嘘つきは殺人のはじまり(1)
「……私がさつきちゃんを殺した? そんなデタラメなこと言わないで」
珠里からの反応は予想したものだった。
珠里は嘘をつくのが得意なのだ。
「そもそも、さつきちゃんは自殺したんでしょ? 警察もそう言ってた」
たしかに皐月の死は「自殺」として、警察に処理されている。
そして、私自身、ほんの数時間前までは、皐月は自殺したものだと思い込んでいた。
珠里が施した巧妙な「トリック」のせいである。
「ううん。皐月は自殺したんじゃない。自殺に見せかけて殺されたの」
「自殺に見せかけて? どうやって?」
珠里は普段のように吃ることがない。
この子は、嘘をついているときの方が堂々としているのである。
そのことは、珠里とミマのキャラクターのギャップによって実証さている。
「これは私の推理だけど」と前置きし、私は、この家を訪問するまでに考えたことを披露する。
「皐月には自傷癖があった。リストカットをする癖がね。皐月が死んだ夜も、皐月は自ら手首を切っていたのだと思う」
警察が皐月の死を「自殺」だと判断した根拠の一つは、皐月の手首に新しいためらい傷があったからである。その傷は、皐月自身が付けたと考えるべきだろう。
それに、あの夜の皐月は、精神的に不安定だったはずだ。「アイラッシュを辞めたい」と自ら言い出し、ライブを急遽休んでいたのだから。
「皐月が手首を切り終えた後、もしくはその最中に、じゅりちゃんは皐月の部屋を訪れた」
時間帯は深夜だったが、珠里は皐月の隣の部屋に住んでいるため、訪問することに支障はなかったはずだ。
「そこで、じゅりちゃんは、何らかの方法で皐月に睡眠薬を飲ませて眠らせた」
警察の話によれば、皐月は死ぬ直前に睡眠薬を服用していたのである。それは確実に自殺を図るための手段だとされていた。
「そして、じゅりちゃんは、お風呂場に皐月を運び、すでにあったためらい傷にカッターの刃を重ねて切り、皐月を殺害した」
ここまでは推理、というよりは、皐月が殺されたと仮定した場合の必然的な道筋だ。
ここから先が本格的な推理である。
嘘つき珠里との真剣勝負だ。
「皐月の死を自殺に見せかけるために、じゅりちゃんは『ある工作』をする必要があった」
「ある工作?」
「いわゆる『密室トリック』だよ」
警察が皐月の死が「自殺」であると判断した最大の根拠が「密室」なのである。
皐月の死体があった部屋は、ドアにチェーンが掛かっており、ベランダの窓の鍵も掛かっていた。
そのことは、私となずなが口を揃えて警察署で証言しているのである。
皐月の死体が密閉された空間にあった以上は、犯人の出入りは想定されず、論理必然的に皐月の死は自殺である、ということになる。
この「密室トリック」の謎を明かさない限り、珠里に本当のことを話させることはできないだろう。
珠里が鼻で笑う。
「かのちゃん、何言ってるの? 密室トリックだなんて。ドラマの見過ぎじゃない?」
私はドラマも推理小説もほとんど嗜まない。ゆえに、皐月の死にそのようなトリックが使われていたことなど、今日までつゆ気付かなかったのである。
「このトリックの目的はただ一つ。それは、私を騙すこと」
「かのちゃんを騙す? どうして?」
「それは、私が『第三者』だからだよ。私はアイラッシュのファンではあるけど、元々中の人と面識があったわけではない。偶然なずなちゃんと知り合ってはいたけど、皐月ともじゅりちゃんとも面識がなかった」
事件の関係者から独立した第三者。
第三者である私が、ドアにチェーンが掛かっていたこととベランダの窓の鍵を掛かっていたことを証言すれば、警察は事件現場が密室であったことを疑わない。
「『密室』を偽装するために、じゅりちゃんは私を騙すことにした。なずなちゃんと協力してね」
今日は出張なので、朝から公共交通機関に乗り続け、執筆し続けています。
執筆に集中できる貴重な機会だと張り切っていたのですが、もう疲れました。。寝ます。。誰か池袋で起こしてください。。
(本当はもう一話くらい書きたかったのですが。。)




