写し鏡
今日は、ユウキの中の人である真央李も、遅刻せずにレッスンに来ていた。なずなの死の翌々日なので、真央李にも緊張感があるのかもしれない。
「はい。じゃあ、まずはウォーミングアップもかねて、四拍子で。一、二、三、四……」
真央李、凛奈、珠里の三人が、風華の手拍子のリズムで、動きを揃えて踊る。
近くで見ると迫力はあるのだが、それでも、寂しさが否めない。
――なずな一人がいないだけで、こんなにも違うのか。
前回、私がレッスンを見に来た時には、なずながいた。なずなも、汗をかきながら、他の三人と一緒に踊っていたのである。
今、私の目の前で繰り広げられている光景は、空虚そのものだ。
なずなを欠いたダンスレッスンなど、できれば見たくはない。
――しかし、目を逸らすわけにはいかない。
目の前で踊る、真央李、凛奈、珠里――この中になずなを殺した犯人がいるのだ。
昨日、私は、風華に、一昨日のライブ映像を見せてもらうようにお願いした。
アイラッシュのライブ後には、その日に披露した曲のうち一曲がYouTubeにアップされるのが通例だ。
一昨日のライブからもすでに一曲がアップされていたが、それはオープニングでやった「ワクワクjoy」だった。
もっとも、YouTubeに公開されていなくとも、プロデューサー兼マネージャーである風華は、通しのライブ動画を持っているはずだと思ったのだ。
「アイラッシュ関係の動画はここに入ってるよ」
私の読みは当たっていて、風華は、私に、Google driveの URLを送ってくれた。
そこに、過去のライブも含め、アイラッシュの全てのライブ映像が格納されていた。
この貴重な「映像倉庫」へのアクセス権をもらえたのも、私が、新シオン候補だからに違いない。
私は、家に帰ってから、なずなが殺された日のライブ映像を見返した。
その映像に、なずなが毒を飲まされた瞬間が映っているに違いないと思ったからである。
しかし、犯人はよほど上手くやったのだろう。繰り返し確認しても、犯行の瞬間は、映像には表れていなかった。
――おそらく、何らかのトリックを使ったのだ。
ライブ映像は、あくまでもVR映像である。それは、現実の「写し鏡」であり、現実そのものではない。
極端な話をすれば、たとえば、中の人が包丁で刺されたとしても、VR画面においては、包丁も、血も映らない。
VR画面に映るのは、衣装を着た二次元のアイドルと、マイクだけ。それ以外のものは、全て捨象されてしまうのである。
何らかのトリックを使えば、VR画面に映らないようになずなに毒を飲ませることは可能だと思う。
何らかのトリック――それは今のところ分からないが、どのようなトリックを使ったのかは二の次である。
大事なことは、犯人を特定することなのだ。
キュッキュッと運動靴を鳴らしながら、三人は踊り続ける。
壁一面に張られた鏡がもしも「真実を写す」ものだとしたら、この見目麗しい三人のうち、誰が悪魔として写るのだろうか。
三人とも、一見すると、とても殺人犯には見えない。
ユウキの中の人――真央李はカラッとした性格で、殺人という陰湿な行為に似つかわしくない。
スミレの中の人――凛奈は、達観していて、自らの欲を優先して他者を殺めるタイプには思えない。
ミマの中の人――珠里は、小心者で、人殺しなどという大層なことをする度胸はなさそうだ。
――しかし、騙されてはいけない。このうちの一人は、非情な悪魔なのである。
まだまだ情報が足りない。
新シオン候補の立場を使い、三人に個別にアプローチをする必要があるだろう。




