16話
朝の日差しで目覚めた私は、ベッドの上で大きく背伸びをした。
「ふわぁぁぁ。良く寝た」
しばらく寝ぼけ眼であった私だけれど、ベッドから下りて鏡の前まで行ったところで昨日のことを想いだし、ハッとした。
鏡に映る自分を食い入るように見る。
「……また、子どもに戻っている」
妖精はときめいた時に戻ると言っていたが、ときめきが終わったら元の姿に戻るということなのか。
私はガックリとした後、気持ちを切り替えて昨日は入れなかったのでお風呂に入り、朝食を食べ、それから温室へと向かおうと思った。
ベッド脇に置いてあったロムア様から受け取ったネックレスをどうするか迷ったのだけれど、それを首から下げる。
お礼だと言われたけれど、白色の輝く石がはめ込まれたそれはあまりに美しく、平凡な品ではないことは見れば分かる。
高価すぎるものだ。だから、次会った時に返そうとそう思っている。
昨日私が作った薬は二種類。それ以外にも、一つの実験を試みた。
薬は二つとも試験的に作った物だけれど、試してみるまで効果は分からない。
一つ目は、体内に入った魔女の呪いを体外へと出す薬。
こちらは植物や動物や人の体内に、魔女の呪いが入ってしまった場合に使うものだ。
青い炎の薔薇は、普通の植物に魔女の呪いが入り込み、その姿が変容している。
それに気づいた時、私は恐ろしくなった。
お姉様も全身に呪いが広がれば、青い炎の薔薇に変容するかもしれないのだ。
お姉様に少量ずつ使用して見て、効果を試していかなければ。
そしてもう一つが、ロムア様の魔力抑制剤だ。
本来魔力とは、その家系の特性がある。特性の違う魔力は反発し合う性質があり、違う魔力同士は相いれない。
だからこそ、ロアム様の魔力に適した魔力抑制剤でないと継続した効果は得られない。この前のように一時的に魔力暴走を止めるだけならば、ひと時はどうにかなるだろうが、今後のことも考えると適した魔
力抑制剤を飲むのに越したことはない。
そしてもう一つ行った実験とは、クラーク公爵家の別邸にて採取した魔法植物から、ロムア様の魔力を抽出するというもの。
抽出後に、別邸にて採取した魔法植物と同様のものを、聖域の森で採取した魔法植物を使い、一つ目の薬を作った。
材料的にはルピタ魔法薬草と数種類の魔法植物を混ぜ合わせたものである。
ただしその薬自体を、青い炎の薔薇は嫌がることがなかった。だが、ここにロムア様の魔力を注入すると、途端に嫌がるようになったのだ。
つまり、魔法植物自体は、聖域のものでも同じ薬が作れる。
ただし、魔女の呪いに聞くのはロムア様の魔力が注入された物のみ。ということだ。
「ということは、ロムア様に協力してもらわなければ……ならないわね」
そう呟きながら私はロムア様の様子を思い浮かべる。
「体調を大丈夫かしら……」
ロムア様に昨日飲ませた薬はレオン様用だ。
緊急の為飲ませたが、本来ならば飲ませるべきではない。
「ロムア様にも定期的に飲んでいただかなくては……」
ただ、昨日のことを思い出すと、おそらくは導かれない限りは扉がクラーク公爵家の別邸へとつながることはないだろう。
何故つながったのか、理由は今でもよくわからない。
ただ、青い炎の薔薇がきっかけだったような気はする。
私は青い炎の薔薇へと視線を移す。
「何か……クラーク公爵家とかかわりがあるのかしら」
魔法具の扉の前へと行って見るけれど、今はいつもの扉である。
色も普通の木の色をしており、氷の結晶のような模様もなにもない。
私は小さく息をつくと、レオン様が来たら一緒に森の民の集落へと向かおうとそう思ったのであった。
レオン様が来るまでの間に、三種類の試験薬の、薬の濃度や配合が違う物を準備しておくことにする。
ラベリングをしっかりと行い、それを運びやすいように、カートに入れておく。
森の民の集落に着いたら、すぐに実験を始めていこう。
そう思っていた時、温室の扉が開いた。
「シャーロット、もう起きて大丈夫なのか? それに体が……」
「レオン様! はい。大丈夫です。体は、また子どもに戻ってしまいましたが」
トキメキが収まったせいですとは言えず、シャーロットは視線を泳がせる。
「そうか。ふむ……早く妖精と話を付けられたらいいのだがな」
「そう、ですね」
妖精達と話をする時には、レオン様がいない時にしなければとそう私は思った。
そうでないと、レオン様にときめいて元の姿にころころ戻ってしまったら、恥ずかしすぎる。
私は話題を変えるために口を開いた。
「レオン様。色々と試験薬を作ってみたのです。なので、聖域の森へと行きたいのですが」
「あぁ、もちろん。私も色々と話を聞いてきた」
レオン様はそう言うと、持ってきた資料を私へと差し出した。
「まずはこちらへと目を通していってほしい。これはクラーク公爵家に伝わって来た極秘のものだ。ロムアに頼んで、見せてもらってきた」
「まぁ。極秘のものを……? 良かったのでしょうか」
「四大公爵家は敵対しているわけではない。それぞれがそれぞれの立場で国を守っている。だからこそ何かあれば協力し王国の為ならば動く。魔女復活は、王国を揺るがす一大事だからな。協力するのは当たり前だ」
自分が王女として学んできたものは表面的なものばかりだったのだなと最近改めて思う。
こうやって公爵家は公にはならずとも様々なことで王国の為に動いてきたのだろう。
私はうなずくと、資料に目を通していく。
「……これは……」
まとめられた資料を読み、私はごくりと息を呑む。
早くこれらの情報をメルバ様や他の森の民にも知らせなくては。
「レオン様、急いでいきましょう」
「あぁ。では、行こうか」
扉のノブを手に取り、ゆっくりと私は扉を開いた。






