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VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
LAST DANCE
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お祝い

「祝賀会にならなくてごめんね」


 最近流行りのハムスターを模したキャラクターもののエプロンを着たなずなが、謝罪の言葉で私を出迎える。


 お出迎えはやはりハグだろうかと、期待していた私は、複雑な気持ちになる。



「いえいえ。私の実力不足で」


と言いながら、私は玄関でスニーカーを揃える。すでに玄関に置かれているパンプスを見て、なずながいつも履いているやつだ、と少しテンションが上がる。



 今日は、はじめてなずなの家にお呼ばれをした。これまではなずなが我が家にやって来ていたので、今回は逆のパターンである。



 清澄白河駅では、はじめて降りた。


 名前のイメージから想像していたような高級住宅街ではなかったが、夜なので閉店している店が多かったものの、お洒落なカフェが多く、私が住んでいる学生街とは違い、大人びた街だなという印象である。


 そして、なずなが住んでいるのも、モダンで洗練されたデザインの、新築アパートだった。



「ううん。かのちゃんの実力不足なんかじゃないよ。かのちゃんの実力はみんな認めてたけど、ちょっとした内部的な事情があってね」


 アイラッシュのメンバーとカラオケボックスに行った時、ようやくなずなとLINEを交換した。


 今日、なずなの家に呼ばれたのは、LINEで、私の加入は「保留」という、今日のミーティングの結果を報されるのと同時であった。


 「保留」と報されてガッカリしたことは紛れもない事実だが、なずなの家に呼ばれたということが、私にとって、それを補って余りあることだった。


 推しメンの中の人であるなずなの家に呼ばれることは栄誉である。



 それに――


 カラオケボックスでのことがある。



「……かのちゃん、今はやめておくね。みんな見てるから」


 久々に大学に行けたのに、私の脳内では、あのシーンが幾度となく繰り返され、授業の内容は少しも頭に入って来なかった。



 あの続きを期待してしまうのは、不適切だろうか。



 私は、今まで推していたアイドルを含めて、今まで私が同性に対して抱いたことのない感情を、なずなに対して抱いてしまっている。


 その正体は、私の中でもハッキリしていない。



 ただ、仮になずなが望むのであれば、私の中で覚悟はできていた。



 清澄白河に向かう電車の中でもずっとそんなことばかり考えていたため、なずなの部屋に案内された私は、想定外のサプライズに見舞われることになる。



「……なずなちゃん、これって……」


「全部私の手作りだよ」


 座卓に並べられていたのは、久しく見ることがなかった家庭料理だった。


 人の手でちぎられたレタスのサラダ、飴色の玉ねぎが浮かぶコンソメスープ、具材がゴロゴロした肉じゃがである。


 玄関でなずなのエプロン姿をハッキリと認識しながらも、私はこの展開を予期していなかったのである。



「あんまり時間がなかったから適当なんだけど」


「……むしろ良いの?」


「むしろ?」


「私、アイラッシュのメンバーになれなかったのに、こんな手作り料理だなんて……」


 なずなは、うふふと笑う。



「やっぱりかのちゃんって反応が可愛い。手のかけようがあるな」


「やめてよ……」


「うふふ」


 座卓の上の光景で、私をドキッとさせたのは、手作りの食べ物だけではなかった。



「なずなちゃん、その飲み物って……」


「楠木なずな特製のサングリアだよ」


 座卓には、赤い液体に果物が漬けられた瓶が載っているのである。

 そして、その隣には、グラスが二つ重ねてある。



「……サングリアって、たしかお酒だよね?」


「うーん、どうだっけ? 甘いからジュースじゃないかな?」


 ニヤニヤしながら、なずなは首を傾げて見せる。

 それは自白に等しかったが、この場には、注意をする年上のプロデューサーはいなかった。



 私は、大学の新歓以降、過去に何度かお酒を飲んだことがある。好きというほどではないが、嫌いではなく、少し陽気になって口数が少し増えるくらいだ。



 それよりも、なずながお酒を飲む、ということが、私をドキドキさせる要素だった。



 否が応でも、カラオケボックスの続きを期待してしまう。



「まあ、かのちゃん、座ってよ。今日は、少し遅れたけど、私たち二人の出会いをお祝いしようね!」



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― 新着の感想 ―
[一言] こ、これは……食べられちゃうのかな(意味深
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