たしかに、私となずなちゃんは同じ志を持っている部分もあった。だけど、二人の目指すところには、最初から『微妙なズレ』があった」


「微妙なズレ?」


 それが最終的に殺意にまで変わってしまったというのか。



「私が目指したのは、お姉ちゃん――ミマの復活と栄華だった。アイラッシュは、あくまでもミマが再び輝くための舞台として意味があった。言い換えれば、私にとっては、セゾンstationの復活は、それ自体が目的ではなく、ミマの復活のための手段だった」


 他方、と珠里は続ける。



「なずなちゃんにとっては、()()()s()t()a()t()i()o()n()()()()()()()()()()()()()()


 一体どういう意味だろうか?



「大袈裟に言うと、私は、ミマ以外のアイラッシュのメンバーがどうなろうが、ミマさえ無事なら良いと思ってる。ただ、なずなちゃんは、アイラッシュのメンバーが誰一人として欠けてはならないと思ってた」


 言っていることはなんとなく分かる。

 しかし、その違いが、どうして珠里となずなの間の大きな亀裂になってしまうのか。



「皐月が死んで、ヒナノの中の人がいなくなった。そのことが決定的だったの。私もなずなちゃんも、皐月に代わるメンバーの補充を急ぐべきということで意見が一致した」


 そのために、なずなは私を勧誘したのである。皐月に代えて、アイラッシュに新メンバーを入れるために。



「当然、私は、かのちゃんに新メンバーになってもらう場合に、なずなちゃんが、シオンのように、新しいキャラクターを作画するものだと思ってた」


「……え? 違うの?」


「私だけじゃない。ふうかちゃんも他のメンバーもみんなそう思ってた。でも、なずなちゃんだけ考えが違った」


 珠里がため息混じりに言う。



「なずなちゃんは、かのちゃんに、()()()()()()()()()()()()()、って言ったの」


 そんなの無茶である。


 シオンの中の人をやるのとは、まるで話が違う。

 シオンはボイスチェンジャーを使っているが、ヒナノは生声である。いくら私が芸達者だといえども、皐月の声を完全に再現することはできない。



「……どうして、なずなちゃんはそんな無理なことを……」


「なずなちゃんにとっては、ヒナノを欠いたアイラッシュには意味が無かったんだよ。ヒナノがいなくなれば、アイラッシュは『セゾンstation』ではなくなってしまうから」


 今のご時世、アイドルユニットには脱退加入があるのが常識だ。メンバーが変わって、それによってオリジナルメンバーが誰もいなくなったとしても、「テセウスの船」のようにユニットは存続していく。


 しかし、なずなにとっては、アイラッシュは、オリジナルメンバーでなければダメだったというのか。そこから一人欠けることも許されないと考えていたのか。



「だから、かのちゃんの加入を検討する緊急ミーティングは紛糾した。かのちゃんにヒナノの中の人をやらせると主張したのはなずなちゃんだけだったけど、かのちゃんはなずなちゃんの紹介だから、なずなちゃんを無視した多数決で押し通すわけにもいかなかった」


 その緊急ミーティングにおいて、私の新メンバー加入は見送られた。その時、なずなは「かのちゃんの実力はみんな認めてたけど、ちょっとした内部的な事情があってね」と言っていた。その事情とは、珠里が今話したような事情だったのだ。


 

「しかも、ミーティングの後、なずなちゃんは、私にこうLINEをしたの。『もしもヒナノが欠けるなら、アイラッシュは解散させた方が良い』って」


 なずなのこだわりはそこまで強いものだったのか。


 オリジナルメンバーが欠けるくらいならば、アイラッシュ自体が無くなるべきだと思うくらいに。


 それは、あまりにも強烈な「美学」である。

 


「かのちゃんには理解できないよね。なずなの異常なまでのこだわりは」


 でも、と珠里は続ける。



「私には分かるんだ。なずなが、セゾンstationの『完全な』再現にこだわる理由が」


「どうして……?」


「なずなちゃんは、私にだけ話してくれたの。あのビル火災の時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 私は、そのことがずっと疑問だった。なぜ犠牲者が四人ともセゾンstationのメンバーであり、他方、なぜなずなだけが生還することができたのか。


 そのことと、なずながセゾンstationのオリジナルメンバーにこだわることとが密接に関連しているのか。



「……どうしてなの? じゅりちゃん、教えて」


「それはね――」


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― 新着の感想 ―
[一言] その拘り、分からんでもないけど実際にそういう決定されるとちょっと怖いぜ(;゜Д゜)
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