おばあちゃん
日曜日の朝。
おばあちゃんの声で目をさました。
おばあちゃんは退院してからずっと寝たきりで、ひとりではまだ立つこともできない。そのおばあちゃんの世話、今日は私がすることになっている。
眠い目で時計を見ると、まだ七時前である。
――せっかくの休みだっていうのに。
覚悟はしていたのだが、いざやるとなるとやはり不満が出てくる。
みんな、お母さんのせい。朝早くからバス旅行に行ってしまったのだ。
「ねえ、連れていけないの?」
「友達がいっしょでしょ。それにおばあちゃんがいたら、ゆっくり見物もできないしね」
「どうしても?」
「お願い。夕方には帰ってくるから。ねっ、たまにはいいでしょ」
お母さんにおがみたおされて、引き受けたのが大まちがいだった。
私はしぶしぶ起き上がった。
まずは、おばあちゃんの朝ごはん。そのあとにはオムツがえが待っている。
時々は手伝っているので、世話の仕方はいちおうわかっている。でも手伝うのと、ひとりでやるのでは大ちがい。
やっぱり大変なのだ。
歯が二本しかないおばあちゃん用の特別メニューができあがった。
スプーンを使って離乳食を食べさせてあげる。
――かわいいなあ。
おばあちゃんのあいらしい顔を見ていると、さっきまでの不満は不思議とどこかへ消えてゆく。
――おばあちゃん、ゴメンね。
私はすまない気持ちでいっぱいになった。
なぜなら……。
おばあちゃんはだれよりも私をかわいがってくれていた。私が赤ちゃんのときから……。
――あの事故さえなかったら……。
一年ちょっと前のことが思い出される。
それは突然だった。
おばあちゃんは交通事故にあい、そのまま病院で死んでしまったのだ。
お母さんはクローン再生申請をした。
そしてそれは認められ、すぐさまクローン再生手術がおこなわれた。
その日からおばあちゃんの細胞は、人工子宮の中で分裂を繰り返し成長していった。
十カ月後。
おばあちゃんはひさしぶりに家に帰ってきた。だから今は、生まれて半年にもならない赤ちゃん。
おばあちゃんの朝ごはんが終わった。
おなかいっぱいになったのか、おばあちゃんがかわいい笑顔になる。
――がんばらなくっちゃ。
私は次のオムツがえにとりかかった。