17話
そこはいつもの聖域の森であるが、ジョンの姿は見えなかった。
そして森は、やはり鳥の鳴き声が聞こえず、重い空気が漂ったままであった。
「空気が重い……」
「はい……」
私はレオン様に薬を入れたケースを持ってもらい、私達は森の中を歩いていく。
レオン様は両手が塞がっているので、私を背負ってくれると言ったのだけれど断った。
森の民の集落にたどり着くまでの、森の世数を知りたかったのである。
森の中を歩いていくと、自然に生えている魔法植物の元気がない。そればかりか、森の中に青い炎の薔薇がいくつも咲いているのが見えた。
「かなり……青い炎の薔薇の分布が広がっているように思えます」
「そうだな」
私はしゃがむと、土や、枯れた木の皮なども採取しておく。
何事も多角的に考えていかなければ。
私は鼻をスンスンと鳴らす。
「なんだか、森の匂いも変わりましたね」
「森の匂い?」
「はい。湿った土と落ち葉の匂い、そこに青い炎の薔薇の匂いがまとわりつくように広がっています」
レオン様が鼻を鳴らすが、首をひねる。
「私には、分からないな」
「そう、ですか?」
「あぁ」
そんな会話をしながら私達は歩き、そして森の民の集落が見えてきた。
周囲には松明が灯されており、こちらの姿を見たルッソさんが手をあげた。
「シャーリー! レオン! おかえり」
「ルッソ。ただいま帰った。リリー嬢の具合はどうだ。あと森は?」
「帰ってくるのが遅くなってごめんなさい」
「二人が来てくれると、ほっとする。ありがとうな」
ルッソは笑顔でそう言うと、メルバ様の家に向かって歩きながら口を開く。
「リリーは……うん。だいぶ良くはなっているが……気になることがある。これは、また後で話をする。森の外に今は出ないで、周囲を見張っている状況だ」
「そうか」
「リリーお姉様に何かあったのですか?」
私がそう尋ねると、ルッソは眉間にしわを寄せたあとに首を横に振る。
「いや。俺が、気になるだけだ。気のせいであれば、いいんだがな」
「?」
何があったのだろうか。
私はルッソの言葉に不安を覚え、歩く足取りが早くなる。
リリーお姉様に何かあったのだろうか。
メルバ様の家に入ると、中にはリリーお姉様とメルバ様の姿が見える。
私は家へと入ったその瞬間、動きを止めた。
「シャーリー。レオン。良く帰って来てくれた。さぁこちらへ」
「シャーロット! レオン様。気て下さってありがとう」
お姉様は顔色もよく元気な様子でメルバ様の向かい側に座ってる。
レオン様は先に家の中に入ると、戸棚に持ってきたカートを置き、二人と向かい合うように腰掛けた。
ただ、私は入り口から一歩も動けないでいた。
「シャーロット?」
お姉様に名前を呼ばれた瞬間、背中にぞわぞわと鳥肌が立つ。
おかしい。
メルバ様の家の中は、甘い青い炎の薔薇の香りで包まれていた。
ただ、今ここでそれを言うのは憚られて、私は気を取り直すとレオン様の横に腰掛ける。
「お姉様、体調はどうですか? 顔色はいいようですが」
「大丈夫よ。なんだか、本当に私、魔女の呪いを受けたのかしら? 元気なのよ」
笑顔でそう言うお姉様。
本来ならばよかったと喜びたいところなのだけれど、お姉様が喋るごとに、私はぞわりとした気配を感じる。
「体調を見せていただいてもいいですか?」
「もちろんよ」
私はお姉様に横になってもらうと、魔女の呪いの具合を見ていく。
その色は以前よりも濃くなり、広がっている。ただお姉様自身は元気だと言う。
私は表情に出さないようにしながらメルバ様に告げた。
「他の体調を崩している人は出ていませんか?」
「あぁ。今は森に入ることを禁じているからな。念のため、森の民皆に魔女の呪いが体内に入っていないか、魔法植物を使い試してみたが問題はなかった」
「そうなのですね」
私はほっとしながらルッソとメルバ様に言った。
「森の民の様子を一緒に見に行ってもいいですか? お姉様は、どうか横になって休んでいてください」
お姉様と離れて話がしたい。
私はそう思い口にすると、お姉様が口を開いた。
「では、レオン様はここに残って、青い炎の薔薇の魔女について、分かったことを私に教えてくれますか?」
その言葉に、私は一瞬動きを止める。
じっとレオン様を見つめるお姉様の視線。レオン様は視線を返すと笑顔でうなずいた。
「もちろんだ。シャーロット、姉君のことは、任せてくれ」
私は一瞬迷う。
けれどそんな私を安心させるように、レオン様が小さくうなずく。
私の意図をくみ取ってくれたのだろう。私は小さくうなずき返すとお姉様に気付かれないように表情を崩さないように心がける。
「わかりました。ではちょっと行ってきますね。ルッソ、メルバ様、いいですか?」
二人は立ちあがるとうなずいた。
「もちろん」
「皆もシャーリーの姿を見たら安心するよ。リリー。あまり無理せずにね」
「はい。三人ともいってらっしゃい」
私達は外に出ると、森の民の皆に挨拶をしていく。
私は森の民の集落の端のほうまで移動をすると、森の様子を見つめた後に、二人に向き直った。
二人も足を止める。
「……リリーお姉様の様子を教えてください」
メルバ様は私の言葉に眉間にしわを寄せた。
「リリーの? それは、どういう……もしやルッソがリリーの様子が気になると言っていたのと、関係が?」
ルッソの方へとメルバ様が視線を向ける。
ルッソは私の方を見るとこちらを探るように、呟く。
「俺のは……本当に気になる程度なんだ。だから明確な何かがあるわけじゃない……ただ……リリーの中
に、リリーじゃない何かが見え隠れするんだ」
その言葉に、私は先程の異変を思い出す。
部屋の中に充満していた甘い香り。それは、明らかに青い炎の薔薇の花の香りであった。
メルバ様がルッソの言葉に言った。
「私はそれが分からなくて……リリーはいつもと変わらないように感じるが」
「いや、俺も……違和感はほんの少しなんだよ」
私は、少しの間考えた後にある可能性について、二人に話すことにした。
これは、ロムア様が教えてくれた情報を元に考えたことだ。
「レオン様が、青い炎の薔薇の魔女についてフォーサイス王国のクラーク公爵家に問い合わせ色々と調べてくださったのです。それによると」
二人に、知った情報について話をしようとしたその時のことだった。
「わぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!」
ジョンの大きな鳴き声が響き渡り、木々のなぎ倒されるような轟音が響き渡った。
地面が揺れ、私達はその場にしゃがみこむ。
「なんだ!? メルバ様! 状況確認に走ります!」
「わかった! シャーリー! 行くぞ!」
「え!?」
ルッソもメルバ様も動きが速い。
メルバ様に腕を引かれ、私は森の民の集落を走り抜ける。
メルバ様は力が強く足も速い。
森の民の者達はすでに弓矢武器を手にしており、それぞれが何かに対処すべく陣営を整えて言っていた。
―――――カンカンカーン!
緊急の鐘が打ち鳴らされる。
高台にいる者が大声をあげ、皆に知らせる。
「ローレン王国側八時の方角! 炎と黒煙が上がっている!」
高台で見張っていた男性は降りてくるとメルバ様に言った。
「俺も前衛部隊と合流してきます! 見張りを他の者に願いします!」
「わかった! 戦える者は皆前衛に! 子供は見張りと伝令役に走れ!」
一体何が起こっているのか。
次の瞬間、また地響きのような音が鳴り渡る。
―――――カンカンカーン!
すると、先ほど鐘が鳴った反対側の高台が鐘を鳴らす。
「三時の方角! 魔獣を目視で確認!」
メルバ様が声を上げた。
「全員戦闘態勢! 最悪集落を捨てるぞ!」
その言葉に私は目を見張った。
ここしばらく体調を崩しており、更新予約が出来ておらず、更新遅れてしまいました(/ω\)
楽しみにしてくださっていた方、すみません!







