ルーゼット視点 12
放課後の生徒会室では、仕事が一段落したレオンが、机の上に手のひらサイズの箱のようなものを置いた。数枚の書類と見比べている。
「やっぱり効くな。リリの〔防御〕の込めた魔道具は」
「何、魔道具って? 聞いてないよ」
「言ってない。セルと三人での共同開発だから」
「詳しく説明してくれる?」
ニコオ~と、何故かレオンと会話していたトーマスが、セルを問い詰めている。
セルが蒼白になる横で、レオンが説明してくれる。
「リリの力も落ちついてきたからな。リリが自分の力は何かの役に立てないかと聞いてきたので、誰にでも使えるように魔道具に力を注ぐ事を提案してみた。セルに相談すると力は守るものだから悪意ある力が効かないように、常に作動できる魔道具を作ってくれた」
作ってくれたって……改めてセルって凄いんだな。
それは自分の管轄外だというように、セルに詰め寄っていたトーマスも、レオンの話に耳を傾ける。
「試しに、学園の人が集まる場所に設置してみた。食堂と図書室、中庭の開放スペースと校庭の計四か所」
うん、レオン。それ職権乱用っていうんだよ。
「そうしたら先程反応があったんだ。食堂と中庭で。食堂の方は生徒が二人。軽い揉め事があって、一人が興奮して攻撃魔法を使おうとしたらしい。それが見事に不発。今は二人共冷静になって落ち着いたと、先程報告に上がってきた。中庭はまだ何の連絡もない。が変わりがない所をみると役には立ったのだろう。精神系の魔法にも効くはずだから。その場所では一般の者も守ってくれる。あくまでそこに悪意が籠っているかどうかだけどな」
「それって対ピンク頭用?」
僕がヒロインの事をピンク頭と呼んでしまうから、マルロスにもうつったようだ。
「まあ、それもあるかな。俺達は個々に防御対策はしているけれど、他の者に使ってないという保証はない。以前にもアーノック・フリーバー先生達には、自分の良さが分かっている的な発言があったし、本人達が幸福ならそれもいいが、そこに悪意があるのなら俺がこの学園にいる以上、そんな力を野放しにするわけにはいかない。これは国王とも話し合った大事にしない為の解決策の一つだ」
確かにお互いの同意なく、どちらかの一方的な感情が働くなら、それは悪だ。そして国王様ともちゃんと相談してくれていたんだね。流石レオン。ただの色ボケ王子になってたわけじゃなかったんだね。
「ただ学内全てに設置しているわけではないからな。ピンク頭同様、どこまで効くかわからないが、人が集まる所での揉め事ぐらいは避けられるだろう」
あ、とうとうレオンまでピンク頭呼び。
「それは凄いね。で、その箱で魔道具が反応したがどうかが分かるんだ。もうすぐ文化祭もあるし、いいね。揉め事をスムーズに解決できるのはありがたいよ」
トーマスがニコニコと笑う。確かに少しでも仕事が減るのはありがたい。それがリリの力かぁ、屋敷に戻ったらリリにお礼を言わないとね。
「ところでアーノック先生っていうと、リリにちょっかいかけていたみたいだったけれどレオン、それはもう気にならないの?」
トーマスがいきなり今まで触れなかった事をズバリ聞く。
一瞬、片頬がピクリとしたレオンだが、王族スマイルが炸裂した。
「ナンノコトカナ?」
うん、分かってる。それは禁句なんだよね。
「まあ、僕はレオンがよければいいんだよ。我慢する事はないから、何かあれば僕に言ってね」
ニコリと笑うトーマスが少し不気味だ。
苦笑をもらしたレオンにセルがたずねる。
「リリに負担がないならもう少し魔道具増やす? 文化祭当日にも置きたいし」
「そうだな、魔道具はどれぐらい作れる?」
「えっとね……」
レオンとセルは魔道具の話に戻っていった。
人が集まる楽しい場所には、争い事もおきる。それを少しでも阻止出来るのなら、リリには頑張ってもらいたいな。あの病弱だったリリが人の役に立つ。凄いな。
「……ところで、本当にリリを文化祭に呼ぶ気なの?」
セルと話していたレオンが振り返る。
「俺の婚約にはまだ反対の者もいるから、余り人前には出したくないが……リリは俺の都合で学園に通う事が出来ない。だからせめて、楽しそうな行事の一つでも参加できたらと思ってさ」
レオンの婚約者なんておいしいポジション。国内の貴族のみならず、他国の人間でも排除してこようとする輩がいるしね。王族と公爵家を敵に回そうとする奴らがまだいるって事実が、頭悪すぎる。それでも……。
「少しだけでも中等部に通えたらいいんだけれど……」
「却下!」
僕の独り言にレオンがくいつく。
「分かってるよ。今の状態で無理な事ぐらい。けど婚約が決まって周りの護衛をもっとたてれば、短期間だけでも通えないかと……」
「俺のいない所で、他の男共に姿を晒すのは断固拒否する」
「え、そっち?」
きっちり一分固まったマルロスが肩を叩く。
「うん、最近のレオンはこういう奴だ。慣れよう」
「……はい」
僕はスゴスゴと自分の席に戻る。
「ところでリリが来るのは二日目ですよね。こちらの調整は整ってるけど、皆の方はどう?」
セルが仕事の確認をする。
「問題ないよ」とトーマス。
僕もマルロスも隣で頷く。
「悪いけど俺はリリが来た時点で離脱。後は任せる事になる」
「分かってるさ。その為に二日目を空けたんだ。本当は一番盛り上がるのは、三日目の後夜祭のダンスパーティー。それにリリを呼んであげたかったけれど、レオンに空けられるのは正直しんどい。二日目なら一日目で落ち着いた分、俺達でどうにか回せるし、交代で付き合う事も出来る。多少騒がしくはあるけれど、楽しんでくれたらいいな」
「そうだな。ありがとう」
マルロスとレオンの会話に耳を傾けながら、僕は心のままにポツリと呟く。
「……僕に取ったら当たり前の事が、リリには初めての事なんだって、最近実感するようになったよ」
「ルー」
は、いけない。僕が顔をあげると四人はしんみりとした表情になっていた。慌てて笑顔を作る。
「僕達にとっても最後の文化祭だ。大変だけれど絶対に成功させようね」
「ああ」
「もちろんだ」
「僕達の王子様に恥をかかせるわけには、いかないからね」
「自分達も少しは楽しめるように頑張ろう」
僕達は文化祭に向けて意気込みを強くした。




