真央李となずな
面接会場は、ビルの一室だった。
指定された階の指定された部屋までいくと、ドアの表札に「貸し会議室」とあった。
てっきり、芸能プロダクションの事務所かと思っていたので、少し肩の力が抜ける。
インターホンを鳴らすと、女性二人が迎えてくれた。
強面の男性が出てくる可能性を想像していたので、やはり拍子抜けだ。
二人は、それぞれ新家風華と楠木なずなと名乗った。
部屋の内装に関しては、私の想像どおり、というか、想像以上に、オーディション会場っぽかった。
部屋の奥側に長机と椅子が二台。部屋の手前に椅子が一台並べてある。
思い返してみると、前世での面接会場もこんな感じであった。あの時は生意気にヒップホップダンスなんかを披露したんだったか。
私は、審査役の二人が座るのを待ってから、「失礼します」と言って、私は手前の椅子に腰掛ける。
「成瀬真央李ちゃん……元々は名古屋でアイドルをやってたの?」
キャップを被った女性――風華が、私が事前に送った履歴書に目を通しながら言う
「はい。『ジャポネ』っていう、地下だとそこそこ有名なグループなんですが……」
「私は知ってるよ。真央李ちゃんのことも知ってる。『柊木真央李』っていう芸名で、水色担当だったよね?」
なずなが見事に言い当てる。
見た目からして、おそらくこの子もアイドル経験者なのだろう。
やりとりはこの程度で、すぐに実技審査に移った。
ダンスには自信があった。五歳の頃からずっとやっている。
私が踊り終えると、案の定、審査役の二人から大きな拍手が送られた。
「真央李ちゃん、すごい」と風華。
「私、見入っちゃった」となずな。
好感触である。
これで無事にメンバーに迎えてもらえるだろうか。
「真央李ちゃん、一つ訊いても良い?」
「はい。なんでしょう?」
「真央李ちゃんのダンスはVRより生の方が生きると思うんだけど、真央李ちゃん、どうしてVRアイドルに興味を持ったの?」
なずなの質問は、覚悟していたものだった。
今のVRの技術がどの程度なのかは分からないが、一定程度、私の表現の幅を制約してしまうことは事実だろう。
しかし、私には、実物アイドルを続けられない事情があったのである。
「……男です」
「男?」
「はい。VRアイドルには恋愛禁止ルールはないですよね? だから、私はVRアイドルに応募しました」




