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VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
容疑者=メンバー
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成瀬真央李

「トシ君、大事な話があるの」


 トシ君とは同棲を開始して、ちょうど一年が経とうとしていた。

 見た目どおり優しい人で、記念日には必ずサプライズを用意してくれる素敵なカレシだ。


 生活力もある。



 「大事な話」というフレーズに、トシ君はやはり敏感に反応する。


 流しで皿洗いをしていた手を止め、私がいるテーブルの方を振り返る。



「……何?」


 心苦しいものの、すでに私は決意していた。



「トシ君、私と別れて欲しいの」


「……どうして?」


「私、アイドルになりたいの」


 トシ君は、私が昔からアイドルに憧れていることを知っている。

 そもそも、トシ君もアイドル好きであり、その延長としてメイドカフェに通っていたのだ。


 そこでメイドをしていた私と出会い、交際に発展したのである。



「……具体的に決まってるの?」


「うん。もうオーディションには合格してる」



 トシ君なら、私の想いを理解してくれると思った。


 私のアイドルへの情熱も、アイドルの恋愛禁止ルールについても十分に理解しているはずなのだ。



 案の定、トシ君は、しばらく考えたあと、


「それじゃあ、仕方ないね」と言ってくれた。



 トシ君も、私同様、結婚を考えていたはずである。


 それなのに――


 やっぱり、トシ君は優しい。



 お別れの夜は、これまでの感謝をお互いに伝えながら、朝まで愛し合った。



 恋愛禁止ルールは、私にとって、奇怪なものでしかなかった。


 アイドルは仕事であり、恋愛はプライベートだ。



 アイドルの仕事を立派にこなせていれば、プライベートをどのように過ごしていたとしても自由ではないか。



 それに――



 女の子にとって、恋愛は生きる糧なのだ。


 仕事を頑張る活力になる、というだけではない。



 男女の賃金格差が深刻な日本社会においては、女性は、普通、結婚して相手に養ってもらうことでしか、生きていくことができない。



 恋愛こそが、女性が生きるための手段なのに、アイドルにはそれが禁じられるというのは、一体どういうことだろうか。


 ペットのように、首輪に繋がれ、飼い主にエサを与えられない限り死んでしまうような、そんな庇護の対象に押し留めておきたいとでもいうのか。



 ジャポネに加入して間もない頃、ベテランの男性マネージャーに訊いてみた。



「どうして恋愛をしちゃダメなんですか?」


「だって、女の子は恋愛したらそればっかりになっちゃって、仕事に集中できなくなるだろう」


 これはこの男性マネージャー個人の見解なのだが、おそらく、世間的にもこのような理解が主流なのだと思う。


 それを、綺麗に加工して言い直したのが、「アイドルはみんなの恋人だから、誰か特定の誰かのものにはなれない」となるのだろう。



 「日本人男性の処女崇拝による」などと言われるよりは、納得する部分はある。


 とはいえ、「女の子は恋愛すると仕事に集中できない」というのは、偏見だ。そういう子もいないとは言えないが、少なくとも、私はそうではない。仕事とプライベートを切り分けることができる。



 それでも、初めてのアイドル経験だったし、それは私にとって夢の舞台でもあったので、私は、恋愛禁止ルールに反抗するようなことはしなかった。


 そもそも、そのために、トシ君とも別れたのである。



 惨めな思いもいくつもした。


 高校の同級生何人かと飲みに行った時には、ガールズトークに少しも入っていけなかった。


 すでに子どもを産み育てている同級生からは、「真央李は純真無垢なアイドルちゃんだからね」と鼻で笑われた。



 アイドルになっても性欲が無くならないわけではなかった。


 仕事帰りに、ライブハウスの近くにあるアダルトショップで、こっそり自慰行為のための道具を買うこともあった。



 それに――


 ジャポネの先輩メンバーに、ファンにはバレないように、しかし、メンバーやスタッフ間においては公然と異性交際をしている者がいた。


 そのメンバーを介して、私は、メン地下との合コンに誘われたこともある。



 そのメンバーこそ、まさに、恋愛にかまけて仕事が疎かになってしまっていないだろうか。



 そこで、ベテラン男性マネージャーに訊いてみたところ、「あの子は人気あるから」という回答だった。


 身内のことを悪く言いたくはないが、スタッフとファンに媚びるのが上手いだけで、アイドルとしての能力は低い子である。



 当然、腑に落ちなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] こ、こいつぁ複雑すぎるぜ。 せめてストーカー化したファンに(アイドルやその彼氏が)不意打ちで刺されるリスクを減らすためとかって言い訳にしなさいよPさん(;'∀') でもってね、バレなきゃえ…
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