レコーディング
「果乃、お願い。シオンとして歌ってくれないかな?」
風華が私に頭を下げる。
レコーディングスタジオに「見学」に来た以上、当然、覚悟しなければならない展開だった。
ヒナノに関しては、先日、脱退が発表された。
理由は「体調不良」ということとされた。
他方、シオンに関しては、「疲れが見えたため暫し休養」ということとなっていた。
メンバーや風華は、私がシオンを引き継ぐことを期待しているのである。
そして、今日は、すでにライブでは披露している曲をサブスク配信するためのレコーディングだった。
すでに、ユウキ、ミマ、スミレはレコーディングを終えた。
残るはシオン――私の番ということになる。
私は、真央李、珠里、凛奈それぞれと個別で会い、話を聞いた。
その中で、彼女たちそれぞれの過去にも触れた。
私の率直な感想は、三人の中に、なずなを殺した犯人はいないだろう、ということになる。
三人は、なずなに対して悪感情を抱いていないようだった。
それに――
三人とも、アイラッシュを愛し、アイラッシュに人生を懸けていた。
アイラッシュを想っている者は、間違っても、なずなをあのような方法で殺すことはないはずだ。
結果として、なずなはステージで踊り切り、幕が閉じた後で倒れた。
しかし、それは結果論に過ぎない。
毒の回りがもう少し早ければ、なずなの気力があと少し足りていなければ、なずな――シオンはライブ中に倒れることとなったはずだ。
そうすれば、アイラッシュの存続は極めて困難になる。
ライブ中にメンバーが死んで、それでもなおグループを続けることなど、おそらく不可能である。
なずなを毒殺した犯人は、アイラッシュも終わってしまって構わないと考えていたはずなのだ。
すると、真央李も珠里も凛奈も、犯人像から大きく外れる。
私は、何が何だかよく分からなかった。
なずなを殺した犯人のいるユニットに入ることは考えられないが、もしも、アイラッシュのメンバーが犯人でないのならば――
私は、なずなの後を継ぎ、シオンになることを前向きに検討しても良いのかもしれない。
私は、アイラッシュの中の人に囲まれる。
「かのちゃんしか頼れないの」と珠里。
「果乃がシオンをやってくれたら、私すごく嬉しい」と凛奈。
「お願い。プリン奢ってあげるから」と真央李。
三人の中に犯人がいないのだとすれば、私はむしろ三人に報いたいと思っている。
――でも、本当にそれで良いの?
ねえ、なずなちゃん、私、どうすれば良いの?
なずなちゃんならどう考える?
なずなちゃんは私にシオンになって欲しい? それともなって欲しくない?
ねえ、なずなちゃん、教えてよ。
私、なずなちゃんがいないと何も決められないよ……
「ごめんなさい」
私は、メンバーと風華の間を縫うように駆け出していた。
逃げたのである。
廊下を駆け抜け、レコーディングスタジオの出入り口のドアを開け放つ。
スタジオの出入り口の前には――アイドルだろうか。私たちの次にスタジオを使うために待っている女の子何人かが、日傘を差して立っている。
私は、彼女たちの合間も駆け抜けようとする。
しかし、一人の女の子の手が伸びた。
「果乃!!」
聞き覚えのある声で不意に名前を呼ばれたので、私は立ち止まる。
そして、私の肩を掴んでいる女の子の顔を見る。
「……妃芽花」
私を呼び止めたのは、私の幼馴染であり、今や人気アイドルである大椿妃芽花だった。




