第十九話 エピローグ
被害地域、芋虫型巨大ルシアニウム墜落地点から、半径10km。死者、行方不明者、述べ約2万人。うち、東京蒼穹学校生徒、15名。
東京を襲った災害は、大きな被害を出しながらも、一旦の終結を得た。
行動不能に陥ったゴリラ型のルシアニウムは、軍が回収。研究所へ運ばれた。バリケードで一応隔離していた他のルシアニウムたちは、日本軍の介入もあって5日間で殲滅に成功。現在は復興のためかず多くの人々がその地域に入っている。
「優一、起きた?」
あの事件から1週間後、彼、鈴支那優一は、小鳥の家のキッチンにいた。
ココアの匂い。両腕を枕に、彼は眠っていたようだった。よだれの跡が手についていた。
「・・・ちゃんと洗ってよね、汚いから」
若干引き気味に呟く水谷果穂。彼女の手には二つの湯気の立つマグカップ。
鈴支那は流しに向かい、腕に水を流す。
その間に椅子に座った水谷は、マグカップに口をつける。
「・・・今日も眠れないのか?」
今日は彼女が退院した日だ。最初に一度入院した時は、1日だけで良かったが、なぜか今回、6日間も入院していた。医者の話によると、筋肉の疲労、すなわち筋肉痛が異常だという。もはや筋繊維はズタズタで、レントゲンでも筋肉が切れているのがわかるくらいに。しかし、6日でその傷はすっかり癒えていた。医者は、信じられないが事実だ、と言っていた。
「眠れないっていうか・・・目が覚めちゃった。久しぶりの我が家だから、ぐっすりできると思ってたのに」
彼女は小さく息を吐いた。やだなぁもう、と。
テーブルを挟んで、彼女の向かいの椅子に座る。
「優一」
名前を呼ばれた。別に二人しかいないのだから、おいとか、そういうので反応するんだけど。
「如月さんとは上手く行ってる?」
「・・・いや」
「恋人とかそういうのじゃなくてさ、単純に友達として」
「それなら・・・まぁ」
我ながら歯切れの悪い返答だと思った。如月さんとは学校で時々喋る仲。多分佐藤との方がよく喋っている。
「クラスの方は大丈夫?・・・その、いろんな意味で」
やたらと質問してくるな、と思った。そして、そのいろんな、と言う意味が簡単にわかってしまった。
葬式が行われた。被害者は十五人。
その数とは裏腹に、葬式はみすぼらしいものだった。人一人が死んだのなら、それはかなりの大ごとだ。そして10人死ねばそれは10倍の大事だ、とはならない。
むしろ1/10になると言うのは暴論だろうか。
人が同時に死んだ数によってその悲しみは薄れていく。現実味がなくなるというのもあるのかもしれない。
ともかく、それはみすぼらしいものだった。
葬式に出席しなかった生徒もいた。それは恋人であったり、親友であったりをなくした人。その中に矢部真哉花も含まれていた。
クラスの空気はこれ以上なく重い。
「まぁな・・・大丈夫だ」
鈴支那は言葉を濁した。そしてこれ以上その光景を思い浮かべないようにと、違うことに思考を移そうとした。
「それより、一つ信じられないことが起こったんだ」
鈴支那は話を強引に変えた。
「まさかとは思うが、ルシアニウムに助けられたんだよ。感情がないって言われているあいつらに」
それは冗談のようなものだった。普段は家族にそんな話はしない。でも今は何か不安を隠したくて、喋ってしまった。
本当にあの時のルシアニウムはなんだったんだろう。チーターは何を考えていたんだろう。どうして僕を助けたのだろうか。それは全くわからない。
沈黙が続いた。冗談の雰囲気を出したのだから、果穂だってそれをわかってくれていると思うんだけど。
「果穂?」
「え?ああ、うんそうだね・・・すっごいよね・・・」
声が縮んで行った。戸惑っているように感じた。
「どうした?何か・・・」
「なんでもない!それより・・・それより・・・そう、次の女見つけないとね!早く結婚して子供見せてよね」
それはあまりにも強引で、不自然で。
でもあまりにもあからさまに話題を変えられたから、何も問いただせれなかった。僕の悪い癖だと思った。だから大切なことがわからない。大切だと思うことが、聞き出せない。
「ああ、そうだな・・・」
僕は諦めて、返事をした。
安心したように、果穂は笑った。隠したいことが隠せて安堵していた。
僕はその笑顔を、信じたいと願ったけどできない。でも、でも僕は、その笑顔をずっと見ていたいと感じていた。




