廃寺の預かりもの 5篇
夜が明けまして店の中を片付けます。
颯の立ち回りが上手かったこともあり、品が棚から多少落ちている程度で済んでいました。
大きな被害は、店の鎧戸くらいで済んでおります。
「こりゃ、派手にやられたもんだな」
大工の棟梁がツネを連れて、店の様子を見に来て下さいました。
「颯が上手く立ち回ってくれたもので、中は掃除するだけで済みそうです」
「戸の方は、建具屋に話しておいてやるからよ」
「ありがとうございます」
「なんだ。気落ちしてるみたいだが、何かあったか」
「いえ……大丈夫ですよ。戸の方は、お願いいたしますね」
「そうかい。また来るよ」
そう言われて店を後にされました。
棟梁に言われた通りでございます。
小僧の頃からお世話になっていたお人を亡くし、しかし、その最後は何かに狂わされたようで、許せない気持ちもございます。
「旦那さん。あっしらは、そろそろ山へ帰ろうと思っております」
遠慮がちにタヌキのカンが声をかけてきました。
「そうかい……そう言えば」
私は懐に入れていた、印章を思い出しました。
琉夏の珠と共に入れている巾着を取り出しますと、中から印章を取り出しカンの前に差し出しました。
「これを探していたのではないのですか」
「そいつをどこで」
「あなた達が栗林に向かった後、囲炉裏のある部屋でボロに包まれたこれが落ちていたそうですよ」
私の言葉に思案していたタヌキのカンが、合点がいったのか手を叩きますと、表情が明るくなります。
「そうでした。埋めたままではと思い、ボロに包んで持っていたのでした」
昨日の探索は、無駄ではなかったのですが、骨折り損ではあったようです。
「ボロの方も洗っておきましたから……お蜜。昨日のボロはどうしたね」
店先の片付けを手伝っていたお蜜に声をかけました。
「ボロなら乾いていましたから、畳んで引き出しに……今、お持ちしますわね」
店の奥へと行ったお蜜が、畳まれた布を手に戻ってきました。
「こちらです」
洗われる前は小汚いボロだと思っていたものも、白く光沢のある絹のような布となっています。
それを受け取って広げてみますと、お初と颯がぎょっとした顔をこちらへ向けておりました。
「それは……印璽大神様の」
「あんたたち。なんて物を廃寺なんかに置いてたのさ」
二人とも小上がりの方へと歩みより、私の手の布を驚きの顔のまま見ております。
では、印章の方も何か謂れのあるものなのでしょう。
もしかすると、その神気とでもいうのでしょうか。それの残り香のようなものをまとうタヌキのカンを、異形と化した青山様も執拗に追っていたのではないでしょうか。
そんなことを思いつきましたが、真相に辿り着く術は既にありません。
「これはお前たちでは、荷が勝ちすぎる」
颯も焦りのような顔をして、タヌキのカンとカワウソのヒヤに詰め寄ります。
「わちきたちは、預かりもんを持ってただけやん。そんな顔されても……。」
「いやいや。印影によっては、とんでもない神器だが……お凛はダメだな」
誰かに預けた方が良さそうだということが分かります。
「祇園様ならどうですかね」
先の百鬼夜行で知り合った美丈夫の祇園様。
お初や颯、お蜜に住職までもが畏れるほどの御方です。こういった神器を預けるには良いと思い至りました。
「祇園様へお預けになるとしましても、いつになることか分かりませんからね」
颯も難しい顔をしております。
「弥兵衛さんに持っていてもらえばいいだろう」
お初はそう言って、私に笑いかけました。
「播州屋には、私もあんたもいるんだ。そうそうに盗られることもないだろう」
颯の肩を叩いて、カンとヒヤの方に目を向けます。
「また、あんなのが来たら、あっしらじゃ、これを守れません」
「そうだね。わちきたちじゃ、逃げるので精一杯よ」
「なら、決まりだね。弥兵衛さん。しばらくそいつを預かってくださいな」
「それは良いですが、こいつはなんなのですか」
「印璽大神様の印章です。印章に彫られた内容によっては、大抵のものが思いのままになると言われています」
颯がそんな恐ろしいことを言いました。
「そんな大層なものを預かるなんて……住職じゃだめなのですか」
慌てて住職の名を出してみますが、颯もお初も苦い顔をします。
「凛はなぁ……。」
「欲の権化と言っても過言ではないからな」
ひどい言われようですが、思い当たる節は確かにありました。
「分かりました。私が預かりましょう。でも、祇園様にお会いしたら、そちらで預かってもらいますからね」
「それで良い。それで良い」
「わちきもそんなおっとろしい物なんて、持ってたくないわ」
私も持っていたくはないのですがね。
流石に、お初と颯の手前、口には出せませんでした。
カンとヒヤの探し物も見つけられて、一つは落着しましたが、やはり気になるのは青山様を豹変させたモノの存在でございます。
どこまでできるかは分かりませんが、皆の力も借りて、何としてでも探す。そう、心の中で強く思いました。




