↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
残された者たち
60/74

ハーベストタイム

 ハーベストタイム中野。


 それが皐月の住んでいた――そして、珠里の今住んでいるアパートの名前である。


 私がこのアパート名を知り、覚えたのは、警察から取り調べを受けたからだ。


 私はこのアパート名を取調官の口から何度も聞いたし、私が署名押印をした供述調書でも記載を確認した。



 JR中野駅の南口改札を潜った私は、照りつける日差しを手で覆いながら、スマホを操作する。


 そして、Googleマップに「ハーベストタイム中野」と打ち込む。


 くねくねと曲がったルートが青い線で表示される。

 


 私はルート案内に従い、住宅街の路地へと入っていく。



 あの日、なずなと二人で通った道である。



 途中までは覚えていた景色が、途中から見知らぬ景色に変わる。


 歩きスマホをしていたからである。


 なずなが、皐月の前世を見て欲しいと言って、シャイニーシャッフルのライブ動画を見せてくれたのだ。


 私は、なずなが渡してくれたスマホの動画を食い入るように見てしまった。



 まさかそれが策略だっただなんて――私は今日まで少しも気付かなかった。

 


 ルートの目的地に近付く。


 道すがら、ハーベストタイム中野の建物の背後――ベランダのある部分が見える。


 もちろん、1階のどの部屋のベランダを見ても、裏面に血のついた、真っ白なタオルは存在しない。


 あのタオルは、奇妙なものだった。


 なぜ皐月が、死ぬ直前に、自分の鮮血のついたタオルを、わざわざベランダに干す必要があったのか――



 その理由をいくら考えても、当時の私が答えに辿り着くことはなかったと思う。


 しかし、今なら分かる。


 あれは皐月が干した物ではない。


 皐(・)月(・)を(・)殺(・)し(・)た(・)犯(・)人(・)が(・)干(・)し(・)た(・)物(・)な(・)の(・)だ(・)。



 正門から、ハーベストタイム中野の敷地内に入り込む。


 なずなと一緒にいた時は、私はこの時もまだ皐月のパフォーマンス動画に夢中だった。


 そして、なずなに指示されて顔を上げた時は、すでに部屋のドアの前だったのである。



 その時と同(・)じ(・)ドアが、今私の目の前にある。


 私は、ドアの隣のインターホンに手を伸ばす。



 ピンポーン――



 あの時と同じ音が響く。


 あの時、いくら鳴らしても反応が無かったチャイムの音。



 しかし、今回は反応があった。



 廊下を歩く足音が聞こえる。


 おそらくモニターで私の姿を確認した住人は、来客の素性を確かめる必要はないと判断し、ドアを開けることに決めたのだろう。



 徐々に大きくなっていた足音が止まり、ドアが開く。



「……かのちゃん、どうしたの?」


 上下白色のスウェット姿の珠里が、大きな目をパチクリさせる。



 私の目線は、珠里の顔ではなく、玄関の向こう側へと向いている。


 玄関からベランダまでが一直線に見通せる間取り。その途中にあるワンルームは、よく整頓されていて、置いてある物は見えない。



 やはり、思ったとおりだ――



「か、かのちゃん……何か用?」


「ちょっと話したいことがあって」


 突然の私の訪問に戸惑っていたものの、珠里は、私を部屋に上げてくれた。


 

 ワンルームには、生活感は全くない。フローリングの床がほぼ全面露出している。


 その代わり、部屋の隅に段ボール箱が堆く積まれている。


 保護猫カフェで話していた、引越し準備をしているという話は本当なのかもしれない。


 

 珠里はクローゼットを開けると、中から小さな座椅子を二台取り出す。そして、それをまっさらなフローリングに置く。



「かのちゃん、座って」


「ありがとう」


 お言葉に甘えて座椅子に腰掛ける。とはいえ、リラックスをするつもりはない。私は体育座りで、珠里の次の動作を伺う。



「かのちゃん、ちょっと待っててね。今からお茶を入れるから」


「要らない。じゅりちゃんも早く座って」


「……わ、分かった」


 ただならぬ雰囲気を私から感じ取ったのだろう。珠里は、慌てて私の対面にある座椅子へ向かう。


 そして、私を真似してか、ちょこんと体育座りをする。



 なんて可愛らしいのだろうか――


 まさかこのあどけない少女が――



「……じゅりちゃん、私に本当のことを話して欲しいの」


「……本当のこと?……何それ?」


「じゅりちゃん、単刀直入に訊くね」


 珠里は、「うん」と頷く。



 私は、一呼吸おいてから、まるで子どもに語りかけるような柔らかい声で、質問する。



「儀部皐月を殺したのは、じゅりちゃんだよね?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 策略が、どう関係してくるのか(;゜Д゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。