目的
「果乃、本土に来てたんだね。教えてよ」
「え……あ、ごめん……」
妃芽花とは、妃芽花のレコーディングが終わった後に、妃芽花の家の近くのチェーンの喫茶店で落ち合った。「クラクション」同様に満席に近かったが、全体的な客層はだいぶ若い。
幼馴染との約四年ぶりの運命的な再会……と言えば、募る話もあるだろうからコーヒーの一杯や二杯は当然の流れ、と思えるかもしれない。
しかし、私と妃芽花との関係は、そう単純なものではない。
それゆえ、私は、妃芽花に肩を掴まれた際、そのまま走って逃げようとしたのである。
しかし、妃芽花がそれをさせてくれなかった。
「果乃、ずっと会いたかったの。どこかでじっくり話したいな」
妃芽花が今所属しているユニット――「オーロラ・ドミナント」の他のメンバーも、じっと私の顔を見ていた。この業界で有名な子ばかりである。
「うん」と頷くほかに、その場をやり過ごす方法はなかった。
「果乃はきっと私のことを嫌ってるよね?」
「……そ、そんなことないよ」
思いがけぬ問いかけに、声は上擦ってしまったが、妃芽花を嫌っていないことは事実である。
もし嫌っていたのであれば、部屋に妃芽花とのツーショット写真を飾るはずがない。
私は、今でもずっと妃芽花に憧れているのである。
妃芽花は美しい。
写真の中の妃芽花もそうだし、今目の前に座っている妃芽花もそうだ。
別名「氷姫」。
雪のように白い肌。水晶のように輝く双眸。御伽噺の世界から出てきたような、現実感のない美貌。
この美少女に出会わなければ、私はご当地アイドルにならなかったし、アイドルに興味を持つこともなかった。
妃芽花に出会わなければ、アイラッシュに出会うこともなかった。
もちろん、なずなとも――
「私、果乃にずっと謝りたかったの」
妃芽花のキラキラした目に、マグカップを手に持った私の姿が写る。
「本土の高校に進学すること、果乃にずっと黙っててごめん」
「……そんなこと気にしてないよ」
妃芽花は、私に相談することなく、本土の高校に進学した。
それにより、私たちの関係は引き裂かれてしまった。
しかし、私には、そのことを責める気は一切ない。
妃芽花の選択が正しかったことは疑う余地がないのだ。
妃芽花は、本土に出ると同時に、オーロラ・ドミナントとしてデビューした。
そして、今や売れっ子アイドルなのである。
あの時、妃芽花が私を切ったのは正解だった。
「私、本当は本土になんて行きたくなかった」
「え?」
「私、果乃とキャンディー・クルーズを続けていたかった」
「……妃芽花、何言ってるの?」
「私は果乃とずっと島に残りたかったの。でも、ママが勝手にオーロラ・ドミナントに応募して、勝手に本土の高校を選んだの」
にわかには信じられない話である。
「私はキャンディー・クルーズを続けたかった。それなのに、ママに反抗できなかった私が悪いの。果乃に嫌われちゃったのはその罰だよね」
――違う。そんなはずはない。
だって、妃芽花は陰で私のことを「ただの引き立て役」だと言っていたではないか。
妃芽花は、私のことを見下しているのだ。
島を出て、私との悪縁が切れたことで清々としているはずなのだ。
それなのに妃芽花は――
「果乃には嫌われてるだろうけど、私には果乃しか信用できる人はいないの」
嫌ってはいない。ただ、妃芽花の言うことは信じられない。
「私、今の事務所辞めて独立しようと思ってるの」
信じられない。オーロナ・ドミナントの大椿妃芽花は順調にスターダムを駆け上がっている。
なぜこのタイミングで事務所を辞める必要があるのか。
「ねえ、私、もう一度果乃とアイドルをやりたい」
絶対に信じられない。
妃芽花は、口から出まかせを言っているに違いない。
さらに妃芽花は信じられない提案をする。
「果乃、キャンディー・クルーズを再結成しない?」
「……妃芽花、何考えてるの? 目的は?」
「目的? そんなの決まってる」
妃芽花はスッと手を伸ばす。
そして、私が所在なさげにテーブルの上に置いていた手に、自らの手を重ねる。
「天下を取るため。果乃、約束したよね? 絶対に二人で天下を取るって」
これで第3章「容疑者=メンバー」が終了です。
10万字完結を目指して、実際には15万字で終えるというのが連載開始時の目標でしたが、まさにそのとおりになりそうです(笑)
ストーリー作りの基本は、起承転結ですが、本作は、
第一章……起
第二章……転
第三章……承
第四章……結
となっているかと思います。第三章は基本的にはメンバーそれぞれの過去にスポットを当てた偶像劇です。
しかし、ただの偶像劇ではありません。それなりに大きな仕掛けを忍ばせています。それに気付かれた方は、犯人が誰か分かったのではないかなと思います。
第四章は、怒涛の伏線回収になります。タイトルは「残された者たち」にします。
反応くださる方が多くてとても嬉しいです。
もうしばらくお付き合いください。よろしくお願いします。




