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14.家路

 ――今日は、ここまででお別れにしましょうか。


 部屋を予約していたホテルまであと少しというところで、彼女が立ち止まって言った。大きな道路に面してはいるけれど、中心街からは離れているから、周りにはほとんど人もいない。日は完全に落ち、暗く、無機質な白い街灯が、心細げに等間隔に並んでいる。


 ――そうですね。『かすみ』さんが、それでよければ。


 内心ほっとしながら僕がこう答えると、彼女は何も言わず、いくらか困ったような顔をしてから、頷く。そしてしばらく視線をあちこちに向けてためらうような様子を見せた後、バッグから財布を取り出した。


 ――あの、付き合ってもらったから、今日の分は、払いますね……

 ――いえ、もらえませんよ。僕は何もしてませんし。むしろ食事代とか、僕の分を出さなきゃいけないくらいですよね。


 差し出された紙幣をそう言いながら僕が押し戻すと、彼女はいったんそれを引っ込めた後、迷うような様子をまた見せ、結局はもう一度僕に差し出した。


 ――じゃあ、お代じゃなくて、私からの秘密のお小遣いってことにして、もらって。


 僕も迷ったけれど、「分かった」と答え、受け取ることにした。そして「早く帰れるから、妹にも、ケーキでも買ってく」と僕が言うと、彼女はどこか寂しげに、しかしはっきりと笑った。

 予約をした手前行かなければいけないからと、彼女はホテルへと向かうことになり、僕たちはそこで別れた。


 ――お父さんには、心配をかけないようにね。

 ――うん……もらった『お小遣い』は、退職金ってことにする。

 ――それがいいね。


 話を終えて僕が振り返ろうとすると、彼女はためらってから、手を挙げ、それを小さく振った。僕も同じようにして答える。そして彼女に背を向けた僕は、そのまま歩き出した。

 やっぱりどうしようもないのだろうか、と僕は考えた。このままの形では、今日のこと話に使えはしないけれど、何か、きっかけか、きっかけのきっかけくらいにはできるのかもしれない。

 しかしまずは今やらなければならないことを果たそうと、妹への土産を買うために、足を速めた。彼女から遠ざかっていきながら。


<完>

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